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エドワード・ターナーは、核心を突く

 エドワード・ターナー――通称テディは、空気を読むのが下手だ。

 正確に言えば、読む気がない。


 だからこそ、核心に最短で触れる。


(とおる)くん」


 夕方。

 善野亘(よしのとおる)が資料を片付けていると、背後から気軽な声がした。


「ちょっといい?」

「……はい、テディさん」


 嫌な予感は、正直、あった。



 庁舎の外。

 自販機の前。


 最近やけに重要な話がここで行われている気がする。



「最近さ」

 ターナーは、缶コーヒーを買いながら言った。

「亘くん、変わったよね」


「……そうでしょうか」

 善野は、慎重に返す。


「うん」

 即答。

万央(まひろ)さんを見る目。前と、違う」


 斎藤万央(さいとうまひろ)の名前を出された瞬間、善野は何も言えなくなった。


 否定もしない。

 肯定もしない。

 だが、それで十分だった。


「……」


 沈黙を見て、ターナーは軽く息を吐く。

「分かりやすいよ。本人より、周りのほうが」


「……そうですか」

 善野は、目を伏せた。


「好きなんでしょ」

 淡々とした声。

 確認ではなく、事実の提示。


 善野は、少しだけ考えてから言った。

「……お答えしません」


「否定しないんだ」

 ターナーは、少し笑った。


「でも」

 そこで、声の調子が変わる。


「亘くん、踏み込まない」

「……はい」


 今度は、即答だった。


「どうして?」


 善野は、少し時間をかけて答えた。


「斎藤さんは、前に立つ人です。判断して、責任を引き受けて、矢面に立つ人です」


「うん」

 ターナーは、相槌を打つ。


「そこに」

 善野は、続けた。

「自分の感情まで背負わせたくない」


 ターナーは、しばらく黙った。

 そして、珍しく真面目な顔で言う。


「それ、優しさでもあるけど、怖さでもあるよ」


 善野は、反論しなかった。

 図星だったからだ。


「私の国だとね」

 ターナーは、空を見上げる。


「好きなら言うのが誠実、って考える人が多い。でも」

 視線を戻す。

「日本だと、言わないで立場を守る、って選択もある」


「……はい」

 善野は、小さく頷く。


「だからさ」

 ターナーは、最後にこう言った。


「それが本当に“守ってる”のか。ただ、失うのが怖いだけなのか」


 一拍。

「そこだけは。自分で誤魔化さないほうがいい」


 善野の胸に、静かに刺さる言葉だった。


「……ありがとうございます。忠告として、受け取ります」


「どういたしまして」

 ターナーは、軽く手を振る。

「ちなみに。万央さん、気付いてるよ」


「……え?」


「全部じゃないけど。何かが変わったってことは」

 肩をすくめる。

「彼女、鋭いから」


 ターナーは、そのまま庁舎に戻っていった。


 善野は、一人残る。

 風が、少し冷たい。


 近付かない。

 踏み出さない。

 でも。


 距離は、もう固定されていない。


 測ることをやめた瞬間から、距離は変化し続ける。

 善野亘は、それを静かに受け入れた。



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