西大陸の北部へと向かう ⑧
俺の言葉に騎士は眉を顰める。
気に食わないのだろうな。信仰心が強ければ強いほど、俺みたいな存在は神への不敬を犯しているとでも思われているのかも。そんなことは全くないんだけど。
俺は母さんと父さんのことは尊敬している。特に父さんは母さんのことを制御出来る唯一の存在だし。だからこそ余計に凄いなと思ったりはする。母さんは確かにこの世界では最強の神の一角なのかもしれないけれど、それ以上に父さんが偉大だ。
「そのような不敬なことばかりを言っていると、神から見捨てられてしまうぞ」
「俺の信仰している神は、俺を見捨てることはないので心配しなくて大丈夫だ」
俺の信仰というか、関わっている神は母親なので正直よっぽどのことがない限りはそんなことにはならない。
母さんは父さんとの子供である俺達のことを少なからず大切にしてくれているし、親子の縁を切るなんてことは俺が父さんに見捨てられるぐらいやらかさなきゃないだろう。
でも目の前の騎士からしてみれば、気に食わないのだろうなとは思った。
「あなたは自分の行いの全てが神様への信仰のためって思っている感じなのか?」
「そうだな。神への信仰心があるからこそ、俺は此処までやってこられた。命の危機に瀕した時だって、神が見守っていてくれていると思ったからこそやってこれたんだ」
「そうなのか。まぁ、そう言う考えもいいと思う。神への信仰心でそれだけ苦境を乗り越えられたのならば素晴らしいことだし」
俺も自分の身に危険がせまったら迷わず母さんや父さん、それに伯母さんに助けを求めるだろう。なんだかんだ俺に危機があれば駆けつけはするだろうし。
それって普通の信仰心を持つ信者とは異なるんだよなぁ。
俺は神の息子としてこの世界にきていなかったら、どうだったんだろうか? 普通に神様を信頼することなどもなかった気はする。うん、地球で生きていた俺からしてみれば神様って自分とは違う存在な認識だしなぁ。
異世界から来た人は過去の勇者も含めてそれなりにいるらしいけれど、そう言う人たちってこの世界に馴染めたのかな。……俺は母さんのおかげでこの世界で何の疑問も持たずに生きていけているけれど普通の人はそうじゃないだろうし。
「ところであなたの名前は?」
この騎士は俺に対して信仰心のない者として、悪感情は持たれているだろう。それでも名乗らなければやりにくい。
「失礼した。私はレイシューという。とある貴族家に仕えている」
「そうなのか。俺はサクト。旅人だ」
俺が旅人だとだけ名乗ると、何とも言い難い表情をされる。
「旅人? 職にはついていないのか?」
「そう。ただの旅人。何れ向かう場所は決めているけれどそれまでは時折仕事を見つけて働いているぐらいだ」
俺はそう答えておく。
まぁ、変な目で見られてもおかしくないのか。こうして自由気ままに旅をしている存在ってなかなかいないだろうし。
俺は冒険者登録とかもしていないし。うん、本当にどこにでも所属していない流民か何かみたいな感じだ。
「かなりの手練れだと見受けられるが、我が主に仕えないか?」
「いえ、誰かに仕える気はない」
なんというか、俺が誰かに仕えたり、どこかに所属したりはする気はない。そもそも母さんの息子である俺がそう言う立場になったら面倒そうなんだよなぁ。絶対に嫌だ。
「君が活躍することによって、君の信仰する神の名も広まるんだぞ? それに職はないよりある方がいいだろう?」
「ううん。全く困っていない」
うん、俺がそんな理由で誰かに仕えたりしたらそれはそれで面倒なことをしたら逆に嫌がられそうな気はする。
母さん怒るだろうな。正直俺達子供には自由にしてほしいっていう放任主義なのか母さんだし。
父さんがそういう意向だから、母さんは俺達を縛ることなんて全くないからな。
「どうしても難しいか?」
「うん。難しいよ」
「……一時的でも難しいか? 今、私達の主は人手を求めている」
「俺達はやることがあるので、短期間でも無理だ」
とりあえずはっきりと答えておく。うん、だって人手を求めているとかそういうのって結局向こうがそうして欲しいと思っているだけだから、俺が断るのは自由だしな。というか、貴族とか関わりたくない。
人手が足りないって、伯金を積んでいた伯母さんの信者のような連中が暴れているんだろうか? なんてそんなことを考える。
「君が我が主に仕えることで、君の信仰する神も誇りに思うはずだ」
「そういう言い回しをしても俺は頷かないって分からない? それに俺が嫌々貴族に仕えることを知ったら、俺の信仰する神は嫌がるだろうしな」
母さんは、「私を理由に嫌々誰かに仕えるとかなんなの?」って多分、不機嫌そうにはなる。
とりあえず仕えたりはしないって言い張って、奢ってもらったものだけ急いで食べてその場を後にした。
うーん、めんどくさい。




