西大陸の北部へと向かう ⑤
「その女を置いていけ」
「金目の物と女を置いていったら見逃してやろう」
山を下りてから、ほとんど手入れのされていない街道を歩いていたら盗賊に遭遇した。いかにもな発言をしている。此処からもうしばらくいけば街がある。街へと向かう旅人をこうやって待ち伏せにしているらしい。
典型的な盗賊って感じがする。あと俺達のことを凄く舐めている。
……なんていうか、俺って舐められる見た目はしているんだろうな。強そうに見えないだろうし。
もう少し見た目からして強そうになった方がいいのかなって思ったりもする。その方が余計な干渉を受けたりしなくて済むし。とはいってもこれが俺なんだけれど。
うん、まぁ、見た目ごつい俺とか似合わないしなぁ。
魔法で見た目をごつく見せるぐらいは出来るだろうけれども、わざわざそれをするのも面倒だしな。
「断る」
俺がばっさりとそう言ったら周りの盗賊たちが怒り心頭な様子になった。
なんていうかさ、俺、こうやって自分より弱いと思い込んでいる相手にだけいきっている人ってあんまり好きじゃないかも。
「なら、力づくで奪うまでだ!!」
そう声をあげて、指示役らしい男が何かを言うと後ろの盗賊たちが襲い掛かってくる。
「クラ」
俺は面倒臭かった。なので、クラの名を呼ぶ。ちなみに今は朝である。こんなに天気がよくて、すがすがしい日に盗賊から襲われるとか、俺はついていないのかもしれない。
「僕が片付けるね! 殺さず捕まえる」
クラはそう言ったかと思うと巨大化した。クラの身体が変化すると、盗賊たちは悲鳴を上げた。まさか巨大化するとは思ってなかったらしい。
ただの猫だと思っていたら、魔法を使う恐ろしい猫だったなんて恐怖するのも当然といえばそうだ。
あ、でも盗賊たちはこのまま街へ突き出す予定だから巨大化してもらわない方が良かったか?
クラのことが噂になるのも俺としては避けたいのだけど。
なんて思っていたけれど、クラは盗賊たちを捕縛した後にすぐさま盗賊たちの記憶を弄っていた。自分のことを言いふらされるのをやめようという思考が働いたのだろう。
「これでいい?」
「うん。ありがとう、クラ」
クラはこの世界にやってきてから、大分神獣として適応していっているんだなとそう思う。俺もこの世界に慣れてきたとは思うけれど、クラの方が随分馴染んでいる気もする。猫って元々気まぐれな存在だし、すっかり割り切っているのだと思う。
魔法を使って盗賊たちは街まで連れて行った。
賞金を受け取ったのもあり、少しだけ良い宿に泊まることにした。
ちなみにだけど盗賊たちを軽く討伐している俺が、冒険者登録もしていないことには驚かれた。進められたけれど特に登録する必要も感じないので頷かなかった。
ちょっとした資金稼ぎをするために、短気で食堂で働くことにした。雑用係である。どうやら食堂で働いている女性が妊娠してしばらく休んでいるらしかった。
俺はどのくらいこの街に滞在しているか不明だが、滞在中はしばらく此処で働くことは決めた。
子供が生まれるのって凄く良いことだよな。この世界だと福利厚生はあまり充実していないイメージだったけれどもこの食堂は待遇が良いみたいだった。
ただ街を歩いていると横暴な貴族は見かけた。このあたりをおさめている貴族の息子らしい。かなりやらかしていると聞いた。それこそ気に入った女性を無理やり連れて行ったりとかそういうこともよくやっているようだ。
親が注意しないことがとても疑問だった。だって普通に考えて自分の子供がそんなことをしていたら嫌じゃない? いや、でも親もそう言うタイプの貴族だったらこれも当たり前なのか? うん、そうなのかもしれない。
なんて、考えた。
この街の貴族が横暴なタイプだったら長居しない方がいいかも? そう言う人に絡まれたら困るしなぁ。
俺にとって貴族とか、他の権力者とかも正直言ってどうでもいい。
それは俺が神の血を継いでいて、最悪の場合どうにでもなると思っているからかもしれない。
権力を持つ者達に対して敢えて反発しようとは全く思わないけれど、俺や周りに迷惑をかけるなら何かしら対応はしてしまうと思う。権力に屈するなんてことはまずしない。
出来る限り騒動は起こしたくないけれど、絡まれたらその時はその時だしなぁ。
この街、その貴族の息子が街を歩く際は女性や子供は外に出ないようにしようというのが平民達の共通認識のようだ。
子供も連れて行ったりするそうで、連れていかれた子供は戻ってきたけれどもトラウマを抱えているんだとか。何とも迷惑な存在である。
フォンセーラとノスタも気に入られる可能性があるから外に出ない方がいいと街の人々に言われていた。二人はそんな貴族の存在で自分の行動が制限されるのは嫌なのか、顔をしかめていた。
俺が「絡まれたら大変だから宿に居て欲しい」って言ったら頷いてくれたけれど。
あの貴族の息子、どうにかならないかなと思っていたある日、騎士がその貴族の息子を捕縛していた。




