さらば、グライムズ!
化け物は不明瞭な叫び声を上げながら斧を振り回す。
トラヴィスとジャービスは化け物の攻撃をかわす。
「こ奴は一度、暴れると中々手がつけられなくてな。ま、お前達を殺せばこ奴の気もすむであろう」
ウォリックはフフフッと笑いながら姿を消した。
一見利口そうには見えない化け物であるが、巨大な斧をやたらめったに振り回す故に、トラヴィスはうかつに近付くことができなかった。
ウォリックの言葉通りこの化け物は自分達を殺すまで暴れるつもりであろう。
それにここには自分達以外の人間も多く存在し、下手に反撃しようならば村人の家を破壊し、村人を巻き込んでしまうやも知れなかった。
「クソッ…、どうすればいいんだ…」
化け物はトラヴィスめがけて斧を振り下ろした。
「危ない!」
グライムズを見ていたジュリアは声を上げる。
トラヴィスは高くジャンプし、化け物の攻撃をかわして剣を頭上近くまで高々と振り上げる。
そのまま化け物の頭上に剣を振り下ろしてやるのだ。
化け物は片腕を上げて、掌を向けるとトラヴィスを地面に叩き落とした。
「トラヴィス殿!」
ジャービスは足をトラヴィスの元へ走らそうとすると、化け物はその腕をジャービスの方へ伸ばして、ジャービスを捕らえた。
「しまった!」
トラヴィスは起き上がろうとした時であった。化け物は捕らえたジャービスを自分にめがけて放った。
まるでカタパルトから発射された岩石のように飛んできたジャービスをトラヴィスはよける間もなく、ぶつかってしまった。
その拍子にトラヴィスとジャービスは地面に倒れる。
ジュリアとグライムズは足を二人の方へ走らす。
化け物にジャービスを投げ付けられたトラヴィスのダメージは大きい一方で、投げ付けられたジャービスのダメージも大きかった。
今、この化け物と戦えるのはジュリアかグライムズのみであった。
化け物は目をジュリアの方へ向け、ジュリアは鞘から剣を抜き出そうとした。
「待て!」
グライムズはジュリアを止める。
「この化け物はお前では倒せない。この化け物の相手は俺がする!」
グライムズは鞘から剣を抜き出す。
「待ってください。貴方は負傷しているんですよ。だから、この化け物は私が…」
グライムズは首を横に振る。
「ジュリア。お前が俺を気遣ってくれてることには感謝する。だがな。俺にはもう時間がないんだ…。分かるな…」
ジュリアはグライムズの言葉の意味を理解した。
そういえば、グライムズはクレアに扮したウォリックに噛まれた。故に人間でいられる時間はもうないのだ。
「ジュリア。お前とはもう少し話をしたかったよ。けど、お前にはトラヴィスとジャービスがいる。だから俺がいなくともお前は大丈夫だ」
グライムズはジュリアの量肩に手をおいて彼女を見つめる。グライムズはジャービスとジュリアとかかわった時間はさほど長くはない。
だが、それがどうした。俺がいなくなったとしても二人にはトラヴィスがいる。それに頼れるのはトラヴィスのみならずベネット様だっている。
だから二人には心配はないのだ。
グライムズはジュリアの肩から手を離すと、踵を返して化け物を睨む。
「お前の相手は俺だ。かかってこい!」
グライムズは化け物を挑発する。化け物はグライムズ挑発に雄叫びを上げて斧を振り下ろした。
グライムズは化け物の攻撃をかわし、化け物の片腕に剣を突き刺した。
化け物は悲鳴を上げて、グライムズは化け物の片腕から件を勢いよく引き抜き、同時に化け物は刺された片腕を押さえながらうずくまる。
それでもグライムズは攻撃の手を休めず、剣を化け物の顔面に放った。
放たれた剣は化け物の片目に突き刺さった。
化け物は悲鳴を上げて背中から倒れた。その瞬間、グライムズは雄叫びを上げながら化け物の胸部に飛び乗る否や、化け物の喉に牙を突き刺した。
更なる激痛が化け物を襲い、化け物は苦痛の悲鳴を上げながらグライムズを振り下ろそうとするも、既に吸血鬼化としたグライムズの力は思った以上に強く、更には化け物の喉を食い千切ったのだ。
「グライムズ…」
何とか力を振り絞って立ち上がったトラヴィスは吸血鬼化したグライムズに目を疑った。
「グライムズ!」
すると、グライムズは、
「トラヴィス。俺ごとこいつを突き刺せ!」
トラヴィスに命じる。
「何だって?!」
グライムズを巻き込んで化け物を殺せというのか。グライムズは今まで自分を支えてくれた人物だ。そんなグライムズを殺せる訳がない。
「時間がないんだ。早くしろ!」
今の俺は吸血鬼化している。ノスフェラトゥの手駒になるのは時間の問題だ。
だが、トラヴィスが俺の言葉通りにすればノスフェラトゥの手駒になることもなく、そして全てをトラヴィスに託せるのだ
その時、
「私にやらせて…」
ジュリアは前に出る否やに足を走らせた。
「ジュリア!」
ジュリアは化け物の胴体に駆け上がる否やグライムズの背中に剣を突き刺した。
剣はグライムズの胸部を貫通し化け物の胸部に突き刺さった。
化け物は悲鳴を上げてそのまま動くことはなかった。
ジャービスは体を起こす。
ジュリアは剣から引き抜く。
「グライムズ殿」
ジュリアの目に見えるグライムズは人間の時のグライムズであった。
「……これでいい…。お前にはトラヴィスとジャービスがいる…。なにも心配することはない…」
グライムズは安堵の笑みを浮かべる。
「グライムズ殿!」
ウォリックのワナにはまり吸血鬼化してしまったものの、ジュリアが化け物と同時に剣で突き刺したおかげで、三人を襲わずにすんだ。
「グライムズ!」
トラヴィスは足を走らせて化け者の胴体に上がるとグライムズに近寄る。
「グライムズ…どうして…?」
「トラヴィス。お前はもう俺がいなくともやっていける…。悲しむことはない…。全てをお前に託せるんだからな…。次はお前が二人を支えてやる番だ…」
グライムズには見えた。
幻覚やも知れぬが、トラヴィスがジャービスとジュリアを引っ張り、そしてノスフェラトゥの横暴に終止符を打つ姿が見えるのだ。
間もなくして自分は死ぬ。
だが、グライムズにはトラヴィスという希望が存在し、何の悔いもなかった。
愛する…妻子よ…。俺ももう直ぐお前達の元へ行く…。待っていてくれ…。
脳裏に愛する妻子の姿が過る。
「グライムズ…」
妻が自分の名前を呼べば、二人の息子と娘も、
「お父さん…」
自分の名前を呼ぶ。
これでまた家族と一緒になれる…。
その瞬間、グライムズは息を引き取った。
グライムズが二度と自分の名前を発することはなかった。息を引き取ったグライムズにジュリアは声を上げて泣いた。
「グライムズ…」
ジュリアがグライムズの死に大泣きすれば、トラヴィスの目からは次第に涙が流れる。
その同時にウォリックへの憎しみが自分を支配する。
トラヴィスは頭を夜空へ向けると、
「ウォリック! 貴様を…親父と妹と共にあの世へ送ってやる! 貴様だけは絶対に許さん!」
トラヴィスは涙を流しながらウォリックへの怒りと憎しみの叫び声を上げた。
ジャービスは仰向けになって両手で顔を覆いながらグライムズの死に涙を流した。




