西大陸の北部へと向かう ⑩
俺は面倒なことが好きじゃない。出来れば誰かと諍いなんて起こすことはしたくない。誰かに流されたりもしたくない。
これで押しに弱いタイプだったら、そのままずるずると仕えることを承諾してしまったりするんだろうな。
ただ俺はこうしてはっきり断れるところは、両親の両方に似ているのだと思う。
母さんも父さんも嫌なことははっきり断るからな。
父さんはまだ人の話を聞くような性格だけれども、母さんはまず聞きもしない。
「何か御用?」
俺はそう問いかける。
なるべく、嫌そうな顔を作る。だって迷惑しているのを知れば、まともな人間ならこのまま去ろうとするはずだし。
うん、ただこういう時に話しかけてくるような者達なので当然のことながら俺のそんな表情で引きはしない。
なんというかさ、本当に面倒だな。普通に考えればさ、これだけ迷惑に思われた引くのが当然だと思う。
それだけ力のある人材を求めているのかもしれないけれど……正直、そういう事情は知らない。
「君が街を出ると聞いたから、駆けつけたまでだ。やはり、俺の主についてもらうことは難しいだろうか?」
そう問いかけられて、なんて諦めが悪いのだろうと何とも言えない気持ちになった。
だってさ、こんなにも俺が拒絶しているのに勧誘してくるのって愚かだろう? 俺って多分、かなり頑固な方だ。
自分が決めたことは何においてもやり遂げようとは思っているし、面倒な連中には関わりたくないのだ。
――誰が何と言おうとも、俺は誰かの下に付くことは少なくともしない。
「無理だよ。俺は誰にも仕える気はないって結論は出ているし」
どうしてこう、結論が出ていることに対してどうのこうの言うんだろうか。
何度も勧誘したり、心を尽くせばなんでも叶うとでも思っているのだろうか?
……信仰心が強いからこそ、それゆえなのかなと思ったり。信仰することでこれまである程度の希望が叶ってきたとか、そういうことなのかもしれない。
俺にも語り掛ければ上手くいくのではないかって。
諦めないことは別に悪い事でもなんでもないけれど、周りの迷惑はちゃんと考えて欲しいよな。
「それでも難しいか? 君の望む報酬を――」
「何もない」
うん、俺が欲しいものをただの人が与えられることはないし。そもそも自分の欲しいものは自分でどうにかするし。
なんだろう、俺、人と関わることは嫌いじゃないけれど、こういう風に俺の力目当てでどうのこうの言いだす人って好きじゃないかもしれない。
普通に面倒だし。
母さんが必要以上に信者と関わらないのも、こういうのを面倒だと思っているからだろうな。
特に父さんに出会ってからは他のことなんて心からどうでもいいと思っているから余計に他の人間を排除している節はあるのだろう。
俺も今は旅をして色んな経験をしたいって思っているけれども、将来的に母さんのように人とはほとんど関わらない生活をするのかも? まぁ、俺が人間としての感覚を持っているうちに色んな楽しいことをすべきだよな。
例えば半神として生きて、神であるという実感ばかり湧いていたら今のように旅をすることを楽しめない気もする。
「そこをなんとか出来ないか? 主は本当に……」
「その主とやらの事情とか、俺にとってどうでもいいので」
情に訴えれば言うことを聞くとそう思われているのは、面倒だなと思ったり。別にさ、目の前で困っている人が居れば助けたりは俺だってする。危険な目に合っている人を見たくないとか、そう言う感情が当然あったりするから。
それでもこうやって、そう言う風に言えばいうことを聞いてくれるだろうって思っているのは何だかなぁって感じ。
悪気はなかったとしても、しつこすぎない? 俺としては騎士ってもっとかっこよくあってほしいんだけどなぁ。
騎士って、小説とか漫画の中だとかっこいい人の方が多いし。
俺はそう考えて、夢を壊さないでほしいなという半ば理不尽な感情を抱いてしまう。
世の中にかっこいい騎士はいるのか否か。こういう騎士ばかりだったら、俺、騎士に失望しそう。
「主の誘いを断ることで今後の旅が――」
「脅している? 別にそれならほとぼりが冷めるまで近くの街に寄らないだけだし、最悪の場合は人里から離れて過ごせばいいだけだけど」
あくまで俺のことを心配している風で言ってくるのが余計に、少しだけ嫌だなって思ったり。
レイシューさんの主が、どういう人間なのかはさっぱり分からないけれど影響力は大きいんだろう。だからこそレイシューさんはともかく、他の仕えている面々は断ったというだけでどうのこうの言ってきたりするのかも。
それこそ嫌がらせのようなものをしてきたりとか。
基本的にこの世界って、貴族のような高貴な存在には従うべきって思考だろうし。だからこそレイシューさんも断る俺が信じられないのかもなぁ。
ただ俺にとってそういうのって、ぶっちゃけどうでもいい。




