ダークエルフ種に纏わること ⑧
そこにいたのは真っ白なフードを被った少女である。美しい金色の髪を持つ、少女に周りの大人たちは一目置いているらしかった。そのことが周りの様子から分かる。
俺と同じ年ぐらいに見えるのだけれど……。
なんだろう、あとは雰囲気が何だか独特で、神への理解が深そう。
「そうはいっても……」
「イミテア様は邪神を亡ぼすことなど望んでいないのですよ。そのことは聖典からも分かります。過去に邪神とイミテア様は協力し合っていたという逸話があるのです。そのことは頭に留めておく必要があるでしょう」
少女は穏やかな口調でそう言い切る。どこまでも静かに、だけれども意思の強さが伺える。
伯母さんのことをよく理解しているというか、そう言う感じなのだろうか。……なんだか、もしかしたらあの少女が、伯母さんの巫女と呼ばれる存在なのかもしれないと直感で思った。
あくまで俺がただそうかも……と思っただけだが、俺の直感でそこそこあたる気はする。
なんにしても伯母さんが母さんと敵対する道を選んでいないというのを理解している信者がいることは良いことだとはいえる。
「……本当に、イミテア様が邪神と手を取り合っていると? 正直、あんな恐ろしい逸話ばかりの神と我らがイミテア様が親しくしているなど考えたくもありません」
「神の意思は、私達信徒が決められるものではありません。イミテア様は過去の逸話の中でも、一度も闇の女神であるノースティア神に対して悪感情を向けたことはございませんわ。その事実はきちんと受け止めるべきかと。確かにかの神の信徒は私達にとっても、善良な他の神の信徒たちにとっても様々なことをやらかしてはいます。しかしそれがノースティア神の意思であるかどうかは私達には分かりかねることです。ですから、私達のすべきことはノースティア神とその信徒を切り離して考えることかと」
なんか、この女の子、随分冷静だな。
神の信徒って、割と盲目的で、思うかがまま動く人の方が多いようなイメージだったけれどもそうじゃないみたいだ。
ただ事実を口にしている様子である。
神と、その信徒。その思考は必ずしも一致しているわけではない。
この女の子みたいに、全員が全員……神と信徒を分けて考えてくれたらいいのになと俺はそんなことを思った。
少なくともグランシティダやダークエルフ達に関しては、全く以って母さんとは関係ないところで勝手に思い込みで動いているわけだし。その行動のせいで逆に母さんの評判が下がるかもしれないなんて、彼らは一切考えていないのである。
なんだか、俺は母さんの意思をちゃんと尊重してくれない信徒って気に食わないかも。俺は母さんのことを大切に思っているから、だからこそ母さんは気にしなくても俺はそういう信徒は嫌だ。
独りよがりに、母さんが特に望んでもない行動を率先して行う連中ってちょっとなぁって思うのが本音。
「……それもそうですね。しかし、この街の周辺にもダークエルフ達が良からぬことを行っていると聞きます。それを放っておけばどんな悲劇が起こるか分かったものではありません。最近、各地でダークエルフ達が動き回っているので、気を付ける必要があります」
「それはそうです。私も彼等を放置することはいただけないと思っています。イミテア様はノースティア神の信者が良からぬことを行うことは望んでいないでしょう。私の声がどうか、イミテア様に届き、ノースティア神に働きかけてくれるといいのですが。……とはいってもノースティア神は信徒に呼びかけなどほとんどしないと噂ですし、最近は姿も現していないので難しいかもしれませんが」
少女はそういって、小さくため息を吐いていた。
彼女が伯母さんの巫女という立場であるならば、きっと調整役として凄く大変な思いはしているのだろうなとは思う。
巫女って立場ならば、伯母さんから直接声をかけられることもあるかもしれない。その意思を正しく他の信徒たちに伝えることが役割だろう。
それでいて伯母さんの意思を汲むのであれば、母さんの信者達を排除しようとする過激派をどうにかしなければならない。
……伯母さんの信者の中には、母さんやその信者は滅ぼすべきって存在が少なからずいるからな。
そう言う連中を止めなければならないだろうし、うん、俺は絶対にそんな間に入る役目やりたくない。
凄い大変そうだな……と勝手に同情してしまった。
俺は伯母さんの信者のまともな人達とは普通に喋ってはみたいんだよな。あのエルフみたいなのはごめんだけど。
そう言う信者たちと喋ったら、母さんの昔のこととかもしれるだろうし。伯母さんの事に関しても信者から見たらどんな感じなのかなとか知ることが出来たら楽しそうだ。
そんなことを考えていたら――少女と目が合った。
その目が見開かれる。……すぐさま俺は踵を返した。
……伯母さんにとって特別な立場だからこそ、俺のことにも気づいたんだろうか。




