Episode15:冤罪と証明
「では、あの筆記用具等は誰のものなのか」
私の魔術残滓が付いていなくて、ヴェルギナーリスさんと侍女のファルスさんの魔術残滓が付いていた…と、言うことは答えは一つしかないだろう。
「あの筆記用具等は、ヴェルギナーリスさんの私物だった。…実際、彼女の友人達にも聞き込みをしましたが…皆さん、快く教えてくれました」
最近、物をよく無くすと話していたこと。その無くし物の特徴が、捨てられたり、隠されていた物と同じだったこと。
「……ついでに言うと無くし物の中には、ヴェルギナーリスさんの為だけに作られた髪飾りもあった事も、それが未だ戻ってきていないのも確認済みです」
「さて、では一番重要な話に入りましょう。今回の騒動───ヴェルギナーリスさんを聖女殺害の犯人に仕立てようとしたのは、貴女でしょう?」
そう言い、茨はカツカツと靴音を鳴らして近付くと、ある人物の前で足を止めた。
「ヴェルギナーリスさんの侍女である、ファルスさん」
「ぇ…」
そう名指しされたファルスは、大きく目を見開いたかと思えば、茨をキッと睨みつける。
「何故、私がお嬢様に濡れ衣を着せなければならないのですか?!」
「さぁ?それは、私にはわかりませんが……ティターン先輩なら、何か心当たりがあるのでは?」
そう言って茨は、同じく集められた一人である、ソル・ティターンに問う。ソルはその問いに頷いて「有名だったからな」と答える。
ソルの話よれば、ファルスは貴族でも何でもない、平民だったらしい。けれど、ある日親に売られ見世物小屋で働いていた所をヴィルの父親であり、ヴェルギナーリス家当主───プロビダス・ヴェルギナーリスに拾われ、やがてヴェルギナーリス家の令嬢であるヴィルの世話役に抜擢された。
ここまでは、よくある普通の話。使用人達の間で有名なのはこの話ではなく────
「ファルスは、ヴィルの父親を愛していた…と言うことだ。実際、プロビダス・ヴェルギナーリスの妻に、過剰な虐めを行っていたと言う話も上がっている」
「今回、俺のヴィルに濡れ衣を着せようとしたのも、よくある女の嫉妬からだろう」
明らかにされた自身の過去に、ファルスは悔しそうに唇を噛み締めて叫んだ。
「えぇ、そうですよ!!私は、プロビダス・ヴェルギナーリスを愛しています!!あの人に救われた、あの日からずっと…!!あの人の妻を憎んだ事もあります!!全部、貴方方の調べたとおりです!」
「…でも、それは、私がお嬢様に濡れ衣を着せた証拠にはならない!!」
その言葉に、茨は頷く。確かに、この話はあくまで、ファルスに動機があったことを証明しただけ。彼女がヴィルに濡れ衣を着せた証拠にはならない。
「…だから、勝手とは存じていますが…調べさせていただきました」
「……は、…?」
茨はそう言い、微笑むと驚きで声が出ないファルスを他所に、話を続ける。
「勿論、ヴェルギナーリス家の当主に許可は取ってあります」
そう茨が言ったのと同時に、投影魔術で映像が映し出される。其処に居たのは、白髪に紅い瞳を持った男性。その姿にイーサーやファルスは目を見開いて驚く。
「初めまして…と、言うよりは久しぶりかな。ファルスさん。貴女とはヴィル公爵令嬢に学園内の事を説明してる際、一度会っているからね」
「な、何故……何故貴方が…?学園長!!」
驚愕の表情を浮かべながら、イーサーは叫ぶ。イーサーの叫び声に、学園長と呼ばれた男はイーサーに視線を向けて、笑い掛けた。
「おやイーサー先生。君も居たのか。…これには色々、事情があってね。早速で悪いが、本題に移させてもらう」
「イバラ。やはり、君の思った通りだ」
「ヴィル公爵令嬢に成りすますために用意したと思われる、ヴィッグやドレスや靴、そして自分の姿を曖昧にさせる為に作られたと思われる魔法薬。そして、ヴィル公爵令嬢が無くした筈の髪飾りも…全て、ファルスさんの部屋から出てきた」
他の使用人によると、ファルスは三日前からヴェルギナーリス家の当主に呼び出されて、寮ではなくヴェルギナーリス家に戻っていたらしい。その間のヴィルの世話も、別の者が務めていたらしく、犯行に使った道具を片付ける暇が無かったのだろう。
その言葉にファルスは呆然とした表情で立ち尽くすと、プロビダス・ヴェルギナーリスの伝言を聞いて、膝から崩れ落ちてしまった。
─────どうやら私は、君を甘やかし過ぎたようだ。ファルス、君には永遠の自由を与えよう。
「っ、だんな、さま……ちがうのです、だんなさま…!!」
壊れた機械のように何度も同じ言葉を繰り返すファルスは、やがて気が狂ったかのように発狂し、気絶してしまった。
(……これは、あまりにも醜い…)
静まり返った空間で学園長と呼ばれていた男は「さて、イーサー先生」とイーサーの名前を呼び「残念ですが、貴女には別の疑惑が掛けられています」と言い、微笑んだ。
「別の、疑惑…ですか?」
「えぇ。先程の話に出てきた魔法薬ですが…アレは、この国では禁忌とされている魔法薬と言うことは、貴女もご存知のはずだ。元々平民だったファルスさんが、貴族の使用人になったからと言って、禁忌レベルの魔法薬を知っていた、とは思えない」
続けて「あの親バカな公爵が、可愛い娘に付いている使用人にそんな事を教える筈がありませんし」と呟くと、「私はあの魔法薬の入手経路が気になるのですよ」と言った。
「……何を仰っしゃりたいのかが、よく分かりません」
「はっきりと仰っていただかなければ…!」
冷や汗をかきながら、必死に笑みを作ったイーサーはそう言い放つ。その言葉に、学園長は「良いでしょう」と呟いた。
「ファルスさんを唆して、あの魔法薬を渡したのは貴女ですね、イーサー先生」
「っ…!」
息を呑んだイーサーに対して、学園長は「こんな事で驚いているんですか?」と問い掛けた。そして、衝撃の言葉を言い放った。
「いや、そもそも貴女はイーサー先生ではないでしょう?」




