表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼんぼり執事かなめの受難――超一流執事、3歳児のお餅ボディ(物理)に完全敗北する――  作者: 以十可思(いとをかし)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/14

第9話:隠された素顔

 ――東雲家シノ(カナメ)の自室。

 お披露目の祝宴パーティーという名の阿鼻叫喚から回収され、ようやく自室のベッドにお餅ボディを「ぽふん」と沈めたカナメ


摩耶マヤ様、シノお嬢様、お疲れ様でございました。さあ、お嬢様、まずはその重たいものを外しましょうね」


 侍女のアンの手によって、本日私の首を折りにきていた凶悪な『ぼんぼり盛り4連装仕様』が取り外される。

 続いて、私の頭皮をこれでもかと後方四十五度へ引っ張り続けていた、あの超強力なひっつめ髪のゴムが、ぷつん、と解かれた。


 ――その、瞬間。

 ――ふにょん。


 私の顔面を構成していたモチモチの皮膚(粘土)が物理的な張力から解放され、一気に本来の定位置へと雪崩を起こした。


「はい、おでこに絆創膏を貼りましたよ。ふふ、すっかり綺麗になりましたね、シノお嬢様」


 杏に手鏡を渡され、何気なくそこへ視線を落とした私は、再び心の蔵が物理的に停止するほどの衝撃を受ける。


「……な、っ……!?(な、前言撤回……ッ!?)」


 鏡の中にいたのは、先ほどまで「不満げにふんぞり返るキツめの吊り目幼女」ではない。

 ひっつめ髪の呪縛が解けたことで、目元が信じられないほどまあるく零れ落ちそうな、うるうると輝く至高の「パッチリ大粒二重まぶた」の少しタレ目の美幼女がそこに佇んでいたのだ。


(ば、馬鹿な……! 我がお餅の器は、髪の縛り方の張力ひとつで、顔面のパーツ配置すら自由自在に変形するというのか……!? 形状可変大福……!!)

 ――いや、待て。落ち着け。

 パーツの配置こそ奇跡的な美少女のそれだが、輪郭も体型も、相変わらずただのぷよぷよした『球体(大福)』。丸いことには変わりない。


 驚愕する私をよそに、部屋の隅でそれを見ていた母マヤが、うっとりと息を呑んで鋭い眼光を走らせた。


「――素晴らしいわ、シノ。流石わたくしの天使ね。杏の技術も見事だけれど、髪型の張力テンションだけで完全に骨格と人相を偽装し、敵の目を欺むくあなたの素質も天分の才能。やはりあなたは生まれついての天才……」


(いや、ただの肉の弾力です、母上……)


「……ですが、シノ。これだけは約束して」


 いつになく真剣なトーンになった母マヤが、私のモチモチの手をきつく握りしめる。その瞳は、皇室筆頭お庭番としての冷徹な凄みに満ちていた。


「東雲家本家は代々、皇室の筆頭御庭番。その素顔(大粒二重のタレ目美少女姿)は、絶対に東雲の身内以外に見せてはダメよ。隠密たるもの、真の姿を敵に晒すのは死を意味します。表舞台に立つ時は、常にその『吊り目(ひっつめ形態)』でいなさい。いいわね?」


(……お、お庭番? 隠密……? 敵……?)


 私が困惑していると、母上(マヤ様)はふっと口元を緩め、悪戯いたずらっぽく微笑んだ。


「昨日の祝宴の終わり際、私が『おねしょ常習犯』だなんて大声で言ったこと、怒っているかしら?」


(はっ!? も、もちろん怒っていますとも! おかげで私の執事としての尊厳は――)


「ふふ、そんな顔をしないで。私はひと目見て分かっていたわよ。あれがただのオレンジジュースの汚れだってことくらい。あの場にいた他家の大人たちも、あなたの異様な『気迫(※執事の矜持)』と、あの名門貴族の令息をハンカチ一枚で手懐けた手際に、恐怖と警戒を抱き始めていたわ。……だからこそ、あえて私が『おねしょの幼児』という特大の泥を塗ることで、あなたの本性を隠蔽カモフラージュして守ったのよ。これも東雲家として裏の仕事(隠密)を隠す為の『情報操作スピンコントロール』の基本よ、シノ」


 満足げに目くばせ(ウィンク)する母上。


(母上ェエエエエーーーッ!!! 一目で気づいていながら、我が家の裏稼業のために、あえて娘の名誉を貶め、パンツの尊厳をマブダチの前で完全暴露したのですかァアアアーーーッ!!!)


 超一流の隠密とは、なんと薄情で、なんと恐ろしい生き物なのか。


(嘘だろ……。我が東雲家は格式高いだけの地味な華族ではなかったのか……!?)


(あの厄災の大予言には、社会的爆発おねしょリークだけじゃなく、生家が国家最高峰の『暗殺一家(闇の生業)』だという最大の凶兆の暗示も出ていたのか……!)


(私は転生後の今世こそ、ただの『格式高い至高の執事(健全な職)』になりたかった……)


(――なのに、なぜ暗殺一家の跡取り娘にされているんだーーー!?)


 私の心の中の絶叫の嵐など露知らず、母は「完璧なカモフラージュよ、シノ」と美しい顔で満足げに頷くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ