Episode11:ヴィル・ヴェルギナーリス
「一つだけお願いがあるんです」と言った茨にティオは「話してみて」と言葉を返す。茨は「この学園に編入することは可能ですか?」と問い掛けた。まさかそんな事が言われるとは思っていなかったらしく、その場に居た4人は大きく目を見開いて叫んだ。
「勿論、必要なお金は働いて払います」
「いやそうだけど、そうじゃねぇよ」
「…何故、編入をしたいと思ったんだい?」
ティオは頭を抱えながらそう問い掛けた。茨によれば、自分はあまりにもこの世界を知らなさすぎると思ったらしく、生きていくならこの世界の常識などを知ってから社会に出たい、と言うのが茨からのお願いだった。
「突然こんな事を言って、困らせてしまうと言うのは分かっています。けれど、どうか検討の方をよろしくお願いします…!」
そう言って、ベットから降りるとティオに向かって頭を下げる。その様子を見たティオは、「僕の一存じゃ何も言えないから、少し時間を欲しい」と言って今度こそ保健室を後にした。
それから数日後、何度か会議を重ねた結果一月後の入学試験で合格することが出来れば、この学園に入学出来ると決まった。そして、茨は入学する為にティオやルーク、リーベルに勉強を教えてもらい、オリアナ学園の入学試験を首席で合格することが出来た。
──────時は戻り、現在
リーベルに学園内を案内してもらっている茨に、ルークはそう問いかけた。
「…で、何でこの学園なんだよ。他にも色々学校自体はあんだけど」
その問い掛けに茨は、リーベルの説明に耳を傾けながら答えた。
「…んー、タースさんが居るからですかね」
ルークからの質問に茨は、そう返す。その返事にルークは「は?」と声を零し、リーベルは自身を指差して「え、俺?!」と大声で驚いたように目を見開いた。
「タースさんはいつも、私では思い付かない事ばかり教えてくれるので……タースさんとずっと一緒に居れば、私も少しは成長できるかな……って、何ですかその顔」
「………いや、別に…」
あからさまに文句があるような顔をしているルークに、「絶対何か言いたいことありますよね?」と問い詰める。一向に口を割らないルークに面倒になってきたのか、茨は口を割らせる事を諦めて、リーベルの方を見つめる。
「っ〜、ぉ、お…!」
「お?」
「俺を探さないでくれぇぇぇぇ!!!」
「は?!タースさん?!リーベル・タースさん?!」
人前で誰かに褒められる経験があまりなかったせいで、妙な羞恥心に襲われたリーベルは繋いでいた手を解くと、全速力で走り去ってしまった。
「……えぇ…」
「そう言えばアイツ、人前で褒められんの苦手なタイプだったな」
「え、これもしかして私が悪いんですか?」
茨は走り去った5分後にとんでもない速さで戻ってきたリーベルと、少し話をしたあとリーベルとルークは補習があるためその場を離れる事になった。
「じゃ、じゃあなー、イバラ…」
「はいさようなら。あと、気まずい感じ出すの辞めてください」
「付き合ったばかりのカップルみたいだな、お前ら」
「ぶん殴りますよ、ラキエスさん」
そんな事を話しながら、補習へと向かう二人を見送ると私はサールス先生に教室まで案内してもらう。そして、教室の前で別れると担任の先生に呼ばれるまで外で立って待つことになった。
「……夢みたいだなぁ…」
『あの人』に殺されて、異世界に『聖女』として召喚されて。今日からは異世界の学校に通うことになって。…まるで、夢のような日々。
「聖女様、教室に入ってきてください」
「…分かりました」
仕方のないことだって、分かっている。もう元の世界に戻れないことも、こうして聖女として生きるしかないのも。……今が、十分幸福だと分かっているし、あの日した選択に後悔はない。
「初めまして、私の名前は白崎茨です。…どうか皆さん、よろしくお願いいたします」
……けれど、きっと。私の心には消化し切れていない何かがある。
「聖女様の席は一番後ろの真ん中の席になります。ヴィル・ヴェルギナーリス。手を挙げなさい」
「はい、此処です。聖女様」
「…ありがとうございます。ヴェルギナーリスさん」
案内された通りに席に着くと、校内での過ごし方などの説明が始まる。その説明に耳を傾けながら、視線を動かす。
(……やっぱり、気の所為じゃなかった)
全員が全員、そうじゃない。それは、分かっていた。聖女だからと言って、皆が皆私に友好的だとは限らない。聖女であることに加えて、入試での首席合格。恐らくそれが原因だろう。
(…さっきから、私に向けられる視線は敵意で溢れている。…恨みを買ってしまったかな…)
こう言う状況になると、後々面倒なことになるのは私でもよく知っている。特に女子と言うのは、敵が同じであれば一次的な休戦に入って共通の敵をぶちのめす傾向があると、個人的に思っている。
「…ねぇ、聖女様」
「っ、はい…!」
どうするべきかと考えていると、トントンと肩を叩かれ、声を掛けられる。声のした方へと顔を向けると、其処には先程私に席を教えてくれた女子生徒が小さく手を振っていた。
(確か、名前は…)
「どうかしましたか。ヴェルギナーリスさん」
「あら、珍しい。私の名前を覚えていてくださったのですね。…流石、聖女様」
「昔から記憶力だけは良いので。それで、何か御用でも?」
「あら、冷たい。…少し、貴女に用がありますの。…放課後、少し教室に残っていてもらえます?」
(……集団暴行だ…)
この場合どうなるかなんて知っている。違うクラスの生徒も呼んできて、殴ったり蹴ったり根性焼きをしたりするんだ。そして、それを携帯で撮影されるんだ。
(………殺される………)
「か、構いませんよ」
「あら、本当ですか?ありがとうございます。やっぱり、聖女様は私のような人間にもお優しいのですね」
「いえ…そんなことは…」
どうしよう。私の耳が腐っているのか、どう頑張っても嫌味にしか聞こえない。お前如きが何で聖女を名乗ってんだよってボコされる…!!集団リンチだ…!!!
先生の話を聞きながら早く帰りたい、と思っていたその時「後ろの席、静かにしなさい」と先生から注意を受けてしまった。
「ヴィル・ヴェルギナーリス。話がしたいのなら、休み時間になさい」
「あら、申し訳ありません」
「……次からは気を付けるように。では次に、此処の箇所についての説明ですが────」
(……あれ?私だって話していたのに…怒られたのはヴェルギナーリスさんだけ?)
(……それって何か、おかしくない…?)
抗議しようと席から立ち上がろうとした時、ヴェルギナーリスさんに服の袖を軽く摘まれる。彼女はそのまま小声で「良いから、座りなさい」と言い、先生に視線を向ける。
「聖女様、どうかされましたか?」
「へっ?…ぁ…いや、何でも…ないです…」
先生は怪訝そうな顔で「そうですか」とだけ言うと、説明を再開した。この何とも言えない空気に少しだけ違和感を覚えながらも説明を受け、あっという間に放課後になってしまった。




