Episode6:血塗れ聖女とリーベル・タース
「……いや、貴方こそ誰ですか」
茨は内心、「何だコイツ」と思いながらそう聞くと男は、ニッ、と笑い「俺の名前はリーベル!リーベル・タース。好きなものは自由!」と名乗り茨が居るベットの端に座る。そして、「お前の名前は?」と問い掛けた。
「……私、ですか…?」
「そう、お前の名前」
「……私の名前、は…白崎茨、です」
茨がそう名乗るとリーベルは目を丸くして、ガシッ、と茨の肩を掴む。そして何処か興奮したような表情で叫んだ。
「……って事は、もしかしてお前が噂の血塗れ聖女か?!」
「……………はぁ?!」
(聖女って事は、私のこと…だよね。血塗れ聖女って何?!…もしかしなくても、変な噂が流れてない…?)
「と、言うか!!血塗れ聖女って何ですか…誰ですか、そんな変な噂を流してるの!」
「そりゃあ、お前腹から血をドバドバ流して召喚されたからな!…それにしてもお前、案外普通の女なんだな!弱そう!」
(……やかましい…)
茨はまたもや「何だコイツ」と思いながらも「普通ですみません…」と謝る。リーベルはキョトンとした顔で「何で謝るんだ?」と問い掛ける。茨は「何故でしょうね…」と答えながら、この良く分かんねぇ男が早くどっかに行かねぇかなと思いながら、死んだ魚のような目をして明後日の方向を見つめだした。
リーベルは「まぁ良いや!」と笑うと、ベットから降りて何処かへ行く─────かと思いきや、茨に向かって「一緒に外に出てみないか?」と、手を差し伸べて太陽みたいに笑い掛けた。
「……は?ぇ、な、何でですか…?」
「だって、お前暇だろ?」
(確かに、暇だけれども…!!)
「で、でも…勝手に何処かへ行くのは良くないと言うか…!!!勝手に消えたら、サールスさんとラキエスさんにご迷惑が…!」
「俺と一緒だから大丈夫だ!怪我も絶対にさせない。俺が保証する!!……それに、少し会ってみてほしい奴が居るんだ」
(会ってみて、ほしい人…?)
今まで底抜けに明るく笑っていたリーベルの顔が少し曇り、悲しそうな笑顔に変わる。その表情に茨の心がざわついた。騙されているかもしれない。酷い目に遭うかもしれない。怖い思いをするかもしれない。
(…でも、もし…何か、あったんだとしたら?)
この人の手を跳ね除けるのは、とても簡単。何かあったとしても、知らないふりをしていれば良い。怖かったからって言って、知らないふりを。そうするのは、とても簡単。
(────断ってしまえばいい。そうしたって、誰も、何も言わない。…何かあったとしても、誰も私を怒らない)
その時、ふっと幼い頃の記憶が蘇る。それは、ずっと昔の記憶。泣き虫だった私が、存在するかも分からない神様に願い続けていたこと。
──────だれか、たすけて…
「っ、ぁ…」
誰かに助けを求め続けて、いつか救われることを待ち続けていた。でも、どれだけ願っても助けなんて、来なかった。今、助けを求めるこの人を見捨ててしまえば、私は─────!!!
「……無理なら良いんだ。困らせたかった訳じゃないからな!………無理を言って、悪かった」
一向に返事を返さない茨に、無理だと思ったのか眉を下げ、困ったように笑うリーベル。その笑顔に茨の心臓はまた、締め付けられるように痛んだ。背を向けて立ち去ろうとするリーベルに茨は「待って!!」と叫び、ベットから降りるとリーベルの服の袖をぎゅっと掴んだ。
「私も、い、一緒に…行く、から…!」
「わ、私も……外に、行ってみたい…!」
震える声でそう叫んだ茨を見て、リーベルは「……そうか!」と嬉しそうに笑うと緊張で震える茨の手を掴んで優しく引く。いきなりのことで対応出来ず、体制を崩した茨を見てリーベルは叫んだ。
「絶対に、手を離すなよ!!!」
『誰にも囚われない。俺だけのために、夢を見よう!!!────Somnium Liberum!』
その瞬間、部屋に強く風が吹き「わっ」と驚いて茨は、思わず目を瞑る。少しして、強い風が優しい風に変わった頃、リーベルが「目を開けてみろ」と囁いた。言われたとおりに茨が閉じていた目を開くと、そこで見たのはとても綺麗な街の景色だった。
「わぁ…!!」
茨は思わず歓喜の声を零す。茨の目の前に広がっているのは、明るく輝く太陽と少し遠くに見える海。外国のような街並みの街。微かに聞こえる、楽しそうに笑う人の声。
『………綺麗……』
「そりゃあ良かった」
目を輝せて、少し微笑んだ茨を見てリーベルはまた、嬉しそうに笑った。茨は暫くして自分が空に浮いていることに気が付き、リーベルに問い掛ける。
「あの、私なんで浮いて……と言うか、何故落ちないんですか?!まるで、魔法みたい…」
「?…サールス先生から、話を聞いていないのか?今のは魔法だぞ」
「……えぇ…全然聞いてませんけど……魔法って何?!そんなファンタジーな事出来るんですか?!」
「お前にとっちゃ、この世界自体がファンタジーみたいなものだろ」
「いや、そうですけど…!!」
「まぁ、後で説明してやるよ」と言い、魔法でゆっくりと空を飛んで移動する。次々と投下される情報について行けなくなった茨は「もういいや…」と呟き、思考を放棄した。
暫く空に浮いて二人で街を眺めたあと、リーベルは学園にある建物のうちの一つに入って、魔法を解いた。玄関の扉の前まで来ると、リーベルは茨の方へと振り向いて声を発した。
「────実は、『聖女』であるお前に、頼みがあるんだ。…俺の友達を、助けてほしい」




