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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
昔話1 ロビンの話
102/209

How many miles to Babylon? 1

How many(バビロン) miles(までは) is it to (何マイル?)Babylon?

 Threescore(六十) miles(マイル) and ten.(と十マイル)

 Can I get(ろうそくの) there by(光で) candle(行ける)-light?(かい?)

 Yes,(行けるさ、) and(戻って来る) back(のもね!) again!

 If your(キミの)heels are(かかとが) nimble and(はやくて) light,(軽ければ)

 You may(ろうそく) get() there by(光で) candle(行ける)-light.(とも)


バビロン(How many)まで何( miles to)マイル( Babylon?)」は英国に古くからあるわらべ(nursery )(rhyme)の一つ。


時に、旧約聖書に記述された新バビロニア王国ネブカドネザル二世によるユダ王国のバビロン捕囚(ほしゅう)と関連付けられて語られる事もある。

「ろうそくの光」と「六十マイルと十マイル――つまり七十マイル」の双方を人の寿命と考えて、死ぬまでには故郷に帰りつけるだろうか、という意味合いで。


結局のところ、歴史的に発生した事実という観点から言えば、このバビロン捕囚(ほしゅう)とその前のアッシリア捕囚(ほしゅう)の二つが主な起因となり、かつ(おのれ)の伝統を守り続けた、今でいうところのユダヤ民族は、自身が固着するべしとした土地を外的要因で一度失うことになったのだが、まあその(あた)りは根深いし、うっかり触ると深度三の火傷(やけど)を負うこと必至(ひっし)なので置いておいて。


何にせよ、遥か遠く離れてる場所に行けるか、思いをせる歌なのである。


ちなみに、「by」と「candle-light」をどう訳すか――「ろうそくの光によって」か、「(candle)暮れ(-light)までに」か――で、ナンセンスの度合いが変わる歌でもある。



おかあさん(Mum)も、いっしょだから、行こうっていわれたの」

「シンシアの(まわ)りの彼らに?」

「……うん、おばあちゃんのまわりでみたのも、いっしょだった」


ティッシュを取って渡せば、ロビンは両の目を(ぬぐ)ってから、鼻をかんだ。

さて、今となっては親切ごかした顔をしていたというシンシアの(まわ)りのもの達まで言い出したとなると、妖精達は、ロビンの母がいれば、勝算(しょうさん)があると()んだ、ということになる。

いや、この場合、妖精の乳母(うば)の文脈にもかかってくるのか?


「……ねえ、ロビン、二年前のこと、なんだけど、キミは善き(good )隣人達(fellows)に連れ去られた。そうだね?」

「……たぶん、そう。にわで、ひとりであそんでたの。そしたら、だれかがうしろでわらうこえがして」

「その時には連れ去られてた?」


こくりとロビンが(うなず)く。

そうなれば、問題は何をされたかだ。


「そのまま、にわだとおもってたの。でも、みずのなかみたいに、ゆらゆらしてて、きらきらしてて……そしたら、きれいなしろい人がきて、目をとじなさいって」

「目を?」


ふしぎだったの、とロビンが(つぶや)く。

首を(かし)げて続きを待つ。


「目をとじたはずなのに、とじてないみたいになって、その人、そのままぼくのまぶたをなでるみたいに、なにかつけたの」

「つけた……()った?」

「うん、ぬるって(icky)した。それで、もういいよっていわれて、目をあけたら、シャボン玉がはじけるみたいに、夜になってた」

「……じゃあつまり、キミのそれは妖精の軟膏(なんこう)か!」


(まぶた)に塗れば、真実を見通す事ができるようになるという妖精の軟膏(なんこう)

民話で語られるそれは、妖精の出産に際して連れて来られた産婆や、妖精の子供の世話役として連れて来られた娘が、その子供の(まぶた)に塗るように指示された軟膏(なんこう)を、(あやま)って彼女自身の(まぶた)に塗ってしまう事で真実を見てしまい、追い出される。

その真実は立派な御殿(ごてん)のようだった家が洞窟だったり、自分を雇い入れた主の人ならざる姿だったりする。


「少なくとも、あの文脈から紐解(ひもと)けば、軟膏(なんこう)()()()()()()()()に対しては人界としての真実を見せるものだけど……」


ああ、まどろっこしい。

()では文脈を読み切れるほどの知識がない。

となれば、もう心当たりは一つしかないわけだけど、敵に情報を売るのはいやだ。

一度、長く息を吐き出してから(あた)りを見回して、見つけた電話横のメモから一枚引き千切(ちぎ)り、同じく電話横のペンを取って、僕は十字架を書きつけた。


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