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適用第一号

 事故は、「成功例」として報告されるはずだった。


 案件名は簡素だ。


【怪異関与型生活支援ガイドライン適用第一号】


 場所は、地方都市。

 対象は、家屋に定着した座敷童型怪異。

 長年、独居老人と共生していた。


 老人は、入院した。

 帰宅は、もう出来ない。


 問題は、座敷童だった。


「……この子は、置いていけない」


 家族はいない。

 財産も、ほとんどない。


 現地の怪異対策課は、ガイドラインを忠実に読んだ。


 ・利益帰属:不可

 ・権利付与:不可

 ・葬送・看取り:可

 ・生活支援:限定可


「……つまり」

 担当者は、結論を出した。

「家は処分。怪異は、切り離す」


 その判断は、ガイドライン上、正しい。

 完全に。


 万央に、報告が上がったのは、処理後だった。


「……童は?」

『今は、保護施設に』


「状態は」

『……安定していません』


 善野が、資料を読みながら言う。


「“利益を得てはいけない”。“財産に関与させない”。……だから、家から切り離した」


「でも」

 万央は、静かに言う。

「その子にとって、家そのものが“生活基盤”だった」


 事故は、数日後に起きた。

 保護施設で、怪異暴走。

 被害は軽微。

 だが。

 職員一名、負傷。



 高宮から、直接連絡が来た。


『……想定外でした』


「いいえ」

 万央は、即答する。

「想定内です」


 電話口が、静まる。


「ガイドラインは、“権利”と“利益”に線を引いた。でも、“帰属”には触れていない」


 万央は、淡々と続ける。


「座敷童にとって家は、財産じゃありません。身体の一部です」


『……つまり』

「“所有”と“定着”は、別です。それを、書かなかった」


 高宮は、息を吐いた。


『……第一号で、やらかしましたね』

「はい。ただし、死者は出ていない。修正は、可能です」


 現地。

 座敷童は、小さくなっていた。

 存在感が、薄い。


「……ごめんね」

 万央は、静かに言う。

「“守る”つもりで、壊してしまった」


 返事はない。


 結局。

 家は、取り壊されなかった。

 “定着空間”として、最低限の維持が決まる。


 居住者は、いない。

 だが、童は戻った。


 善野が、報告書を閉じる。


「……前例が、また一つ増えましたね」

「ええ」


 万央は、疲れたように笑う。

「ガイドラインは、事故を前提に育つものです」


 数日後。

 総務省内部文書に、追記が入る。


「怪異の定着対象は、必ずしも財産的価値と一致しない」


 太字で、こうも書かれていた。


【※初適用案件における事故を踏まえ、早急に修正】


 善意は、制度になった。

 制度は、事故を起こした。


 だが。


 誰も、元には戻れない。

 前に進むしか、ない。



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