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補遺
久世泰輔の覚書
報告書は、よく出来ている。
余計な感情がない。
それが、斎藤万央の欠点であり、長所でもある。
彼女は、「優しくしない」という選択がどれほど残酷かを、理解している。
だから、同じことを二度やらない。
怪異は、人に必要とされたいという概念を、人から学ぶ。
だからこそ、人の側が責任を取らなければならない。
今回、斎藤万央は“救わなかった”。
それは、正しい。
ただし、代償として、彼女は自分を削った。
次に同じ案件が来たとき、彼女は迷うだろう。
だが、逃げない。
それでいい。
◇
善野亘の夜
庁舎を出てから、斎藤万央の背中が、少しだけ小さく見えた。
昨日、抱き締めた感触が、まだ腕に残っている。
重くも、軽くもない。
支えた、とは言えない。
離れなかっただけだ。
――助ける、という言葉は、簡単すぎる。
斎藤さんは、誰かに決めてもらいたいわけじゃない。
ただ、一人で決め続けることが、少しだけ苦しいだけだ。
だから、線を越えない。
隣に立つ。
それだけで、十分だと思った。
それが、自分に出来る、唯一の選択だった。




