幕間 女神は愛しい人と共に故郷を歩く ⑤
「ほら、私の博人だよ。近づいたら許さないよ。それに名前を呼ぶのも駄目。私の博人に不埒な目を向けたら、消すよ?」
私、薄井乃愛は渋々神界に顔を出した。本当はもっと、時間をかけたかった。私は博人と二人でもっとぶらぶらしたかったから。
だけど博人からちゃんと神界に挨拶をしたいって言われたから一旦顔出しにきた。
私の博人が他の神の視界に入るのも正直言って気に食わない。だって私の博人だよ? 私にとって特別なダーリンなんだから、周りから注目を浴びるのも当然だよね。でもそれって私は嫌なの。私の博人が特別で、神々からしても興味深いのは分かる。私の力が効かなくて、私が愛を誓っている唯一の存在だから。でもだからといって、私の博人のことを取ろうとする存在なんて許せない。
「ひぃいい……も、申し訳ございません。ノースティア様!!」
「は、はい、もちろんです!! な、なんとお呼びすれば?」
私の言葉を聞いて馬鹿みたいに怯える神たち。私が恐ろしくて仕方がないみたい。きっとこういう神たちは、博人のように私の常識改変などがきかない状況だったりしても、私に怯えるんだろうなぁ。そういうところが博人の凄いところだ。
幾らきかないと分かっていても、少なくとも地球に居た頃の博人はただの人間でしかなく、私が物理的に消そうと思えばすぐにどうにでも出来るぐらいに弱々しい存在ではあった。
――それなのに博人は当たり前みたいに私のことを受け入れて、怯えたりなんかしなくて、あくまで対等に話しかけてくる。やっぱり私の博人って、凄いよね。
私は博人の凄さを周りに広めたいなとは思っているけれど、博人に対して誰かが注目するのは嫌だなんていう矛盾した感情を抱いている。
「そんなの、そちらで考えればいいのよ。私にきかないで」
博人の呼び方なんて、好きに考えればいい。だけれども嫌な呼び方とか、博人のことを貶めるような名を呼ぶなら、私は許さない。
「乃愛、そんなに虐めちゃ駄目だよ。僕の呼び方なんてどんなのでもいいでしょ」
「よくないよー。博人はね、この世界の誰よりも大切にされるべきなんだよ? だって私の博人だよ?」
それにしてもやっぱり博人はこれだけの神様に囲まれていても相変わらずなのだ。いつも通りで、自然体で。そういうところが大好き。
周りが博人のことを信じられないようなものを見る目で思わず笑ってしまう。それでいいんだよ。私の博人になれなれしくする存在なんていらないから。
私は博人にべったりくっついている。私の博人のことを周りが見つめていることも凄く嫌。博人に一生懸命話しかけている私を凄い目で周りは見ていたりする。
……なんかその目、苛つくね、消す?
「乃愛、駄目だからね?」
「なにが?」
「物騒なことを考えていたでしょ。嫌な思いをしているのは分かるけれど、そんなことしないで」
博人にそう言われて私はにこにこしてしまう。やっぱり私の博人だなぁって嬉しくなる。私の表情から私のことをすぐに理解してくれている。好きで好きで好きで仕方ない。博人の視界に入るのが私だけであったらいいのに。
博人は私のことを大切に思ってくれているし、こんな私のことを面白がってもいるとは思う。でも私よりも博人の興味を引く存在が現れてしまったら嫌なの。だからこそやっぱり博人は私とだけ一緒にいてくれたらいいのに。
「ノースティアのこんな姿は初めてみますね……。それにしても独占欲がひどすぎるのではないでしょうか。私も義弟とちゃんと話したいのですが」
「お姉ちゃんも博人と話しちゃ駄目。神界に来ただけでも褒めて欲しい。本当は博人を神たちの前に連れてきたくなかったもん」
「はぁ……まぁ、それはそうですし、こんなに早く連れてきてくれるとは思っていなかったのでありがとうございます。ところでヒロ……」
「お姉ちゃん? 博人の名前呼ばないで」
「私も駄目です?」
「当たり前。博人の名前、呼ぶの許さない」
「はぁ……分かりました。義弟はサクトに似ていますね」
お姉ちゃんは渋々と言った様子で私の言葉に頷いた。お姉ちゃんでも駄目に決まっているじゃん。寧ろ博人の名前を呼ぶのは私だけでいい。ああ、でもクラは博人の名前を呼んでいるけど。まぁ、それは別。
お姉ちゃんは異性にだらしないし、博人に興味を持ったらちょっかいをかけるかもしれない。尤も私がどれだけ博人を愛しているかとか知っているだろうから、よほどのことがないとそんなことはしないだろう。
お姉ちゃんは顔立ちが整っている人の方が好きだったりするし。
でも興味を持ったらそうじゃない人にも手を出したりしているのを知っている。神は自由奔放な部分もあるし、異性関係が酷かったりするもの。
――お姉ちゃんに、博人にちょっかいをかけないようにちゃんと言っておかないと。
「そんな風に睨みつけないでくださいよ。流石にあなたの特別な相手には手を出しませんよ。神界にはしばらくいます?」
「ならいい。私はずっとはいないよ。というか、博人がね、この世界を沢山見て回りたいって言っていたの。だから顔出しただけなの」
「……え。またすぐどこかに?」
「うん。志乃と華乃とは話すけど、その後、すぐに行くよ」
私がそう言うと、お姉ちゃんは少しだけ寂しそうな顔をした。だけど、そんなのは関係ない。
そういうわけで私と博人はしばらく神界でのんびりした後、またぶらつくことにするのだった。




