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Episode2:黒き薔薇にも棘がある

少しの眩しさと誰かの怒鳴り声で、少女は目を覚ます。目が覚めたばかりで脳が覚醒して居ないためか、ただぼーっと天井を見つめていたが、やがて意識がはっきりとしてきたのか驚いたように目を見開いて、飛び起きた。


「っ、はぁ?!」


その飛び起きた物音と大声で、少女が起きたことに気が付いたのか、部屋で言い争っていた男性と少年は言い合うのを辞めて、驚いたように少女を見つめる。混乱しているのか、男性は戸惑いながら少女に声を掛ける。


「えっと…おはよう?」


「……え?あ、はい。おはようございます」


また暫く二人とも固まった後、ハッとしたような表情で少年と言い争いをしていた男性が心配そうな顔をして問い掛ける。


「驚かせてごめんね。身体はもう、大丈夫?動きにくいとか、何処か痛いとか…」


「……身体?」


(私、身体に異常なんてあったっけ……と言うか、此処何処…?)


身体は大丈夫かと問い掛けられて、不思議そうな顔をした少女に、心配そうに声を掛けた男は眉を顰める。その話を聞いていた少年も、同じく眉を顰め「……覚えてねぇのかよ」と呟く。その呟きに、今度は少女が眉を顰め不思議そうな顔をする。その様子の少女に少年は、はぁ、とため息を吐くと何があったのかを話し出した。


「……お前、礼拝堂に『聖女』として『召喚』されたんだよ。…その様子だと、本当に覚えてねーみたいだな」


(…聖女?召喚?何その御伽噺。…一体、何の話をして…)


「『聖女』として『召喚』された時、お前は腹を抑えて血だらけで倒れてて……っ、い"っでぇ!!!」


何の話をしているのか分からず、いきなり始まったトンデモ話に少女が若干引いていた時、男性は少年に「こら。いきなり、『聖女』の話を持ち出すな。変に混乱させてどうする」と言い、少年の頭をゴツンと殴った。


少女はと言うと、自分が此処で目を覚ます前のことを思い出していた。


(私、どうして血だらけで…?確か、私は家に帰って、ご飯を作って……そしたら、『あの人』が……)


『あの人』に刃物で殺された事を思い出して、少女は「そう言えば、そうだった」と何処か悲しげな目をして呟いた。一方その頃、喧嘩をしている少年と男性はと言うと。


負けじと少年も男性の足のすねを蹴りながら「だからって、急に殴んなよ!!こんッの、脳筋ゴリ…っだぁ!!」恐らく、脳筋ゴリラと言おうとしたんだろうけど、脳筋ゴリラと言う前に男性から2度目の鉄拳制裁が下り、少年の頭にたんこぶが一つ増えた。


「人のことを脳筋だの、ゴリラだの言うな。僕はただ、手っ取り早い方法を選んでいるだけさ」


「そういうとこを脳筋ゴリラっつってんだよ!!!人の頭、バカスカ殴りやがって!!」


「大体、俺がゴリラって言う前に、お前自身が「ゴリラって言うな」って言ったって事は、お前の自認はゴリラって事だろうが!!自分のことをゴリラって認めてんじゃねぇか、バァーーーカ!!」


「お前に何百回も言われ続けたから、脳が覚えていただけだよ。馬鹿はお前の方だ。いい加減、留年するのは辞めて早く卒業したら?」


言い争いが終わったかと思えば、今度は殴り合い蹴り合いの喧嘩を始めた2人を見て少女はどうすれば良いのか分からず、内心ドン引きながらとりあえず終わるまで待つことにした。


(……何なの、この人達…聖女って何?召喚って?それは、此処が何処かにも繋がるの?……いや、それよりも……私は確かに『あの人』に殺されたはず……なのに、どうして…)


「……どうして、生きてるの…」


小さく、微かに戸惑いが含まれた声が零れた。その声を聞いた二人は、言い合い殴り合いの喧嘩を一旦止め、少女に目を向ける。少女の瞳に映っていたのは、困惑。恐怖。そして─────


(─────絶望)


少年に「脳筋ゴリラ」と呼ばれていた男は目を細めて、少女を見つめる。まるで何かを見定めるかのように。けれど、何処か懐かしそうに。暫く考え込んでいた男は、何を思ったのか少女の頭に手を伸ばして撫でようとする。自身に伸ばされた掌を見て、何を思ったのか少女は息を呑み─────


「っ、!!!」


パシンッ、と乾いた音が鳴った。


「…」


少女の頭に伸ばしていた男の手は赤く腫れていて、少女は目を見開きその瞳を不安そうに揺らした。少女は、怯えていた。自身に伸ばされた掌に────正確には、自身に手を伸ばす男を『あの人』と重ねて。


男は手を跳ね除けられるとは思っていなかったのか、目を大きく見開いて固まり、少女も暫く目を見開いて固まっていたが、我に返ったのか気まずそうに目を伏せると、不安げに男を見上げる。少女の唇は何かを言おうとしては、音を発することなく消えていく。それを繰り返し、やがて口を噤んでしまった。


「……おい、お前ら」と呆れたような少年の声が、静かな部屋に響く。二人はビクッ、と肩を揺らし少年の方を見つめる。少年は呆れたような顔をしながら、「いつまでそうしてんだよ」と少女と男に声を掛けた。


「………そうだね」


男は少女に跳ね除けられた手を軽く握ると、少年に小さくそう返す。そして、その場にしゃがみ込んで少女と目線を合わせる。男は「驚かせてしまって、ごめんね。まずは挨拶からしよう」と言い、自身の名前を名乗り始める。


「初めまして、僕の名前はティオ・サールス。普段は医者として働いている。こっちの生意気な子供が───」


「誰が生意気な子供だ!!年齢的にはお前のほうが年下だろーが!!」


(……絶対、嘘だ)


「全く、仕方ねぇな……間抜けな顔してるお前もよく聞けよ。一度しか言わねぇからな!!!俺の名前はルーク・ラキエス。……一応、よろしく」


頬を少し赤らめながらも挨拶をした少年───ルークにティオは微笑むと、「──それで、君の名前は?」と少女に問い掛ける。


「っ、わ、私の名前は…白崎茨、です…」


少し言葉に詰まりながらも名前を名乗った少女────白崎茨に「ティオ・サールス」と名乗った男は、「そう。よろしく、イバラ」と言い茨に手を差し伸べた。茨は差し伸べられた手をじっと見つめると、ゴクリと息を呑み少し震える自分の手を差し伸べられた手と重ねて、ゆっくりと握り返す。


「ょ、よろしく、お願い…します…ぁ、あと…手、をた、叩いて…ごめんなさい…」


緊張からか、それとも恐怖からか。手が震え、声が裏返り、視線をティオに向けてはすぐに逸らしてしまい……挙動不審な茨にティオは「…うん、よろしく」ともう一度言い、ふっ、と優しく微笑んだ。

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