ELIXIR
「爺ちゃん、今いい?」
「カエデか・・。いいよ、バロンの事かい?」
「うん。爺ちゃんも気づいたでしょ?」
「ああ、あれはやっかいな呪いだね。」
「父さん達、気づいてないのかな?」
「ロイド君はディスペルを何度も使い、アスカちゃんがエクストラヒールを
使ったようだが、改善は見られなかったそうだ・・・。」
「それで不治の病と判断したんだ。」
「そのようだね、しかしこんな解きようもない呪いなら、不治の病と
いっしょだしね。」
「いや、解けるよ。爺ちゃん。」
「なんと!それは本当かい!」
「うん。けど、ちょっと遠出しないと必要なものが手に入らないんだよ。
それで、協力してほしくて。」
「かまわないけど、どこまで行くつもりなんだい?」
「ちょっと、世界樹まで。」
「世界樹ってエルフの森かい?」
「エリクサーはあそこのてっぺんじゃないと、手に入らないんだ。」
「エリクサー・・・たしかにそれなら・・。でも、遠すぎるよ。」
「移動手段はあるんだ。明日の夜には戻れるよ。」
「そうか!イカルガ様なら可能なのか・・・。」
「たしかに、イカルガだったら朱雀さんも青ちゃんもいるから可能だけど
まだ『箱庭』は使えないんだ。」
「では、どうやって?」
「内緒にしてね。僕のプライベートシップなら可能なんだ。
龍神の玉を使っているから。」
「爺ちゃん、びっくりだよカエデ。龍神の玉って存在するんだねえ。」
「うん。だから移動は問題ないんだけど、僕が居なくなると騒ぐ人が
いるでしょう?」
「居るよね・・・どうする?」
考えろ、考えろ。
「いや、待てよ。世界樹まで行かなくても、なんとかなるかも!」
忘れてた、エルがガーネットの森に居るじゃないか。それなら2時間。
今の時間を考えると、寝るまでには戻ってこれるぞ。
「爺ちゃん、行って来る。2時間で戻るから、その間ごまかしておいて。」
「わかった。気を付けてね。」
「カモナ。様子はどんな感じ?」
「はい、お二人ともそろそろおやすみになるようです。」
「丁度いい。カモナ、ガーネットの森にまた行くよ。イド君、よろしく。」
「かしこまりました。」
僕は念の為、光彩(改)を発動し、カモナのドックへ。
「イド君、悪いね。またガーネットの森まで飛んでほしい。」
「かしこまりました。」
「よし。発進!」
到着までの間、呪いについて考える。あの呪いは不治の呪いだ、不治の病と
間違っても無理はない。術者の死がトリガーになり、命と引き換えに強力な
呪いが発動する。おそらく、父さん達がらみだろう、僕にも暗殺者が送られて
きたくらいだし、爺ちゃんには呪いがいったってことか・・。許せないが、
術者はすでに死んでいる。コウヤに頼んで結界石を・・いや、僕も作れる・・
どうみち、コウヤには一度相談しよう。
ふぅ、カモナが淹れてくれたコーヒーを飲みながらため息をひとつ。
今日は、本当に忙しいな・・・。
「到着します。」
「了解。ベストプレイスに降ろして。」
「かしこまりました。」
「エル!ボックル!」
「やあ、カエデ。久しぶりだね、この森はいいね!」
と言って、親指を立てているのがエルだ。
「もう居ると思ってたよ。食堂とかに行ったかい?」
「ボックルと毎日通っているよ。本当に美味しい。精霊達も行きたいって
言って、人化の練習を一生懸命してるよ。」
「ああ、だから森がさらに活性化してるのか・・。」
「どうしたんだい?確か、神居に行ってるって聞いたけど。」
「それがちょっと、不治の呪いを身内が受けてね、エリクサーが欲しいんだ。
世界樹に行こうかと思ってたんだけど、もしかしたら、エルが既に来て
るかと思って寄ったんだ。」
「不治の呪い?今時あんなの使う馬鹿がいるんだ・・エリクサーか、大丈夫だよ
この森、エルフの森より全然いろんなもの溢れてるから。パワーが漲る感じ。」
そう言って手を握り、開くと濃い青色の石。エリクサーだ。
「この森のお陰で、いつものエリクサーの2割増しだね。あげるけど、こっちの
お願いも聞いて。」
「できる事なら何でもするよ。」
「この森に世界樹の苗を植えさせて。ボックルが管理するから。」
「まじで?」
「さっきも言ったけど、この森の方がエルフの森よりいろいろ溢れてて都合が
いいんだ。世界樹があると僕だけでなく、他の精霊達も行動し易くなる。」
「わかった。呪いを受けているのは、ここの元領主だし嫌とは言わないよ。」
「良かった。みんな喜ぶよ。はい、じゃあこれ。」
僕はエリクサーをもらい、トンボ返りだ。エルには好きなように森をいじって
いいと伝えた。父さんもバート叔父さんも、文句は言えまいて。
カモナでエリクサーを飲める様に加工して(エリクサーを加工できる人、今
いるのかな?)、これを朝にでも爺ちゃんに飲ませれば万事オーケー。
2割増しは若干気になるが、呪いが解ければ問題ないだろう。森の事は明日、
父さんとバート叔父さんに話そう。今日はもう無理、戻ったら風呂入って寝る。
「カモナ、これを明日の朝にでも爺ちゃんに飲ませて、なんだったら婆ちゃん
にも、たぶん爺ちゃんにの事ですごい疲れてると思うからさ。」
「かしこまりました。・・ありがとうございます。」
「セバスさんが命を懸けた2人だ。長生してほしいからね。着いたら起こして。」
「かしこまりました。」
翌朝、母さんに抱き枕にされており、巨乳で窒息して目が覚めた、凶器だよ。
なんとか振りほどいて中央にある、食堂兼談話室へ。
母さん以外、みんないた。挨拶をしてベル姉の隣に座る。
「ダンジョン行くの?」
「ええ、ちょっとカエデちゃんから貰ったの試したくて。」
「くれぐれも気をつけてね。ダンジョン、壊さないでね。」
「大丈夫よ、少し試すだけだから。」
「クロ兄はツムギ婆ちゃんの所?」
「そうだよ、タケルに付き合うよ。封印刀の事も聞いておきたいしね。
盾は帝都に戻ったら試すよ。」
「クロ兄もまじ気をつけてね。それ、神器らしいから・・・。」
などと、兄姉、いとこ達とのほほんと朝食を食べているとドッカ~ンとドアが
開いて「カ・エ・デちゅわ~ん!」と変なおっさんが乱入してきた。
皆、いっせいに得物を抜き僕とおっさんの間に割って入った。
すげーなガーネットとタチバナ。見事な動きだ。にも関わらず乱入者はそれを
ものともせず、全てかわすか吹っ飛ばすかして、あっさり僕にたどり着き
抱き上げ頬ずりをする。
「カ・エ・デちゅわ~ん!ありがとう!セバスから聞いたよ!」
へ!? 「バロン爺ちゃん?」
全員一斉に「えっー!!若返ってるうー!!」
入り口を見ると、若返ったヘンリエッタ婆ちゃんが凛として入ってきた。
腰には「雪月花」。「えっー!!こっちも若返ってるうー!!」
「朝から騒々しいですよ。皆、座りなさい!」
僕はいろいろまずいと思い、光彩(改)を発動し逃げようとした。
しかし、ヘンリエッタ婆ちゃんに捕まり、抱き上げられた。クッ、なんで
わかった・・・。
「カエデ、逃げる必要はありません。あなたには感謝しかないんですよ。
悪い様にはしませんから。」
とりあえず皆座り、2人の話を聞く事に。僕はヘンリエッタ婆ちゃん抱っこ
されたままだ。
「うむ、ロイド、バート。心配をかけてすまなかった。この通り、元気に
なった。」
「父上、元気になったのは嬉しいですが、どういう事でしょう?我々は手を
尽くし、それでも治らないと全てをあきらめていました・・・。」
「そうだな、ロイド・・。わしもあきらめていたよ、最後に清春とツムギに
挨拶して死のうと思っておったからな。カエデちゃん、わしらが責任を持つ
から、皆に説明してあげてくれんか?正直、わしも聞きたいのじゃ。」
ヘンリエッタ婆ちゃんを見ると、うなずいたので観念して説明する事にする。
母さんが寝てて良かったよ。
「ふぅ・・わかったよ。父さん、ディスペルを何回か掛けてアス姉のエクストラ
ヒールも試しても症状は改善しなかった、だよね?」
「そうだよ、医者は原因がわからず、父上は日に日に衰えていった・・。僕達も
本人も全てをあきらめ、せめて最後は本人の好きにさせようと・・。」
「父さん、バート叔父さん。爺ちゃんの症状は呪いだよ。しかもディスペルなんて
効かない強力なヤツ。不治の呪い、術者が自分の死と引き換えに発動させる
最低最悪なヤツだよ。」
「そんな呪いが・・・。」
「昔は自爆技的に頻繁に使われていて、たくさん犠牲者がでたらしいよ。
そしてそれに対抗する為に、ある石を使う方法が生み出された。」
「その石って、まさか・・。」
「エリクサー。世界樹の精霊王だけが精製できる。」
「カエデちゃん、まさかそれを使って父上を?」
「そうだよ、父さん。幸運だったのは、今、精霊王はガーネットの森に
遊びに来てる。世界樹まで行かずにすんだよ。」
「えっ!どういう事だい?ガーネットの森に・・・。」
「その辺の理由はバート叔父さんに聞いて。」
「まる投げしたな・・・。カエデ、何故2人とも・・・。母上もエリクサーを
飲んだのか!」
「うん。疲れてそうだったから、ついでに飲ませた。いだだだだ!痛いです!
背が・・背が・・。」
「こら!バート!カエデには感謝しかないのよ!」
「僕も、若返るとは思ってなかったんだよ!エルが、エルフの森より全然いいって
2割増しって言ってたから、呪いに対する効果だと思ってたんだよ!」
「いや~カエデちゃん、わし、力が漲ってしょうがないのじゃ。
エリクサー、すごいのう。」
「私もよ、思わずセバスから『雪月花』を返してもらったわ。」
「2人とも元気になって良かったよ。あっ、あと父さん、バート叔父さん。
エルが、今回のエリクサーの報酬がわりに世界樹の苗を植えさせて
もらうって。」
「「ブーッ!」」
「爺ちゃんの命がかかってたから、僕の判断でオーケーしたよ。テヘ。」
その後、大混乱はあったものの、前後関係がわからないという事で
バート叔父さん、シュリ叔父さんから父さんの方にまずガーネットの
状況も含め、説明する事に。
爺ちゃんは、はりきってベル姉達の引率と指導でダンジョンへ。
婆ちゃんは一番の心配事が無くなったので、女性陣といっしょに夏月の
所へ行く事に。
ふぅ・・・式が始まる前に、疲れたよ。今日はゆっくりしよう。
ここにいると、なにかと巻き込まれるから桜花の所に避難しよう。
光彩(改)発動!さらば、宗家。




