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第二十二楽章 犠牲者(えいゆう)のリスト

「塩を作る? なんじゃそりゃ」


仲間内からの評判は散々だった。ようやく行動を起こすと聞いて喜び勇んで来たネナドだったが、その内容を聞き唖然としている。がっかりさせてしまったようだ。


「えー、良いアイデアだと思うけどなー」


オグは唇を尖らせている。

なんて冴えていると自画自賛しているのに、わかってもらえないのだ。塩は調味料だけでなく保存食を作るのにも使っているのに。特に日常的に料理をしない男だと、どれだけ塩を使っているのかあまり気にしてないようだ。


「で、ラドは何してるんだ? 面接?」


家にはラドに会いに来た客たちがいる。あまりにいるので、屋内だけでなく庭に待機してもらっている。ラドは一人ずつ訪れる者たちに会い、必死にメモをとりながら、名前などを記録している。


「一緒に塩を作りに行く仲間を選んでるんだよ」


ラドは白の国を代表する人員を選ぶため、参加者の年齢や出身地、宗教や階級がなるべく偏りが出ないように独自の基準を設け、選抜している。


「全員で行けばいいじゃないか」

「小さな村にこの人数が押しかけても困るだろ。だいたい、政府以外が塩を作ったり、売ったりしたら、法で裁かれるんだぞ」

「ふーん」


仲間は慎重に選ばねばならないというのに、ネナドはイマイチぴんと来てないようだ。


「お前の名前も入ってるのか?」

「俺の名前は除いてくれって拝み倒した。ほら、ラドが捕まったらそのことを伝えなきゃならないだろ?」


ネナドの目が、言い出しっぺのくせに、と言いたげに冷たくなる。


「あんたの名前も入れるつもりないみたいだぞ。ラドが逮捕されたら、変わって民衆を率いてくれってさ」

「ガキが命張ってるのに、大の男に隠れていろと? おい、ラド。俺の名前も入れろ」


必死に名前をまとめているラドに、ネナドが絡みに行こうとする。


ふいに、門のあたりが騒がしくなった。

人垣が割れ、小柄な老人が現れた。身体をすっぽり覆うローブに濃紺の大祭服。首にかかった正十字のペンダント。


「スベティスラフ様」


庭に集まっていた人々が言葉を切り、視線を集中させる。

ラドは帽子をとり、十字を切って恭しく頭を下げた。


「お前、やはり私が洗礼したラドか。イヴァン家の者という時点でもしやと思ったが」


赤子の時から顔見知りらしい司祭は、白いシャツに黒い上着の美青年を、頭のてっぺんからつま先まで視線を走らせた。


「どうしてそんな恰好を」


ラドはバツが悪そうな顔をした。ちらりと視線を走らせ、人目を気にしながら言葉を選ぶ。


「私が私らしくいるためです。帝国が支配しているこの地で、私のような立場の者がどんな目に遭うか、ご存じでしょう?」


司祭は天啓を受けたように目を見開く。


「ああ、そうか……。そうだな。すまなかった」


庭の渡り石を踏み、ラドへと歩み寄る。


「帝国に抗議する運動をしていると聞いた。何か力になれるのではないかと思って」

「勿体ないお言葉です」

「しかし……外国人に渡り人、改宗者。彼らは相応しくないように思えるが」


群衆の顔ぶれ、渡り人のオグにも仇を見るような鋭い目を走らせる。


「スベティスラフ様、そのように仰らないでください。彼らは仲間です。この国は、救世主教徒だけの国でも、男だけの国でもありません。交通の要所たるこの国には、古来より様々な人々が行き交います」


司祭の前に立つ。顎を真っ直ぐに上げ、恭しくも揺るがぬ口調で。


「私は今、名簿を作っています。出身も、性別も、身分も関係なく、一緒に旅をする仲間を選んでいるのです。

私も含め、名を連ねた者を、帝国は真っ先に捕まえるでしょう。もしかしたら、味方の人々の手にかかってさえ、死ぬかもしれません」


ラドは手にした羊皮紙を掲げた。それは、犠牲となる英雄たちのリストだった。


「ここにある名は、この国のため、命を賭けてくれる、勇気ある人たちです。

我々は団結せねばなりません。敵はあまりに強大です。宗教や人種の違いはあろうとも、皆それぞれに一つの目的のため、すべてを犠牲にして戦わなければ、とても勝利を掴めないでしょう。私はあなたの言葉と言えど、仲間を隔てることはできません」


長い沈黙の後、スベティスラフはゆっくりと頭を下げた。


「自分が洗礼した子どもに諭される日が来るとは」


大司祭の声は以前よりも柔らかった。


「我が神の教えは人を分けるためではなかった。忘れていたことを教えてくれてありがとう、我が子よ」


そして伺うような眼で、おずおずと切り出す。


「私も仲間に入れてもらえないか?」


ラドはたちまち笑顔で応える。


「ええ。勿論」


ふ、とそこにいる二人に光が駆け抜けた。


「いや~、良い場面が取れたです」


光の発した方に目をやると、シラがにこにことしていた。手にはガラスの板を持っている。


「なんだ、お前は」


たちまち不機嫌そうに問うた大司祭に、片手を胸にあて、気取った挨拶をする。


「申し遅れました。黒き王国より参りました、シラと申します。占星術師改め、王国新聞の記者をしているです。この街で面白いことが起こると聞きつけ、取材できないかと伺った次第です」


シラが掲げた板には、司祭とラドが手を取り合う場面が写し取られていた。


「この通り、光板を使って風景を切り取る魔術も使えます」


但しこれは実物ではなく心象風景、写し手の印象に左右されるので、ラドが実物より線が細く、繋がった手が光を放っている。

これを写し取り、職人やゴーレムが木版などを掘り、文字とともに紙に刷ったものを街角で配布したり、契約した家庭に配達する商売があるのだ。


「自分も旅に同行していいですか?」

「我々は見世物では無いぞ」

「受けようぜ」


ラドは眉を潜めたが、オグは即答した。


「他国の記者がいるなら、帝国兵も横暴を控えるだろう。寧ろ、他の国の記者も呼ぼう」


帝国の抑止力となるかもしれないとのオグの意見に、ラドも考えを改めたようだった。


「君の命の保証はできん。私が自分の命も保証できんからな。それでよろしければ」


シラは笑みを深めた。


「構わないです。ところで、早速インタビューしていいです?」

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