第5話 知り合いとエマ
【 知り合いとエマ 】
休日が明け、再び仕事の日々が始まった。
深夜午前2時。重たい静けさに包まれた駐車場で、俺の相棒である大型トラックが太い重低音を響かせてアイドリングを始める。
「よし、エマ。今日からは何時もと違うところを連日走り込むぞ。準備はいいか?」
『ええ、バッチリですわ!』
助手席に乗ったエマは、一昨日に買った自分用の水筒と、お気に入りのポテトチップスが入った袋を大事そうに抱えている。その姿には、初めてトラックに乗せた頃のおどおどした様子はもうみじんもない。
「じゃあ出発するぞ。エマ!シートベルトしっかりしたか?」
『はい! よろしくお願いいたしますわ、達吉さん!』
アクセルを踏み込むと、長距離を走り慣れたトラックが滑らかに夜の高速道路へと滑り出した。
暗闇を切り裂いて進むヘッドライトの光を見つめながら、エマは窓の外を興味深そうに眺めている。
『……ふふ、こうして夜の道路を眺めていると、まるで夜空を飛んでいるような気分になりますわね』
「夜は空いてるから走りやすいんだよ同業しかほとんどいないからだけどな、まぁ睡魔との戦いでもある。……エマは無理せず寝てていいんだぞ?」
『いいえ! 今日は起きてお手伝いをしますわ! あなたが眠くならないよう、私がたくさんお話し相手になって差し上げます!』
そう言って胸を張るエマだったが、トラックの心地よい振動とエンジンのリズムに包まれると、ものの三十分もしないうちに「ふにゃ……」と小さな吐息を漏らし始めた。
「……ハハ、やっぱりな」
こっくりこっくりと頭を揺らし、ついには窓へ頭を寄せて気持ちよさそうに寝息を立て始める。
俺は苦笑しながら、寝返りで体を痛めないよう、エマの頭をそっと助手席のシートへと戻し、タオルケットをかけてやった。
午前5時前 朝焼けがうっすらと空を紫に染め始める頃、俺は給油と休憩を兼ねて大型SAに車を滑り込ませた。
エンジンを止めると、エマがパチッと目を覚ました。
『ん……あ、あら? 私、また眠ってしまっていましたの……?』
「おう、ぐっすりだったぞ。ちょっと缶コーヒー買ってくるから、外でストレッチでもしてろ」
二人でキャビンから降り、朝の冷たい空気を吸い込んでいると、後ろから不意に太い声が飛んできた。
「よぉ!達吉! 相変わらず走るの速いな……って、おいおい! 誰だそのべっぴんさんは!?」
振り返ると、そこに立っていたのは昔からの同業で顔馴染みであるゴッツい体格の豪田だった。
豪田さんは目を丸くして、俺とエマの顔を交互に見比べた。
『まあ……! 大きなお方……!』
「あ、豪田…お疲れ様ッス……いや、こっちはその、知人の子をちょっと乗せてて……」
「知人の子ぉ〜? 嘘つけ! 達吉!こんな綺麗なお嬢ちゃんを助手席に乗せて走ってたのか!? お揃いのツナギまで着せちゃってさぁ!」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら近寄ってくる豪田に、エマは気品ある仕草でスッと一礼した。
『初めまして、豪田様…私はエマと申します。彼の『助手』として、一緒にお仕事を学ばせていただいておりますわ』
「〜〜〜っ!! な、なんだそのお嬢様みたいな挨拶は!? 達吉!お前どこでこんな育ちの良さそうなお嬢ちゃん引っ掛けてきたんだよ!?」
「言い方考えろ豪田! 事情があって預かってんだよ」
豪田さんは「参ったなぁこりャ」と頭を抱えながら大笑いした。
「ハハハ! いやぁ、昔っから堅いお前がこんな可愛らしい助手連れて走ってるなんて、あいつらに話したら全員ひっくり返るぞ! ほら、お嬢ちゃん。これ持っていきな!」
豪田さんは自分のトラックの助手席を開けクーラーボックスから、冷えた高級なさくらんぼのパックを取り出すと、エマの手元に押し付けた。
『まあ……! こんなに綺麗で可愛らしい果物を!? よろしいのですの……?』
「おうよ!忙しい達吉のサポートは大変じゃろう!応援してるからな! じゃあな!今度また呑み行こうな!」
そう言って豪田さんは豪快に笑いながら自分のトラックへ戻っていった。
「……すまんな、エマ。豪田は顔は怖いけど根はいい奴なんだ」
『いいえ、とっても温かいお方でしたわ。……お仲間のトラック乗りたちは、皆さんお優しくて素敵ですのね』
エマは宝石のように輝くさくらんぼを愛おしそうに見つめながら、嬉しそうに微笑んだ。
陽が完全に登り切った頃、俺達は活気に満ちた港へと到着した。
冷凍された魚のブロックが整然と並び、フォークリフトが走り回る中、俺はトラックをプラットフォームへバックでつける。
「よし、到着だ。エマ、積み込み手伝うか?」
『はいっ! おまかせくださいわ!』
エマはツナギの袖を捲り上げ、やる気満々でキャビンから飛び降りた。
もちろん、重量のある荷物を持たせるわけにはいかないので、俺は比較的やり易いであろう伝票の管理をエマに任せることにした。
「エマ、この魚のブロックを積んでくから勘定してくれ。無理はすんなよ」
『はい! これくらい、お任せくださいまし!』
「ひぃふぅみぃよぉ」と小さな掛け声とともにローラー上を流れていくブロックを見守るエマ。
その姿に、周囲で作業していた港の仲間たちからも「可愛い助手がいるな」「兄ちゃん、鼻が高いな!」と次々に声がかかり、現場の空気が和やかになっていく。
作業を終え、エマに冷たいお茶を渡すと、彼女は美味しそうにゴクゴクと飲み干した。
『ふぅ……! 仕事した後の冷たいお茶は、最高ですわね!』
「いい感じだな」
俺が笑いながら頭を撫でてやると、エマは一瞬ハッとしたように目を見開き、それから耳まで真っ赤にして顔をそむけた。
『な、何をおっしゃいますの! 私はまだまだですわ! あなたと一緒に働くのは、とても……楽しいですけれど』
照れくさそうに呟くエマの言葉に、俺の胸の奥もなんだか温かくなるのを感じていた。
言葉も、生まれ育った世界も違う二人。
だが、エンジン音と潮風が包み込むこのトラックを通じて二人の絆は確実に深まっていたのだった。
読んでくれてありがと!
最近、焼肉が食べたい今日この頃…
出来れば評価と感想をおしえてくれ!そしたら次の話をかく励みになるからよろしくぅ!




