Episode3:美しく咲き誇る、紅い薔薇
「さて、じゃあ挨拶も済んだところで…イバラ。君が気になっていることに答えるとしようか。何から聞きたい?」
茨と握手をして、いくつかの雑談を挟んで茨の緊張も少しは解れたところで、ティオは茨にそう問い掛けた。茨はその問いに「……じゃあ、此処は何処ですか?」と、少し言葉に詰まりながらもそう問い返した。
ティオは茨からルークに視線をずらして、少し考える動作をした後、茨に視線を戻して茨の質問に答える。
「此処は『エスペランサ王国』。正確には───『エスペランサ王国』にある貴族学園───『オリアナ学園』の保健室だよ。因みに、僕はいつも此処で働いていて、ルークはオリアナ学園の生徒だよ」
「エスペランサ、王国……」
聞き覚えのない国の名前に茨は、難しい顔をして考え込む。
(そんな名前の国なんて、聞いたことがない。それに、此処は日本の筈。日本に『オリアナ学園』なんて名前の学校って、本当にあるの…?)
「……よく分からないって顔だね」
数分経ってもずっと俯き、考え込んだままの茨を見てティオはそう呟く。ルークは「仕方ねぇよ、コイツにとっちゃこの現状は『意味のわからないこと』なんだからな」と返した。茨はその会話に「どういう事ですか?」と問い掛ける。
「うーーん、とね…」
「あーー…」
二人はよっぽどその話をしたくないのか、問い掛けた瞬間、変な声を出しながら目線をあっちに行ったりこっちに行ったりと動かす。茨は何が何でもこの現状について話してもらうために、どういう事ですか?と少し大きめの声を出して、再度問い掛けた。
最初は二人とも目を逸らしたり、知らないふりをしていたが、やがて観念したのか二人してため息を吐くと「随分と、長い話になるけど…それで良いなら」と言い、話し出した。
「───この世界には、かつて『聖女』と呼ばれる存在が居た。正確には、『聖女』に相応しい女が『別の世界』から『この世界』に『召喚』される。『聖女』の役割は、世界の傷を癒すこと…と、されている」
「…されている…?」
不思議そうな顔をした茨に、ティオが説明をする。
「実際のところは、分からないんだ。何故、この世界に『聖女』が降りてくるのか。『聖女』と言う役割に何の意味があるのか。『聖女』以外は、誰も」
「いつからか存在しているかさえ、誰も知らない。因みだが、聖女が『召喚』される時期は全員バラバラ。最後に『聖女』が現れたのは、確か────」
思い出せないのか、考え込んでしまったルークにティオが「1000年くらい前じゃなかったかい?ほら、僕と君が出会ったのもそのくらいの時期だし」と聞き、ルークは「あぁ、そう言えばそうだったな」と言葉を返して話を続けた。
(………ん?今、なんて?)
「最後に『聖女』が降り立ったのは、今から約1000年前。それから、この1000年間は異世界の人間なんて……って、どうした?」
「何か気になることでもあったかい?」
「え?いや、あの……これって私がおかしいんですか…?」
茨は先程目の前で起こったとんでもない会話に、思わず目を丸くしたまま固まっていた。
「あの、今聖女が最後に降り立ったのは、1000年前って…」
「あぁ、そうだね。そこは間違いない筈だよ」
「それが何だ」
「いや、ぇ…サールスさんとラキエスさんって今、何歳…ですか…?」
さっきの話が正しいのなら、この人達1000歳くらいって事になるんだけど…聞き間違いであってくれ、と願いながら恐る恐る問い掛けると、ティオは良い笑顔で「僕?僕は1025、かな…?」と答えた。その瞬間、オリアナ学園の保健室に茨の絶叫が響き渡った。
「うるっせぇ!!!」
「いや、だって…!!」
「…ごめんね、1000を超えてから年齢を数えることはしなくなったんだ。ルークは僕よりもずっと年上で……今年でいくつになるっけ、君」
「あ?あー、…知らねぇ。話を戻すぞ」
(ヤバい…今年一の衝撃ニュースだった…)
目を逸らし、自分の年齢を誤魔化したルークは、明らかに集中出来ていない茨の頬を引っ張り「は・な・し・を・聞・け!!!」と叫んだ。すると、ティオは「こら、女の子の頬を引っ張らない」と言って、ルークに拳骨を落とす。「っんで、毎回毎回殴んだよ!」とティオに噛みつこうとするが、ティオは「それで、あの話はしなくていいの?」とルークの蹴りを避けてルークに問う。
「…あの話?」
怪訝そうな顔をして問う茨に、ルークは「大した話じゃない」と言い、聖女に関する情報を話し出した。
「降りてくる聖女には、皆共通点があんだよ。黒い長髪に、紅い瞳。それと、左手の甲に刻まれた紅い薔薇の痣」
「紅い、薔薇の痣…?」
「そう。それこそが『聖女』であることの証明になる。それは初めて『聖女』がこの世界に降り立った時から、変わっていないと言われているんだ。……イバラ、君だって同じだよ」
茨は「君も、同じ」と言うその言葉に、何処か嫌な予感を感じた。これ以上は知ったら戻れないような、そんな予感。ティオを警戒するような表情をしている茨を見て、ティオは何処か淋しげに微笑んだ。そして、「知りたいのなら、見てみると良い」と言い、茨の左手の甲を指差した。
「────それこそが、君が『聖女』であることの証明だ」
ティオにそう言われ、半信半疑と言いたげな表情で茨は自身の左手の甲を見て、大きく目を見開いた。何故なら、其処には────
「…う、そ…」
─────紅い薔薇が咲いていたから。




