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補遺

 久世泰輔(くぜたいすけ)の覚書


 報告書は、よく出来ている。

 余計な感情がない。


 それが、斎藤万央(さいとうまひろ)の欠点であり、長所でもある。

 彼女は、「優しくしない」という選択がどれほど残酷かを、理解している。


 だから、同じことを二度やらない。


 怪異は、人に必要とされたいという概念を、人から学ぶ。

 だからこそ、人の側が責任を取らなければならない。


 今回、斎藤万央は“救わなかった”。


 それは、正しい。

 ただし、代償として、彼女は自分を削った。


 次に同じ案件が来たとき、彼女は迷うだろう。

 だが、逃げない。


 それでいい。



 善野亘(よしのとおる)の夜


 庁舎を出てから、斎藤万央の背中が、少しだけ小さく見えた。

 昨日、抱き締めた感触が、まだ腕に残っている。


 重くも、軽くもない。

 支えた、とは言えない。

 離れなかっただけだ。


 ――助ける、という言葉は、簡単すぎる。


 斎藤さんは、誰かに決めてもらいたいわけじゃない。

 ただ、一人で決め続けることが、少しだけ苦しいだけだ。


 だから、線を越えない。


 隣に立つ。

 それだけで、十分だと思った。


 それが、自分に出来る、唯一の選択だった。



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