俺達がやるべきこと
翌日の昼間、村を後にしたトラヴィス一行はレジーナとバッタリ遭遇した。
「レジーナ…」
トラヴィスとレジーナは互いにまさかこんなところで対面するとはという表情を浮かべた。
元々二人はクレアの件で不仲になった。クレアの姿が見えない。やはり一杯食わされたか。
「トラヴィスよ。クレアの姿が見えないが彼女はどこへ?」
レジーナは意地悪っぽく尋ねる。
「クレアならばもういないよ。お前の読みは当たっていた。俺の負けだよ…」
レジーナは自分の言葉にトラヴィスが逆上するかと思ったが、今のトラヴィスはクレアのことを持ち出されても怒る気にもなれなかった。
いつものトラヴィスではない…。
レジーナはそう思った時、ジャービスが持っている骨壺を目にした。
「誰か死んだのか…?」
そういえばグライムズの姿が見えない。彼はトラヴィスと共に行動していたはずであるが…。まさか…。あの骨壺は…。
「トラヴィスよ。あの骨壺は何だ。説明しろ!」
レジーナは血相を変えて尋ねる。
「俺に聞くなよ…」
トラヴィスはレジーナの質問に答えることはなく、そのまま一人足を歩ませる。
「トラヴィス。私の質問に答えろ!」
すると、後ろからジャービスが自分の肩を掴んだ。
レジーナは頭をその方へ振り向ける。
「そなたは誰だ。初めて見る顔だが…」
レジーナはジャービスとジュリアのことを知らない。この二人は初めて見る顔であった。
ジャービスの自分の名とジュリアの名前をレジーナに教える。
「今、トラヴィス殿をソッとしておいてくれませんか?」
二人からグライムズが死んでしまったことを聞かされたレジーナにとってグライムズの死は信じ難いほどの衝撃であった。
グライムズは自分以上に実力を持った人物だ。
そのグライムズがまさか吸血鬼に噛まれ、吸血鬼化してしまうなんて…。
「だけどね。グライムズ殿は最後まで私達を襲おうとはしなかった。それでも…」
次第にジュリアの目から涙が流れ出した。
グライムズの死を誰よりも悲しんでいるのはトラヴィスであることは理解しているが、ジュリアはグライムズの死を受け入れることができずにいたのだ。
グライムズは自分を何かと気にかけてくれていた。
グライムズは死ぬ間際「俺がいなくなってもお前にはトラヴィスとジャービスがいるから悲しむことはない」と言ってくれたが、グライムズを失った今、その慰めの言葉など何の気休めにもならなかった。
「グライムズ殿の死を受け入れるなんてそんな簡単にできないわよ!」
ジュリアはワッと泣き出した。
ジャービスは泣き崩れるジュリアを優しく抱き締めながら彼女を慰める。
グライムズの死には自分も泣き出しそうになった。
だが、自分は泣くことは許されない。私までもが泣き出せばグライムズが浮かばれないからだ。
「グライムズの死を受け入れられない気持ちは理解できなくはないが、いつまでもメソメソ悲しんでいてはだめだ。お前達もヴァンパイア・スレイヤーだろ。いつまでも悲しんでいてはグライムズも安心してあの世に行けぬぞ」
レジーナは二人を叱咤する。
レジーナ自身もグライムズの死をそう簡単に受け入れることなどできないものの、悲しんだところでグライムズが戻ってくる訳ではないのだ。
すると、トラヴィスが自分達の方へ戻ってくるのが見えた。
クレアのことでもめてからはトラヴィスの顔を見たくないと思うほどであったが、レジーナの中でトラヴィスとのわだかまりは薄れていた。
グライムズの死を誰より悲しんでいるのはトラヴィスのはずであるが、トラヴィスは気丈な表情を浮かべていた。
本人だって泣きたいはずだ。
しかし、トラヴィスは自分までも泣けばグライムズが浮かばれない、と分かっている故に悲しみをグッとこらえ、気丈な表情を浮かべているのだ。
トラヴィスはレジーナの方まで足を歩ませた。トラヴィスは自分に何か言いたいことがあるのだろう。
トラヴィスはピタリと足を止める否や自分達と行動してほしい、と頼んだ。
トラヴィス自身もレジーナとのわだかまりは、もうない。
いつまでもいがみ合っていたってどうしようもないからだ。
レジーナはトラヴィスの言葉に初めは首を縦に振ろうと思ったが、首を縦には振らなかった。
この時点でトラヴィスとは和解し、実に嬉しい言葉であるが、レジーナはトラヴィスがどこまであの二人を引っ張っていけるか見てみたかったのだ。
「お前がそう言ってくれるのはありがたいよ。だがな、私はお前が一人でもどこまであの二人を引っ張っていけるか見てみたい」
別に意地悪で言った訳ではない。
トラヴィスならばグライムズのような人物になれる素質があり、自分が加わらなくとも大丈夫だ、という確信があったからだ。
「それにグライムズの遺骨をベネット様に届けなればならないしな」
レジーナはジャービスの方へ足を歩ませて、近くにおいてあった骨壺を手にする。
「お前は自分のやるべきことをやれ。いいな」
レジーナは踵を返して足を歩ませ、トラヴィス達の前から姿を消した。
トラヴィスは二人の方へ頭を振り向ける。
「さあ、二人とも立て。行くぞ」
グライムズが不在でも自分達にはやらなければならないないことがある。悲しんでいるひまなんてないのだ。
「どこへですか?」
ジャービスは尋ねる。
「ヤボなことを聞くなよ。俺達がやるべきことといえばただ一つ、ノスフェラトゥをブッつぶすことだろ」
トラヴィスは踵を返して足を歩ませると、ジャービスとジュリアも腰を上げてトラヴィスの後を追った。
トラヴィスは足を歩ませながら頭を空へ向ける。
「グライムズ…」
今までは自分一人で行動をし、クレアのことで気が焦り苛立っていた自分をグライムズは支えてくれた。
ならば次は俺があの二人を支えてやる番だ。
俺はグライムズのようにはなれないやも知れない…。だが、できる限りあの二人を支えてやるのだ。
「グライムス…。今までありがとう…」
トラヴィスは亡き友に礼を言ったのであった。




