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ウォリックの出現

「クレア…どうしてここに…?」

クレアの出現にトラヴィスは動揺の表情を浮かべる。

「私はあなたに会いにきたのよ。トラヴィス」

クレアはニコリと笑みを浮かべる。

「あの娘がクレアなのか…?」

ジャービスとジュリアは初めてクレアを目にした。

トラヴィスの目の前に見えるクレアは、自分の知るクレアではなかった。

「あなたのお連れさんの血、不味いわね。吸って損したわ」

クレアはグライムズの血をペッと砂浜に吐き捨てた。

「クレア…自分のしたことが分かっているのか?!」

トラヴィスは声を張り上げる。

「私はお腹が空いていたから彼の血を本の少し飲ませてもらっただけよ。あなただってお腹が空いたら肉や魚や野菜、パンを食べるでしょ。それと同じよ」

クレアは冷たく言う。

自分が愛したクレアはもう存在しない。目の前にいるクレアは人間を殺すことに対して何の迷いも抱かない残酷で冷血な吸血鬼であった。

「人間は身勝手な生き物よね。お腹が空けば牛や豚や鶏や魚を平気で殺してその肉を食べる。自分達が動物や魚を殺すのは生きるため、と正当化する一方で私達のやることはとことん批判して、その挙げ句の果てには私達を迫害しようとする。

ほんと人間って汚くて弱くて理不尽な生き物だわ」

クレアは人間を見下した発言をする。

トラヴィスはクレアの言葉に鞘から剣を抜き出す。

「君の言っていることは一理あるよ。だが、俺はそんなごたくを聞くつもりはない。クレア。ここで俺と会ったのが運の尽きだったな」

ローリーがいない今ならばクレアの首を取るのに絶好の機会だ。今こそクレアを葬るべきなのだ。

「私を殺す訳?」

「あの時、君は俺に言ったよな。『私の正体が吸血鬼ならばあなたの手で殺してほしい』と。忘れたとは言わせない。俺はこの場で君を始末する」

クレアはトラヴィスの言葉にクスクスと笑う。

「私を殺すですって。かっこつけたこと言わないでよ。あなたが私を殺すことなんかできっこないわ」

「俺はかっこなんかつけていないよ。俺はもう君を見限った。俺は君を愛してなんかいない」

「そお。それがあなたの答えって訳ね。いいわよ。私を殺すのならば殺しなさいよ。だけどね、これだけは言っておくわ。私を殺したところですべてが終わるなんて思わない方がいいわよ。私を殺せばお父様の怒りを益々買うだけよ」

「だから何だっていうんだ。それでオメオメと引き下がれっていうのか。悪いが、その気はない!」

クレアはトラヴィスの言葉に小刻みに笑った。

「自惚れもほどほどにしておくのだな。トラヴィスよ」

その瞬間、クレアの姿が一人の男性に変わった。

「誰よ。あいつは?」

ジュリアは目を疑う。

自分達の目に一人の男性が立っていた。グライムズを負傷させたのはクレアに化けたウォリックであった。

クレアの好戦的な態度といい、どこかおかしいなと思っていたが、偽物だったとは一杯食わせられた気分だった。

「お前は何者だ?!」

「私の名はウォリック。ノスフェラトゥの息子であり、お前が愛したクレアの兄だ」

ウォリックは自分の名をトラヴィス達に言う。

「クレアの兄だと…?」

「そうだ。トラヴィスよ。私が貴様らの元へ訪れた訳は分かるな?」

吸血鬼が自分達の前に足を運ぶと言うことは、恐らく自分達を殺しに来たのだろう。トラヴィスはウォリックの考えていることくらいお見通しであった。

「親父にかわって俺達を殺しに来たんだろ?」

「その通り。しかしだ。貴様を殺せば俺は妹を悲しませることになる。私は話し合いをしに来たんだ」

「話し合いだと。クレアに化けてグライムズを負傷させて話し合いをにし来ただと。ふざけるな!」

トラヴィスは怒りの形相でウォリックを睨む。

俺と話し合いをしに来たのならばなぜグライムズを襲う必要がある。それもクレアに扮してだ。

「私が用があるのはお前だけだよ。他の部外者にあれこれ口出しされたくなくてね」

ウォリックは軽く笑う。

「だからってグライムスを襲う必要があったのか。それにお前の話なんて『手を引け』とか『我らに従え』そんなものだろ。俺はお前と話し合う気はない」

トラヴィスはウォリックがこれから自分に持ちかけようとする話の内容はだいたい読めていた。

「ならばクレアを悲しませることになるぞ。クレアは今でもお前のことを思っている。私や父上に『もう彼には手を出さないで』と訴えているほどだぞ。私だってかわいい妹を悲しませたくはないんだ。分かるな。トラヴィス?」

「クレアには騙されたんだ。俺はもうクレアを愛してはいない。だから彼女を悲しませることになろうが俺の知ったことじゃない」

「それがお前の答えだな。分かったよ。お前がそう言うならば仕方がないな」

すると、どこからかドシーンと大きな足音が聞こえた。

「何だ?!」

その数秒後、その大きな足音の持ち主が姿を現した。『それ』は巨大な異形の化け物であった。

手には巨大な斧が握られていた。

「こ奴は我らに仕える処刑人でな。貴様らはやり過ぎた。死んでもらう」

『それ』は足をトラヴィス達の方へ歩ませる。

見た感じ利口そうではないが、油断はならない。

「一つ言い忘れたが、この村の者は皆、私の魔術で眠らせてある。どんなに叫ぼうが起きはしないよ」

そういえばグライムズが襲われて悲鳴を上げた時も、目を覚まして外へ出たのは自分達のみであった。本当ならば村人の何人かも目を覚ますはずであるが、ウォリックの魔術で眠らせられていたのである。

「トラヴィス殿」

ジュリアと共に負傷していたグライムズを気遣っていたジャービスはその場から離れ、トラヴィスの元へ足を走らせる。

トラヴィスに加勢するつもりだ。

「お前はジュリアと共にグライムズの側にいろ!」

その瞬間、ウォリックが用意した『それ』が襲いかかってきた。




















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