Episode14:ヴィル・ヴェルギナーリスへの疑い
その後は特に何もなく、普通の日だった。問題は、その1週間後。
「…またこの人集り…」
次の日も、私の教室の前には人集りが出来ていて、数人は私の姿を見ると「もう大丈夫ですから!」と言い、励まそうとしてきた。
理由もわからず、どういう事かと聞こうとしたその時「また虐めだとよ」と、聞き覚えのある声が聞こえた。
「…ラキエスさん。…それに、ティターン先輩も…どうして此処に?」
「まだ、何も聞いてないのか?」
「…はい。何か、知らない人達に励まされてるんですけど。…何ですか、これ」
何処かつまらなさそうにそう聞いてきたルークに、茨も何処か面倒くさそうに答える。その時、教室からイーサー先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
「いい加減、認めなさい!!」
(…本当に、何があったんだろう……ぁ、そう言えば…)
──────また、虐めだとよ
茨はルーク達と会った時に、ルークから言われたことを思い出す。そして隣にいるルークにその事を尋ねた。ルークは、その問いに「あぁ…」と呟き、続けて「ヴィル・ヴェルギナーリスが、虐めの首謀者として疑われてんだよ」と答えた。
「……は?何それ」
「あー、俺は詳しくは知らないが…ティターン、お前何か知ってるか?」
「うん。知ってるよ、ルーク。実は昨日の放課後、イーサー先生に「聖女様を虐めている人がいる」と通報が入ったらしい。具体的に言えば、物を隠したとか…階段から突き落としたとか」
その言葉に茨の目がスゥーッと、冷めた目つきになった。凍えそうな程、冷たい目つきをしながら茨はソルに「それで、ヴェルギナーリスさんがやったと言う、証拠はあるんですか?」と問う。
「イーサー先生が言うには、実際に聖女様の筆記用具がゴミ箱から見つかっているし、この前だって聖女様の頬にはガーゼが貼ってあった。それに突き落としたことに関しては目撃者も居るって言ってるけど…」
ヴィル本人がそれをやった、と言う物理的な証拠は未だ見つかっていないみたいだ。と、肩をすくめながらソルは答えた。ルークは茨に「筆記用具の件はともかく、突き落とされたってどういう事だ」と問い掛けた。
「それが─────」
──────時は遡り三日前の放課後、階段の踊り場にて。
『聖女様にどうしても見てもらいたいものがあるのです!』
茨が一人の令嬢にそう言われて、一階へと続く階段を降りていた時。
『……ぇ…』
『……さようなら、聖女様。どうか死んでくださいませ!!』
そう叫んで、彼女は茨の背中を思い切り押して、階段から突き落とした。幸い、大した怪我にはならなかったが、頬に少し大きな切り傷が出来てしまった為、ガーゼを貼っていた。
──────時は戻り、現在。
「……と、言う訳で…」
ガーゼを貼っていた理由を話す茨に、ルークはまた問い掛ける。
「お前を突き落としたのは誰だ?」
「さぁ…?あまり覚えていないんですよ。なんか、こう…ぼんやりとは覚えているんですけど…」
ふんわりとした感想しか出て来ない茨に、ルークとソルは顔を見合わせて考え込んでしまう。その二人を見て、茨はふと考えついた事を話す。
「ぁ、でも…もしも、私を突き落とした犯人がヴェルギナーリスさんに罪を着せようとしていたのなら、口調とか髪型とかを真似していたってのはありそうですよね」
「「……」」
「…え、無視?」
茨の何気ないその言葉に、考え込んでいた二人は視線を茨に向けて「ちょっとしたゲームをしないか?」と言い、ニヤリと笑った。
「……ゲーム?」
嫌な予感がする…と呟いた茨に、ルークは意地悪そうな笑みで上手く行けば、ヴェルギナーリスの冤罪を証明することが出来る、と答えた。
「それは、とても興味深いな」
人集りの向こうから、凛とした声が聞こえてきた。ルークは「げっ…」と嫌そうな声を零し、ソルは「珍しいな…」と驚いたように呟いた。
「是非、私にも協力させてくれ」
白く長い髪を靡かせ、深く紅い目を楽しそうに細めたその人は、そう呟き口元に笑みを描いた。
──────次の日。
「今日はわざわざ時間を取ってくださり、ありがとうございます」
空き部屋に集まった人へ向けて、茨はそう言い微笑んだ。その笑みに集められた一人であるイーサーは聖女様の為なら、と言い冷や汗を流した。
「……あの、何故私まで…?」
そう困惑した表情をするのは、ヴェルギナーリスのお付きの侍女であるファルスはそう呟いた。茨はファルスに「ヴェルギナーリスさんのことに関しては、貴女が一番詳しいと思いまして」と答えた。
「時間が無いので早速本題に入らせて貰いますが……今回、集まってもらったのはヴィル・ヴェルギナーリスさんの件です」
「どうやら彼女が私を虐めている、と通報した馬鹿な人がいるようで」
茨が吐いた「馬鹿な人」と言う言葉を無視して、イーサーは興奮した様子で叫んだ。
「えぇ…えぇ、そうです!あぁ…とうとう、聖女様からヴェルギナーリスに罪の裁きが下るのですね!」
イーサーのその様子に、茨はスゥ、と温度のない冷たい瞳になると「そんなわけないでしょう」と、その言葉を否定した。
「何を勘違いしているか分かりませんが、私はヴィル・ヴェルギナーリスの冤罪を晴らしに来たんです」
「冤罪、ですって…?」
「えぇ、当たり前でしょう。彼女は私を虐めてなどなかったんですから。順番に話をしましょう」
茨はそう言うと、時系列順で話を始めた。
今から一週間前、私の筆記用具が捨てられ、根も葉もない噂が流れ始める。
今から五日前、今度は私の私物が隠される。
今から三日前、階段から突き落とされる。
「主に起きた出来事は、この様な形になります。ですが、この全てにはとある欠点がありました」
「欠点?」
「はい。それはこの出来事を起こした人を誰も見ていない、と言う点です」
「ですが、貴女を突き落としたところを同じクラスの令嬢達が見た、と…!」
茨はその言葉に頷いて、「確かに彼女達はそう言っていました」と答えた。「なら…!」と勝ち誇った顔をするイーサーに茨は話を続ける。
「ですが、令嬢達は私を突き落とした人の顔など見ていなかったんです。…正確には、確かに彼女達はその姿は見ていたけれど、顔はぼんやりとしか覚えていなかった」
ならば、何故私を突き落とした人物が「ヴィル・ヴェルギナーリス」だと断定したのか。それは、聖女を突き落とした人物の付けていた髪飾りがヴェルギナーリスの物と同じだったから。
「ヴェルギナーリスさんの付けている髪飾りは、彼女の為だけに用意された世界に一つしかない品物。それを覚えていた令嬢達は、ヴェルギナーリスさんが私を突き落としたと断定した」
「実際、彼女達に話を聞き、そう証言したのはルーク・ラキエスさんが証明してくれます。その時の録音も必要ならばいくらでも聞かせることも可能です」
「物を隠されていたり、捨てられていた点に関しても似たような事が言えます」
確かに、捨てられていたり隠されていた筆記用具は全て私と同じ種類のもの。けれど、此処にも欠点が存在していた。
「鑑定魔術を持つ方に調べてもらいましたが、隠されていたり、捨てられていた筆記用具には全て、私の魔術残滓※は付いていなかったんです」
「代わりに付いていたのはヴェルギナーリスさんと、彼女の侍女であるファルスさんの魔術残滓だけ。…つまり、あの筆記用具等は私のものでは無い、と言うことです」
※魔術残滓……その人の魔術の欠片の様なもの。色で区別されているが、魔術残滓の色は人それぞれで違う。分かりやすく言えば、指の指紋と同じ意味。普段は見えないため鑑定魔術を通して見ることが出来る。




