OPEN
さあ、今日はいよいよ松月庵とパティスリーミランダのオープンだ。
無事、こぎつけて良かった。朝食を食べ、オープン前の最後のミーティング。
「お早うございます。遂にオープン日を迎えました。まずはお疲れ様でした。
レイさん、パティスリーの段取りは?」
「はい、11時オープンの予定です。おそらく、その前からお客様が並ぶと予想
されます。厨房の方はミランダと今日もダリアが。ホールの方は私のチームで
まわします。行列の整理はユキナとイルマに。昼食時の交代の時はホールに
入ってもらいます。小梅ちゃんとイチは休憩室に控えてもらってトラブルが発生
した際の対処と松月庵との連絡係も頼みます。」
「了解。松月庵の方は?」
「はい、同じく11時オープン予定です。そば粉自体は次元倉庫にかなりストック
しましたので問題はありませんし、昨日、2日分の仕込みを終わらせてますので
大丈夫です。ホールは私1人ですが美月ちゃんに状況によっては出てもら
おうと思っています。」
「了解。僕は松月庵に皿洗いで入るよ。なんだかんだで問題は起きると思うけど
それぞれ臨機応変に対応して下さい。それでは、よろしくお願いします。」
みんな、それぞれの場所に散っていく。
「諭吉、僕は執務室に寄ってから行く。」
「わかった。」
「失礼します。カエデです。」 バロン夫妻とバート夫妻がいた。
「カエデちゅわ~ん!」
「どわっ!爺ちゃん。」 爺ちゃんに抱き上げられ、頬ずりされる。
「あなた、カエデは用があって来たのですよ。」
「そうだったのう、すまんすまん。」 ふぅ、降ろされた。
「今日、松月庵とパティスリーミランダともに11時にオープンします。
今の所、特に問題はありませんがパティスリーの方は混雑が予想されます。」
「そうねえ、FCの人もDSの人も楽しみにしてたわね。」
「ほとんどが女性のお客さんなので、揉め事は起きないと。」
「甘いわよ、カエデ。場合によっては女性の方が怖いのよ。」
スィーツなだけに、とか言われなくて良かった。絶対吹くわ。
「な、なるほど・・・。」
「いいわ。今日は私とマリアがなるべく居るようにしましょう。」
「お、お願いします。僕は皿洗いで松月庵に入って、終わったらパティスリーの
厨房に入ります。」
「わかった。しかしカエデも諭吉君も7歳だ、無理はするな。
松月庵の方にはシュリが居るように頼んでる。」
「わかりました。お願いします。」
執務室を後に、松月庵に向かう。途中、気が付いた、もう行列ができてる・・。
あれ?松月庵にも行列が・・何でだ?
リリーさんのチームが行列の整理をしている。あわてて勝手口から入る。
「諭吉、何で行列できてんの?」
「そば、食いたいんじゃね?」
「知ってるよ!」
これは、いきなりピンチだな。オープンまであと2時間あるぞ。う~ん、よし!
「諭吉、今日だけオープンを10時にしよう。少しでも行列をなくして
ソールドアウトにする。」
「いいぞ、準備はできてる。」
「小梅、レイさんに10時オープンがいけるか聞いて。」
「うん。いけるって。」
「よし、じゃあ10時オープンで。」
「わかった。」
「美月、ホールにでて。」
「わかりました。」
「ニイ、リリーさんに伝えて。」
「うむ。」
「カエデ。」
「なんだ?」
「これに着替えろ。」
「えっ!まじ?」
「当たり前だろ!それは蕎麦屋の魂だ。」
「クッ!わーたよ!」 そう言われると着替えるしかない。
10時だ。オープン!
テーブル席とカウンター席分の人がなだれ込んでくる。そこから、全メニューが
ソールドアウトするまでの約4時間、怒涛の松月庵タイム。
僕は皿洗いだけでなく、調理の手伝いもした。シュリ叔父さんも最初はホールに
居たが、こりゃまずいと厨房に入り(諭吉に魂に着替えさせられていた)神の
包丁さばきを見せていた。諭吉はいつの間にか、シュリ叔父さんを師匠と呼んで
いた。さすが、神の料理人。気付くとシンクの中は皿やらどんぶりでいっぱいだ。
「ぬほぉ~!」 身体強化で高速皿洗いアンド魔法DEドライヤーで乾かす。
ホールもリリーさんと美月が、いったい何と戦ってるんだ!という高速移動。
「う、うまいぞー!」とか「な、なんだこれは!」とかガークさんの声が
聞こえるが、かまってる暇はない。
暖簾を降ろした時点でまだ人は並んでいたが、ボタン先生と魔導部隊に頼んで
整理券を作り明日の優先権を渡し事無きを得た。
リリーさんと美月が、どさりと座り込む。もちろん、魂のエプロンを付けている。
「なんですか、これ・・・。」
「お疲れー、やばいねこれ。ガーネットって蕎麦の文化がなかったんじゃ
なかったっけ?」
「これはあれだな、逆にそれが好奇心になって人を集めちまったんだな。」
「ふぅ、こんなに短時間で蕎麦を作ったのは初めてだ・・・。」
「う~ん、週末2日だけの営業にした方がいいね。1日は仕込みで4日は休み。」
「そうだな。そうしたほうがいいだろう。それとヘンリエッタ様に院の人員の
件、夜にでも確認しておけ。」
「了解。僕はパティスリーに行くけど、あとは任せてもいい?」
「ああ、片づけるだけだから俺と美月で大丈夫だ。」
「諭吉と美月は、その前に飯を食っちまえ。いっしょに食堂に行くぞ。」
「はい、師匠。」 シュリ叔父さん達は食堂へ。
僕とリリーさんはパティスリーに向かった。着くとこちらも同じような状況で
ミランダさんもダリアさんもホールに出て接客していた。皆、お昼をとって
なさそうだな。まだ3時間あるし・・よし!
「小梅、行列さばいてる人の半分を呼んできて。ミランダさん、状況聞きたいから
先に昼食とって。その間、ダリアさんお願い。」
「「わかりました。」」
「カモナ、クレープとコーヒーを。」
「かしこまりました。わたくしも行列の方に回ります。」
「お願い。」2人のカモナのうちの1人が外へ。
先に昼食をとる人達がリビングに集まる。食べながら状況を聞く。
「予想はしてましたけど、これ程とは・・・。行列がなくなりません。
揉め事も数件おきました、マリア様とヘンリエッタ様が収めてくれました。」
「松月庵はどんな感じですか?」
「似たようなもんだよ、明日の整理券は配ったけど。向こうでも話したんだけ
ど、週末だけの営業にして4日オフで1日は仕込みって感じ。」
「パティスリーもそうしたいですね。ただ仕込みは3日は欲しいです。」
「そうだね、作れるだけ作って保存しておいてオープン時は全員で接客。」
「どのみち行列ができるなら、2日間に集約させるって事ですね。」
「そうなるね。よし、交代しよう、みんな腹ペコだよ、きっと。行列は僕がさばく
から残りのみんなに昼食をとってもらおう。よろしく、カモナ。」
「かしこまりました。」
婆ちゃん達と交代して行列をさばく。松月庵以上にすごいな・・・。
「まだケーキはありますので、落ち着いて並んでください。」
列の真ん中らへんで、揉めてる声がする。やれやれ・・・。
「お客様、落ち着いて下さい。どうなさったのです?」
「このアマゾネスが、横入りしてきたのよ!」
「誰がアマゾネスだ!ちょっとトイレに行ってただけではないか!」
ああ・・並んでると、そういう事もあるよね。2人とも武芸者か・・。
「トイレなんて、その無駄な筋肉で止めなさいよ!」 いや、むり・・・。
「なんだと!おまえこそ武芸者の癖に口ばかりではないか!」
「なんですって!うちの流派を馬鹿にするつもり!」
いやちょっと、あんたらケーキ買いにきたんだよね・・・。なんで流派の
話になってんの?
「ストップ、ストップ!お2人とも落ち着いて下さい。生理現象はしょうがない
ですよ。ここはひとつ子供の僕に免じて、ケンカはおやめ下さい。お2人とも
ケーキを買いにきたのでしょう?」
「むう・・確かに・・。ケンカをしに来たわけではない。」
「そうね・・流派よりもケーキよ。」 いや、それもどうかと・・・。
ふぅ、なんとかおさまったか・・。頼むからこの人達の前でケーキがなくりませ
んように・・まじで。こうして見ると男性もちらほらいるな・・。
ガークさんみたいに下戸で甘党の人もいるもんな。
その後、列も順調に消化しケンカしていたお姉さんたちも無事にゲット
できたようだ。よかったよう・・。
婆ちゃんとマリア先生も復帰し、僕は厨房へ。
「ミランダさん、足りないのある?」
「はい。今日は大丈夫ですが明日のガトーショコラとモカケーキがやばいです。」
やはり、森の素材は人気か・・・。閉店まで1時間くらいだ、両方は無理だな。
「カモナ、スポンジケーキを作れるだけ作って。僕はモカクリームを作る。」
「「かしこまりました。」」
「ぬほぉ~!」身体強化を掛けて(本日、何度目だろう)、戦うよりもしてる。
でも、こっちの方が平和。
カモナーズと3人でモカクリームを塗りまくる。10ホール作る事ができた。
そろそろ閉店の時間かな、松月庵と同じく整理券を渡す。
「みんな、お疲れ~!反省点とかあれば明日の朝礼の時に。今日は片付けをして
終了にしよう。」
「わかりました。」
「婆ちゃん、院の件てどうだったの?」
「2、3人、お願いしようかと思っていたのだけど、この様子だと倍頼んでも
良さそうね。」
「そうだね、料理好きの子がいてくれると助かるけど。」
「次のケーキの仕込みは3日後だったわね。」
「うん。」
「じゃあ、その時に2,3人連れてくるわ。」
「ありがとう。マリア先生、売上とか人件費とかお願いしても?」
「いいわよ。予定よりもかなり多いわね。」
あんだけ人が並んでたら、そうなるか・・・。
松月庵も全メニュー完売だし、諭吉は金持ちになれるな。
「ミランダさん、ダリアさん。これ、開店祝い。よく切れるから注意して。」
「あっ、包丁。ありがとうございます・・ただならぬ雰囲気ですね・・・。」
「ちょっと、カエデちゃん。あの包丁から神気漏れてるけど・・。」
「う~ん、僕が作るとああなっちゃうんだよね。切れすぎないように調整した
から大丈夫だと思うけど・・。」
「気絶してないし、まっいいでしょう。」 てきとーか・・。
「諭吉に渡すのなんて、加減がわからない時に作ったやつだからまな板まで
真っ二つだったよ。」
「大丈夫なの?」
「力加減の修行にもなるし、おもしろいから。プププ・・・。」
「怪我だけは、しないでね。」
「うん。ああ見えて諭吉は天才だから。」
パティスリーはみんなに任せ、松月庵に戻る。
「お疲れい!終わった?」
「ああ。」
「これ、開店祝い。」
「頼んでた、包丁か・・。嫌な予感がする・・。」 するどい・・。
早速、試し切りをしてまな板を真っ二つにする。プププ・・。
「・・・てめー。」
「修行だよ、修行。その包丁をうまく扱えればノワールをもっとうまく
扱えるようになるから。」
「そうか、力加減か・・。なるほど、ありがとう?」
馬鹿な天才でよかった。プププ・・・。




