ARRIVAL
気を取り直して、桜の木の下へ向かおう。
なんかの曲のタイトルみたいだな・・・。
「今夜は、シュリ叔父さんに持たされたドラゴンステーキだよ。」
「ウマウマ。」
「いや~ん、楽しみぃ~。赤ワインね!」
「・・・カエデ様は、常々思っているのですが『雷帝』も『将軍』も歯牙にも
かけませんよね?」
「いや、だって、僕のスローライフ未来には、どれも存在しないから。」
「学園に行ったら、会いますよ。」
「学園では『朧』を多用して、影が薄いでいくよ。」
「・・本当にできるから、たちが悪いですね。」
僕達は景色を楽しみながら、のんびりと進む。将軍家は馬車だし、追い付く事は
ないだろう。おっ!見えてきた。でっでかい!なにあれ?世界樹じゃん!
しかも咲いてるし・・。
「あれは本当に桜なの?世界樹のまちがいじゃ・・。」
「世界樹はエルフの森にしかないですよ。大きいですけどただの桜です。」
「精霊とかいないよね?」
木が馬鹿みたいに大きくなる場合、たいてい精霊が住み着いている。
「私は視る力がないので。」
「私も。」
いやあ・・僕、視えるんだよね。というか精霊王とは知り合いだ。
狂い咲きしてるし、確定っす。まあ、しょうがない、居たら居たまでライブで
対応。結局、考えるだけ無駄だよねって事で。だんだん近づいていく。
いやーこれはすごいわ、圧倒される風景がそこにあった。綺麗だなあ・・・。
木の下って言ってもそうとう広い、さて、どこで焚火をしようかな?
なんか・・ここでしろって主張してる場所があるな。あんなとこ
さっきまでなかったような・・。まっいっか、どうせ・・・。
「みんな、ここで野営するよ。それぞれの準備を。」
「わかりました。」
さて、まずは火を熾そう。この瞬間はいろいろな事を忘れるね。
ステーキをいっきに焼きたいので、大きめのかまどをつくる。
添えるのは、ジャガイモ、インゲン、コーンだ。
火もだいぶ育ってきた、落ち着くなあ・・・。
金網に分厚いドラゴンステーキを5枚、ジュウジュウと焼きだす。表裏を
強火で焼き、なぞの葉っぱ(シュリ叔父さんに貰った)で包んで5分ほど
蒸す。これで厚くても中まで火が通る。添え野菜もオーケー。最後に金網に
戻して、秘伝のタレで完成!テーブルのセッティングの時に、椅子をひとつ
多くする。「嫌な予感・・。」小梅、正解。
「桜花、大丈夫だから、いっしょにステーキを食べよう。」
「いいの?」
「もちろんさ。」
桜吹雪が舞い、桜の模様が入った着物を着た女の子が現れた。
「この桜の木の精霊、桜花さんでっす。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「はじめまして、桜花と申します。」
「いつから・・。」
「初めから、ずっと居たよ。この場所を用意したの桜花だし。本人に姿を
見せる意志があれば見えるようになる。ささ、焼き立てだ。食べよう。」
「龍神といい・・前フリなしね。いただきます。」
「まあ、カエデ様だからといえば、そうねってなるわね、いただきます。」
「ウマウマ。」
桜花も器用にナイフとフォークで食べている。
「おいしい!」
「でしょう、僕の叔父さんが丁寧に下処理と、あと秘伝のタレもあるから。」
ドラゴンステーキまじうめぇー。大満足、野営のラストにふさわしい。
ほぼ無言で食べ終わり、焚火を囲んでみんなでコーヒー、小梅は桜花の膝の上で
くつろいでいる。
「カエデ様、お聞きしたいのですが人の姿で言葉を話す精霊っていうのは・・。」
「そうだね、桜花は大精霊だよ。」
「やはり・・カエデ様は精霊が視えるのですね・・。ガーネットではそのような
ご様子はなかったので・・。」
「ガーネットは精霊で溢れてかえってるよ。森に大精霊もいるからね。」
「まじですか?」
「まじ。」
「久しぶりに人間と時を過ごした。楽しかった、お礼する。」
「いいよ、気にしなくて。帰りもここで野営するし、またいっしょに食べよう。」
「それはだめ。精霊のルールがある。」そう言って笑顔で消えた。
「帰ったね・・。」
「帰ったんですか?なにか最後のやりとりが、とても気になるんですが・・。」
「そうだね、ちなみに僕のミスリルの剣に桜の花の刻印があるよ。」
「はあ・・そういう事なんですねって、あっ私、小太刀が一本増えてます。
桜の花の刻印入り・・・。」
「えー、私はレックガード、刻印入り。私、普通のメイドでいたいです。」
「手遅れだ、春日部。」
「小梅は?」
「クナイに刻印。」
「帰りにさ、また遊びに来ようよ。」
「そうですね、神楽でお土産買います。」
「今夜は襲撃が来ないから、全員お風呂に入ってゆっくり寝よう。」
「何故わかるのですか?」
「来たところで、桜花の結界は破れないそうだよ。だから、ゆっくり
休んでって。」
「おやさしい方なんですね。」
「おそらくだけど、桜花が僕らに授けたのは結界系のものだと思う。」
「大切にしないとですね。」
みんな、うなずいている。あとかた付けをし、女性陣はお風呂へ、僕は今日
自室に戻らず、ここで寝袋で寝ようと思う。
桜の大樹から動けない桜花といっしょに・・・。
朝目覚め、ミスりルの剣改め桜花の剣で素振りをし、朝食の準備。
今朝はクロックムッシュだ。とけるチーズの匂いが食欲を誘い、桜花も誘う。
零さん達がコーヒーとサラダを運ぶ。では、いただきます。
「カエデ様。」
「なに?」
「桜花様が普通にいますね。」
「そうだね。」
「クロックムッシュ、おいしい!」
「ありがとう、焚火で作るとおいしんだ。」
「桜の木のチップ、たくさんあるけど。」
「おお・・、燻製を作れと。」
「そお、神樹の。」
「ください。お願いします。おいしい燻製をいっぱい作りますから。」
「あげる。」
ズザーと桜の木のチップが降って来る。
そのまま、アイテムボックスに流し込む。
「できたら、呼んで。」
「へっ?呼んで?呼べるの?」
「私の刻印を持ってる人は、呼べるわよ。」
「桜の大樹から離れられないんじゃ?」
「誰がそんな事を?精霊に縛りなど存在しない。」
「・・・。」
「あれ?そういえばカエデ様、部屋ではなくて木の横で寝てましたねププ・・。」
やめろお、やめてくれ春日部!
「百合子やめなさい。私達はそんな、おやさしいカエデ様の元で働ける事を
誇りに思っているのププ・・。」
零さんも、えぐらないでくれぃ・・。のププってなに?
「うん?昨日はカエデといっしょに寝た。マセガキと思ったね。」
うおい!桜花!きさま幼子の純情を精霊のくせに、ふみにじるのか!
「プッ」 小梅ぇ~。
「ま、まあ、神楽のバタバタを適当にやっつけて、帰りにまたくるよ。
その時、燻製も作ろう。」
「うん、待ってるわ。」
桜花にしばしの別れを告げ、神楽に出発した。昼前には着くようなので
昼は蕎麦にしよう。などと、危機感ゼロで桜花の結界を抜ける。
そこは戦場だった。いや、激しい戦闘の後のようだ。桜花の結界すげえな、
物音ひとつ聞こえなかったぞ。よく見ると結界にもたれ掛かる様に、黒い
化け猫が死んでいた。敵か味方かわからんが、とりあえず黙祷。
黒い化け猫よ、安らかに眠るがいい・・僕は天ぷら蕎麦にするよ。
「パパッ!」
「「氷牙様!」」
「えっ!?」
「カエデ様、亡くなってませんよ。眠ってるだけのようです。」
「そうなの?人さわがせな・・。」
小梅が揺すって起こしている。
「こっ、こっ、こっ。」
こっ?寝言か?突然、飛び起き僕に襲いかかってきた。
「こうめは、わたさ~ん!」
「はぁ?」
桜花の剣から、桜の花びらが吹き出し、六芒星結界を作る。オートDE結界か。
すばらしい。ゴインと音がして、氷牙が再び眠りについた。小梅パパ、安らかに
眠れ、合掌。
「死んでませんよ!」
「だって、面倒くさそうじゃん。僕の頭の中はすでに90%お蕎麦なの!」
「残りの10%は?」 いい質問だ、春日部。
「天ぷらだ。」
小梅が弱々サンダーを氷牙に。
「あばばば・・。ママ、ごめんて・・。」と目を覚まし土下座した。
「・・・。」
「んっ!誰だてめぇ!こうめはわたさぁ~ん!」
「もう、ええわ!」身体強化をかけて、突っ込む。
「僕はカエデ。ツムギ婆ちゃんの孫で小梅の相方だ。『あばば・・ママごめんて』
は胸の中に仕舞ってやるから、さっさと神楽に連れて行け。」
「なに!おまえがカエデ・・。小せえな。」 小せえ言うな!
氷牙はあたりを見回し、小梅を発見。
「こ・う・めちゅわ~ん!」小梅を抱きしめる、小梅も嬉しそうだ。
念話で「パパ強いけど、アホ。」 だろうな・・。
氷牙が零さんと百合子さんを乗せ、僕は成獣化した小梅に乗り神楽に向かう。
成獣化した小梅を見て、「嬉しいけど、寂しい・・」と氷牙が号泣した。
誰かこいつ、なんとかしてー。小梅ママどこですかー。
あっという間に神楽です。
走ってる最中、念話で昨夜の事を聞いた。
話によると、氷牙パパは小梅の気配を感じいてもたってもいられなくなり、
櫻ママが止めたのに迎えにきたそうだ。いざ、到着してみると結界に鬼が
群がっており、片っ端から倒して疲れて寝たらしい。
まじ、不穏・・。
「鬼に見覚えはないの?」
「あるぞ。ありゃ、酒呑の手下だ。」
「えっ?酒呑!どうなってるの神楽?封印どうした?」面倒事が追加された。
いろいろ事情があるらしいが、氷牙はアホだから、よくわからんと。
清春に事情は聞いてくれとの事。
「小梅、氷牙パパと家に顔だしてゆっくりしておいで。」
「でも・・。」
「こっちは大丈夫だよ。なんかあったら呼ぶから。」
「うん。」
氷牙パパは小梅を背中にのせ、家に戻った。さて、やっと蕎麦が食える。
「零さん、百合子さん。蕎麦食いにいこ!」




