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第四十五楽章 捜査の包囲網

『帝国未公認通信の時間だ』


「お、はじまったな」


いつの間にか日没になっていた。壁際にある、ミリャーナ自作の受信機が声を発する。

何やら器具をカチャカチャさせながら作業していたミリャーナも手を止める。

いつもアナウンスしているミリャーナがここにいるので、声はネナドのものだ。


『まず、ラドが生きて戻ったことに、礼を言いたい。彼の命を案じ、声を上げてくれたすべての人に感謝する』


聞き取りやすい低く発音のはっきりした声だが、緊張しているのかやや固い。


『彼は静かな休息を必要としている。我々もまた、今は、動く時ではない。怒りも、不満も、正しい。だが、耐えてほしい。俺たちは……』


ぶち、と線が切れた音がした。通信が不自然に途切れる。


「ん?」

「何だ? 何かあったのか?」


ミリャーナが受信機に駆け寄り、点検を開始する。


「受信機は問題ない。となると……」


ミリャーナは指につけている指輪をいじる。見覚えがある。ラドもつけていた兄弟石の指輪だ。ミリャーナは十本の指につけているが。


「今気づいたけど、なんでそんなにつけてるの?」

「オグが捕まってから、幹部や各地の構成員と連絡をとる機会が増えた。単なる伝達の時もあるし、私の場合は取材して、各地の様子を精霊通信で伝えるため」


指輪を改良した結果、付けていれば指の数、十人といつでも連絡をとることができ、その十人がまた十人と連絡をとると、百人と連絡をとることかできるのだという。さらに、指輪は付け替えることもできる。

より大規模な活動をするためにより多くの、広い範囲の人々と連絡をとる必要に迫られたらしい。


「ネナド……は、繋がらない。ラド? 聞こえる?」

「ミリか。まずいことになった」


右親指の指輪からラドの声がした。


「二つある発信機の内、通信中の一つが突き止められ、担当していた構成員が捕まった。すぐに繋いである線を切ったので発信機までたどり着かないと信じたいが、周辺で捜索している。魔玉は没収されたとみて良いだろう」

「どういうことだ? 二つあれば大丈夫って話だったよな。えっと、精度が上がるから、探知機が近づいたら切ってもう片方から発信するって」

「オグか? そうだ。見張りの話では、探知機は東に五千ヤードの位置で止まっていたらしい。ミリの計算だと、その距離からは特定できないはずなのだが」

「……ネナドだ」


左人差し指の指輪が、先ほどまで発信機越しに語り掛けていた声で名乗る。


「良かった。無事?」

「ああ、今のところな。発信機は伸びていた管を回収して、布で覆った。まだ建物は突き止めてないらしい。……それは置いといて、探知機の話だが、別の見張りの話だと、北北西でも見たらしい。四千ヤードの位置にあったとか」


ミリが舌打ちしそうな勢いで悔し気に呟く。


「……三点測量」


ラドとネナドが何やら、「ああ」「そういうことか」と納得しているようdが、オグには見当がつかない。


「待って。さんてーそっくす……? 説明プリーズ」

「地図に使われている方法だ。軍では地形や敵との位置を割り出すために使う。既知の二点の長さと、その両端から基線の両端から測定したい点への角度を測定し、目標とした点の位置を割り出すという」

「?」


ネナドの説明を聞いて、余計にわからなくなった。

ミリは指輪を一つ外して、文机の上に置く。


「これが探知機とする。距離が遠い探知機はせいぜい発信されている魔玉の方角がわかる程度。だから、この範囲に発信源を測定したとする」


と言って、探知機に見立てた指輪から指で一本の線を引く。


「この線上を調べていけばいずれ発信源に辿り着くけど、私たちはこの探知機が近づく前に別の場所から発信する方法をとった。発信している間しか探知機は測定できない。発信中に見つかる可能性はあるけど、捜索範囲が広いから今まで大丈夫だった」

「ふむふむ」

「でもここにもう一つ探知機があったら」


文机にもう一つ指輪を置いて、指で線を引く。二つの線が一点で交わる。


「こうやって、発信された地点を特定することができる」


なるほど。オグは疑問が解けてすっきりしたが、次の瞬間青ざめた。つまり、この方法をとられれば、これから先、発信される位置がわかってしまう。


「魔玉は残り一つ。通信中に中継地点を変えることもできない。次通信を使ったら、恐らく捕まる」


ミリャーナの宣言に、空気が重くなる。指輪の向こうも沈黙しているようだった。


「まあ、使えないものは仕方ない」


切り替えるようにオグは明るく言った。


「今まで便利だったから残念だが、俺たちの活動をアピールするという当初の目的は達成できた。ラドは今、白の国で一番の有名人だぜ」


名指しされたラドが指輪の向こうでふっと笑う気配がした。


「そうだな。兄弟石の指輪もあるし。連絡をとる手段はいくらでもある」


確かに大損害だが、落ち込んでいるミリャーナを元気づけようと、努めて何気なく振る舞う。


「……うん。ありがと」


ミリャーナもようやく顔を上げてくれた。 


「それより活動停止明けに総督の度肝を抜く方法を考えようぜ」

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