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Episode7:それは、誰かを救う覚悟

「…それって、どういう…」


真剣な表情で、「友達を助けてほしい」と言ってきたリーベルを見て、茨は戸惑う。何故なら、茨には人を救えるほどの力なんてないからだ。誰かを救えるほどの価値が、自分には無いことを知っているから。


(……人を助ける方法なんて、私には分からない。『あの人』だって、そう言っていた。…駄目だなぁ、私。頑張ろうって思っても、結局私は──────)


そうして茨は少し前に、ティオに言われたことを思い出す。


『失敗に対する恐怖があるから、君は自分では無く、人に選択を委ねる』


『それは、君の悪い癖だよ。イバラ』


(……でも、私は失敗しか出来ない。…もし、また失敗してしまえば…?…そんなの、嫌だ)


『違うっ!!!口答えをするな!!!お前はそんな事言わない!!!』


自分なりに考えて行動した結果、いい結末になった事なんて、一度も無かった。


『お前は、お母さんの言う通りに生きていれば、それで良いのよ!!!』


自分なりに考えて行動した結果、いつも私は『あの人』に「出来損ない」だと蔑まれていた。……もう二度とあの目を見たくない。誰かに失望されるなんて、もう……


(……耐えられない。………でも)


それでも、誰かの為に救いを求める優しい人を見捨てたくはない。…けれど、失敗して失望されるのも同じくらい怖い。


「……私じゃ、きっと…力になれないと思いますよ」


「それでも、どうか…力を貸してほしい。もう、お前にしかアイツは助けられない…!」


そう言って、リーベルは頭を下げて茨に懇願する。「……諦めたく、ないんだ」と悲痛に満ちた声で。その声に、茨は右の掌で左手の甲を撫でる。其処には相変わらず紅い薔薇が咲いていた。


(……何故、この人は諦めないんだろう)


諦めたほうが、ずっと楽。叶わない夢を見たって、仕方がないから。……何があったのかは分からない。けれど、見ず知らずの女に助けを求めるくらいだ。…きっと、それなりの理由があるんだろう。


(…誰かの為に、救いを求める。…それは、私には出来ないこと)


この人の願いを聞けば、私も何か、変われるのだろうか。どうしてそう思ったのかは、私にも分からない。今なら、逃げられる。この人の頼みから。無駄な恐怖を知らなくて済む。……でも、


「……一つだけ、お願いがあります」


「!!俺に出来ることなら、何でもする!」


下げていた頭を勢いよく上げて、リーベルはそう叫んだ。茨は、リーベルに「一つだけ教えて欲しい事がある」と言い、リーベルに問い掛けた。


「…どうして、貴方はそこまで出来るんですか。…叶わないなら、諦めてしまった方がずっと、楽なのに」


「特に理由なんて無いんだ。意地になっているだけかもな。……ただ、そんな俺でも知っている事はある」


「叶わないからと諦めてしまえば、願いを叶える機会なんて、一度も来ない。…それだけは、俺でも分かるから」


「だから、諦めたくない。ただの、俺の意地だ」と言って笑うリーベルはとても悲しそうで、でも何処か輝いて見えた。


(……そんなこと、『あの人』は教えてくれなかった)


「諦めてしまえば、願いを叶える機会は一度も来ない」。当たり前ではあるが、気が付くのには難しいだろうその言葉は、茨の心に深く刺さり一つの影響を与えた。


(……諦めなければ、私もいつか…『あの人』に認めてもらえるのかな。頑張ったねって言って、今度こそ…)


「……私には、誰かを救えるほどの価値はありません。…それでも、良いなら」


(『あの人』に、生きていても良いと、言ってもらえるのだろうか)


もう二度と叶わない願い事を心のなかで呟きながら、「リーベルの願いを叶える手伝いをさせてくれ」と言った茨にリーベルは目を見開き、茨の両手を握ると嬉しそうに笑い「あぁ、勿論!!!」と答えた。



玄関の扉をくぐり、建物内に入るとリーベルに案内され、廊下を歩く。暫く歩き続けていると、リーベルは一つの部屋の前で足を止めた。どうやら其処は誰かの部屋のようで、扉の横にはエクス・ギラーレと書かれた表札が貼ってあった。


(…人の名前、かな…)


リーベルはガチャ、と扉の鍵を開けて茨を部屋の中へ案内する。部屋の中に入り、奥へ進むと其処に居たのは─────


「これ、は…」


其処に居たのは、沢山の機械の管に繋がれてベットで横たわる小さな男の子だった。リーベルはその子供の近くに行くと男の子の手を握り、「紹介する。俺の親友の弟────エクス・ギラーレだ」と言った。


「親友の弟がどうして、此処に…?それに、この沢山の機械…」


「これは、エクスの生命線だ。これがあるからこそ、此処まで弱っている今でもエクスは生きていられる」


「病気って事ですか?なら、病院に…」


「真っ先に行ったさ。でも、どれほど腕の良い医者に見せても原因不明と言われ、治療が出来なかったんだ」


「…昔、サールス先生にエクスを見せて初めてエクスに呪いが掛かっている事が判明した。だからこうして、最低限の治療が出来ているんだ」


リーベルはエクスの頭を撫でる手を止めると、茨に視線を向けて話を続ける。


「イバラ。お前には、エクスの呪いを解いてほしい」


(…この世界に魔法が存在するって事も、さっきタースさんに聞かされて知ったばかり。それなのに、呪いを解く方法なんて、解るはずない)


「……それは、私には…」


「実際に会うまでは、聖女が現れたってのはただの噂だと思っていたんだ」


「でも、実際に会って確信した。その左手の甲にある痣が何より、お前が『聖女』であることの証明だ…!」


「…それは、否定しませんが…」


「聖女には、万物を癒す力があるとされている。その話が本当なら、お前の力でエクスの呪いを解く事が出来るかもしれない」


(…そんな話、サールスさんもルークさんも教えてくれなかった。…この話が本当だという確証がない)


…けれど、もしもそれで救えるのなら。


(救うと決めたなら最後までやり遂げたい)


茨はリーベルにどうすればいいかを聞く。リーベルによると、エクスの呪いを解くには手に触れて、頭のなかに浮かんだ言葉を復唱すれば発動するらしい。


リーベルから方法を聞いた茨はごめんね、と言いエクスの手を軽く握ると目を閉じる。すると、暫くして繋いでいる手からパァァァ、と光が溢れ始めた。


「っ、眩しい…!」


激しい光に目の前がチカチカとし始め、思わず目を瞑る。そして瞼をゆっくりと持ち上げ、目を開く。視界がはっきりしてきた瞬間、飛び込んできた光景に茨は目を大きく見開いて戸惑いの声を零した。


「っ、此処…何処?」


目を開いた茨の目の前には、広い草原と美しい夜空が広がっていた。

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