光の女神の巫女との会話 ②
結婚?
結婚っていったか? 夫婦になるということ。俺とアルバナが?
意味が分からないまま、混乱する。当然のことながら、俺は異性からこんなことを言われるのは初めてである。
そもそも俺は異性から騒がれるようなタイプではない。この世界にやってきて自分が神の息子であることは知った。その点は、他の人達にない特別な部分だとは思う。
けれど地球に居た頃は、それはもうどこにでもいる高校生でしかないし、プロポーズ的なものをされた経験はない。
第一、基本的に男性側からそういうことを言うイメージだしな。それに恋人同士でもないのにいきなり逆プロポーズをしてくる意味ってなんなんだろうか。
ときめきとかそんなものはない。嬉しさなんて感情もない。
――それはアルバナの表情を見てのことだった。だってアルバナは熱のある表情をしていない。彼女は俺に恋しているわけでもなく、ただ何らかの理由でこんな申し出をしているだけだと思う。
「どうしてだ? アルバナは恋愛感情を抱いているわけじゃないだろう?」
「分かります?」
「ああ。そのくらいなら分かる。だからこそ、なんでこんな申し出を俺に言ってくるかが分からないんだ」
俺がそう言ってもアルバナは笑顔を見せているだけだ。感情は動いているように見えない。
やはり特に俺に特別な感情を抱いているわけじゃないのだろうな。……なんかそういう本気の感情がないのに結婚を申し出られるのってあんまり良い気分にならない。寧ろ少し嫌な気持ちだったりする。
とはいえ、何か理由があってこういった申し出をしていることは分かるので怒りを露わにすることはないけれど。
「サクト様は不快に思われるかもしれませんが、その方が都合が良いからです。私は光の女神であるイミテア様の巫女です。信者間ではそれなりの発言力がありますし、イミテア様の言葉を時折聞くことは出来ます。……ただ、私はそれだけです」
アルバナはそう言って目を伏せる。
”それだけ”などということも何を言っているんだろうかという気持ちにはなった。
神様の存在が地球よりもずっと身近なこの世界においては、特定の神様の巫女なんて存在は特別なもののはずだから。
「それだけっていうのはどうかと思う。普通の人は神の声なんて聞けないんだろう?」
俺は神様である母さんの血を引くから、幾らでも声をかけてもらえたりするけれどそれはあくまで息子だからでしかない。
血の繋がりもないのに気に入られて声を聞けるのは凄いことだとは思うんだが。
「それはそうですが、それだけでは私のことを認めない者もいるのです。イミテア様の信者は、とても数が多い。その分、様々な考え方を持つ者達が居ます。それこそあなたの母親である闇の女神ノースティア神を排除しようとする動きもあります」
「……それは知っている。滅ぼすべきだって言っている連中だろう?」
「はい。私としては、イミテア様が望んでいないことを率先してやるつもりはございません。サクト様の話を聞く限りイミテア様とノースティア神の仲は良好ですし、そんなことをする者達のことは止めています。しかし私は力不足なのです。声をかけても彼等は止まってはくれません」
真剣な表情でアルバナはそう言った。
勝手な行動をする者達のことを考えて、胸を痛めているのだろうというのは分かる。
「だからこそ、ノースティア神の息子であるサクト様と縁続きになればそんな身勝手な行動を止めることが出来ると思えました」
これは要するに敵対する国同士が和平のために王族を結婚させるみたいな、そんな感じの事なのだと思う。前世で読んだ漫画ではそう言う話あったなぁと思い出した。
まさか自分がそんな政略結婚的なものを求められるとは全く思っていなかった。でもそうか、俺が闇の女神である母さんの息子だからこそその一点のみで俺には大きな価値があるのだろう。
自身が思っているよりも母さんの息子であることはこの世界にとっては唯一無二のことなんだなとも感じる。
「ですからサクト様と私が結婚すればイミテア様とノースティア神の仲が良好なことを示せます。子を作ればより一層それは強固な認識になるでしょう」
「はい?」
「もちろん、一度だけで構いません。ただそうした方がやりやすいのです。普通の夫婦関係などは求めません。形式上のものでも良いです。ただもし子を作らない場合は私は別に子を作ることが望ましいですが……」
……なんかやっぱりこの世界って、地球と認識が大分違うんだよなぁ。
なんでアルバナの年でこんなに覚悟が決まっているんだよと驚きしかない。しかしこの世界では、そう言う目的のための結婚なんてありふれているんだろうな。
アルバナは俺に愛情も恋心もなく、ただ神の息子であるという一点のみでの敬意があるぐらいか。
本気で、真剣なことは分かる。ただ……俺はこんな申し出には頷けない。
「ごめん、無理」
だからはっきり答えることにした。




