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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
昔話1 ロビンの話
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Good fellows' Robin 11

「ロビン」


シンシアがロビンに寄ろうとすると、ロビンは椅子(いす)の背に身体(からだ)を押し付けて、耳を(ふさ)いで、首を横に振った。


「やだ、()()()()!」


青い目はシンシアの()()を精一杯に(にら)みつけている。


「シンシア、キミは一旦(はず)した方がいい」

「……」

「何をどう言ったって、結局キミは此処(ここ)において()でしかない。であれば、当然の(ごと)くキミには()()がついてる。たぶん、僕の方とは()()()()から、相互の認識はあれど、干渉自体は行われていない。だからこそ、ロビンは僕を静かと言ったんだろうし、それなら、僕が単独で聞いた方がいい」


逡巡(しゅんじゅん)するシンシアにダメ押しを入れる。


「ロビンはキミに付随(ふずい)する()()綺麗(きれい)と言っていた。今の反応からして、()()すらもこの子を誘惑してるんだぞ」

「わかった、わかったよ。だけど、うまくいかなかったら、()()、あんたをとっちめてやるからね」


そう言い残して、シンシアは一旦部屋を出た。

それを見送ってから、耳を(ふさ)いだロビンの目の前でしゃがんで、そっとその手に手を重ねた。


「大丈夫、大丈夫だから、ロビン」

「……」


涙をいっぱいに()めた目で僕を見て、ロビンは耳を(ふさ)ぐ手を(ゆる)めた。


「キミが見た、僕の(まわ)りにいるものは、シンシアの()()と違って、おいでなんて、言わないだろ?」

「……うん」


すん、とロビンが鼻をすする。

懐かしさとも寂しさとも、何とも言えない、忘れ(がた)い思いが(よぎ)る。


()()なんだ、これ」

かみさま(God)?」

「キミが知る神様(大文字のGod)ではなくて、神様(小文字のgod)、うーん精霊(spirit)の方が概念的にはたぶん近いんだけどね。でもキミの知る()()とは違う」


――この世界は大きさの(こと)なる幾枚(いくまい)もの(うすぎぬ)(かさ)ねたようにできている。

僕らがいるのはその内の一枚。そして()()は他の(うすぎぬ)(みずか)らの領域(テリトリー)として()る、ただの力に過ぎない。

()()自身の持つ特殊性は、人々が(のぞ)みながら忌避(きひ)して(たも)った信仰や文化、物語によってその力に付与された指向性によるものであって、力と指向性のその相互干渉で発生するのが怪異そのもの。


それが僕の、人をして理解し(がた)いと言わしめる持論である。


「ロビン、さっき、教えてくれたでしょう、その火傷(やけど)を作った人を。約束、したでしょう?」


教えるって、と言えば、ロビンは涙で揺らぐ目を(しばたた)かせる。


かみさま(spirit)……」

「そう、僕を三年間も隠して助けてくれた神様」


僕の言い草に、ロビンが首を(かし)げた。

だから、僕は微笑(ほほえ)んで言う。


「キミは二年前、半日ばかり善き(good )隣人達(fellows)によって行方不明になっていたんだろう? そういったもののせいで行方不明になる事を、日本では神隠しって言うんだ。そして僕は四つから七つまでの三年間、隠されてた」


ちょっとばかり先達(せんだつ)なんだよ、と笑ってみせる。


「……古く、そして多く、異界から正当に持ち帰られたものは祝福であるべきだ。であれば、キミのそれも祝福であるべきだ。僕のそれがそうであるように」

「……()()?」

「キミはそうして不幸のままであってはならない」


二項対立において「敵の敵は味方」という論法が()くのであれば、ロビンは、その経歴と能力(ゆえ)に、()()きの英国人でありながら僕と同じ立ち位置(余所者)になっている。

それならいっそ、本当の余所者(よそもの)になるのだってアリだ程度には考えている。うん、マジでこれは手。


まあ、一番重要なのは、ロビン自身の意思なので、最終的な決定は後にするとしても、(余所者)はこの子の絶対的味方でいるべきだ。


「というわけで、ロビン、キミはどうしたい? 僕はキミの味方であるために何をすればいい?」


ロビンが僕を見て、大きく目を見開く。

最上級のサファイアと同じ、矢車菊(やぐるまぎく)のような、サファイアという表象(ひょうしょう)(たく)される天のような、青い色。


「……お母さん(Mum)を、たすけて」


青からぽろぽろと(しずく)(こぼ)しながら、ロビンがそう言った。


矢車菊:最上位サファイアの色をコーンフラワーブルーというが、その色名についているCorn flowerのこと。

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