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Episode9:固めた決意

誰も居ない暗闇で微かに人の声が聞こえた。何処か聞き覚えのあるその声に、茨はゆっくりと手を伸ばして─────


(……あれ?)


──────気が付けば、保健室の天井に手を伸ばしていた。


(……一体、何が…)


先程まで星空の下に居たはず、と混乱していた茨に何かが思い切り、ぎゅっと抱き着いた。驚いた茨が思い切り抱き着いている物を引き剥がすと、其処に居たのは鼻水を垂れ流して号泣しているリーベルだった。


「……とりあえず、その鼻水を拭いてください。ティシュあげますから」


(顔から出るもの全部出てるし……)


「っ〜!お前、本っ当に良い奴だなぁ〜!!ごめんなぁ、無理を言ってぇ…!!」


お前に『聖女の力』が発現していない事を知らなくてぇ〜、と鼻水を拭きながらそう言うリーベルに茨はうわぁ……とドン引きながらもあの後、何があったのかと聞くとリーベルが言うには、あの後いきなり私がぼーっとし出したかと思えば、呪いが解けたエクスくんが目を覚ましたらしい。


嬉しさのあまり、私が居たことも忘れ数年ぶりの再会を喜んでいた所、バタンと何かが倒れる音がして近寄り見てみたところ──────


『……』


『うわぁぁ!!イバラが倒れたぁー!!』


『…リーベル兄さん、これって倒れたって言うか…死んでない…?』


───私が白目を剥いて気絶していたらしい。


(うっわ、最悪……)


「色々と言いたい事はありますが……まず、勝手に人の事を連れ出しておいて、忘れてるのってどうなんですか?」


「ぐっ……で、でも…!本当に嬉しくて…!それに、確かに外に出てみないかとは言ったが…最終的に外に行くことを了承したのはイバラだろ?!」


「……そりゃあ、そうですけど……連れて行ったなら面倒くらい、ちゃんと見てくださいよ」


「何だその条件…お前はペットか?!こんな図々しいペットを買った覚えはないぞ!!」


「残念ですが、私は貴方を飼い主だと認めたことはありません」


「何言ってんだお前。まず、ペットって事を否定しろよ……」


「可哀想なものを見る目を辞めてもらえます?惨めになるので」


二人して保健室でギャーギャーーと言い争っていると、シャッ、と音がして仕切りが開いた。茨とリーベルはその音をした方を見る。其処に居たのは、何処か禍々しい笑みを浮かべたサールスさんと、紺色の髪をした男性とあの部屋で寝ていた小さな男の子だった。


「二人とも、お話があります」


「「……ハイ…」」


その後、私とタースさんはかなり長い間サールスさんからお説教を受けた。サールスさんによると、用事が終わり保健室に戻ったところ、保健室が強盗が入った後かのように荒れていた上、私がベットに居なかった為、攫われたと思いかなりの騒動になったらしい。


特にタースさんは、保健室をめちゃくちゃにした事を咎められていた。しかも、窓ガラスを割って入ってくるのは割と常習的にやってるらしく、それに関してサールスさんだけでなく、紺色の髪をした男性からもとんでもなく怒られていた。


私はと言うと、今回保健室を抜け出したのには事情があったのと、エクスくんが多少口利きをしてくれた為、そこまで怒られずに一足先にお説教から抜けることが出来た。


(…それはそうと、怒ってるサールスさん…とんでもなく怖かった…)


ティオからの説教が終わった茨は疲れからかベットの上に倒れ込んでいた。起き上がり、痺れた足を軽くバタつかせてると其処にエクスが近付いてきた。


「今回はリーベル兄さんと僕のために力を使って助けてくださりありがとうございます、聖女様」


「……いえ、私は特に…」


(…何か、凄くしっかりしてる…)


「つきましては…何か、お礼をさせてもらえたらと思っているのですが。何か欲しい物などはございますか?」


(…しっかりしてるのはいい事だけど、しっかりし過ぎて少し怖いな、この子……)


「……欲しいもの、ですか?」


「はい」


(どうしよう…欲しいものなんて無いんだけど……言って引いてくれる感じじゃ無いんだよなぁ…)


突然の申し出に茨が少し困惑しながら、うんうんと考え込んでいると、サールスからの説教が終わったのかリーベルが茨とエクスに近付いて話し掛ける。


「欲しいものがないのか?」


「…はい。何かを欲しいから助けた訳じゃありませんし…何かをお願いするとしても、この世界に何があるのかもよく分かっていなくて……」


そう言って、やんわりとエクスの申し出を断ろうとする茨にリーベルは「んー、」と少し考え込んだ後「なら、今度の休みに一緒に街へ行ってみないか?…勿論、エクスも一緒に」と問い掛けた。


「は?!」


「本当ですか?リーベル兄さん!」


「おう、せっかくだからな!」


そう言って勝手に話を進めていく二人に、茨は思わず「ちょっと待て!」と叫んだ。その大声に二人してキョトンとした顔で茨を見つめる。


「あのですねぇ、私の話聞いてました?」


「この世界に何があるかも分からないし、そもそも私は貴方達に何かを買ってもらうために助けた訳じゃ無いんですよ。だから、何かを買ってもらわなくても大丈夫です」


「気持ちだけ受け取っておきます」と言って話を終わらせようとした茨にリーベルは「でもなぁ…」と言い、エクスは「ですが…」と困ったような表情をする。


「逆に聞きますけど、何で私に何かしようとするんですか…」


「そりゃあ…」


「それは…」


茨からの質問に、リーベルとエクスは顔を見合わせると、茨に視線を戻して答えた。


「「命の恩人だから…?」」


「えぇ…」


その答えに思い切りドン引く顔をした茨を見てティオは「ふふっ、」と笑みを零した。その笑い声に茨達はハテナを浮かべながらティオの方に視線を向ける。


不思議そうな顔をしている三人に、ティオは「急にごめんね」と謝ると、茨を見て嬉しそうな顔をして言った。


「イバラの顔が、さっきよりも随分と明るかったから、つい。…ねぇ、リーベル。君は一体どんな魔法を使ったんだい?」


「俺がイバラに?…強いて言うなら、一緒に街の景色を眺めたくらいで何もしてませんよ」


ティオの問いによく分からないと言いたげの顔をしたリーベルが答える。ティオはその答えに「そう」と返し、「何か良いことでもあったのかい?」と今度は茨に問い掛けた。


「……少しだけ」


その問いに茨は、笑みを零してそう答えた。その答えにティオはまたもや「そう」とだけ返すと「そう言えば」と話を切り替えた。


「リーベル、エクス。君達の望みは叶いそうにないよ。…イバラの選択次第では、今すぐにでも彼女は王族に嫁入りする事になるからね」


その言葉にその場の空気が凍り、リーベルとエクスに戸惑いの視線を向けられた茨は「あぁ…そう言えばそうだった」と呟く。


「はぁ?!イバラ、どういう事だ?!」


「あぁ…イバラさんは『聖女』ですからね」


混乱するリーベルとは対照的に、エクスは茨の事情をすぐ理解したように呟いた。エクスの言葉にティオは「そういうこと」と答えると茨を見つめる。


「…本来は、もう少し時間を掛けて考えて貰う予定だったんだけど…でも、その様子だと答えは決まったようだね」


「え?…どうしてですか?」


茨の言葉にティオは「何となく、迷いがないように見えたから」と答える。茨はその言葉の意味を少し考えた後、ティオに質問をする。


「──────」

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