表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼんぼり執事かなめの受難――超一流執事、3歳児のお餅ボディ(物理)に完全敗北する――  作者: 以十可思(いとをかし)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/14

第5話:新たなる禁忌(アメダマ)と、大予言

 ――子供部屋。そこはかつてない温情に満ちた、おとこたちの社交場へと変貌を遂げていた。

(※器:シノ、3歳、生物分類:女、見目:丸い粘土風船)


「ほら、ちび。これでも食って元気出せよ」

「……ありがとうごぢゃいまちゅ(ご丁寧にありがとうございます、先輩方)」


 カナメは、脳内で(ふっ、今回の『乳のちちのひつじバグ』はあくまで一時的な撤退に過ぎん。お菓子クッキーという名の賠償金をこれだけ差し出してくるとは、先輩方も私が只者ではないと認めざるを得なかったようだな)と、格調高き筆頭執事の勝利宣言を述べながら、4歳児の先輩たちから差し出されたクッキーを、3歳児のモチモチとした完璧な反射速度で「ぱくっ」と受け取り、もぐもぐとお餅の頬を膨らませていた。

 

 そんな男たちの和やかな宴に、新たなる「劇薬げきやく」が投入された。


「おい、次はこれだぞ! めったに拝めない、特大の大玉飴おおだまあめだ!」

「うおぉ、すげえ! お披露目会(祝宴)の特別配給か!?」


 先輩が掲げて持ってきたのは、幼児の口の容量キャパシティを明らかに無視したサイズの、超特大のジャンボ大玉飴おおだまあめであった。

 その刹那、カナメの脳内警鐘アラートが、けたたましく鳴り響く。


(――はっ!? 待て。あれは母上から『しーちゃん、それだけは喉に詰まらせたら死の危険があるから絶対に駄目よ』と、国家最高機密レベルで厳重に食す事を禁じられている禁忌の弾丸だんがん……ッ!!)


 じっと飴玉を見つめて硬直するカナメに、4歳児の先輩が怪訝そうな顔でそっと肩を叩いた。

「どうした、ちび。お前、今日から3歳になったんだろ? 3歳になった男は、もうおっぱいを卒業して、飴玉を噛み砕く権利があるんだぞ」


「な……ッ!?」

 カナメの脳髄に電撃が走る。

 お披露目用の高級ひらひらドレスを身にまとった自分(女)に対し、この4歳児の先輩たちは、外見など一切気に留めていない。ただの「乳離れの試練を共にする戦友おとこ」としての熱い視線を送っている。


(3歳になった男の、権利……!? そうか、つまりこれは、私が『ただの乳飲み子』から、真に自立した『東雲家の筆頭執事』へとステップアップするための、人生の大きな節目に行われる通過儀式。3歳児になったからこその、『大玉飴攻略』という名の試練なのか……!)


 母の言いつけという名の安全策に甘んじるか。それとも、筆頭執事のプライドを賭けて、この未知なる巨大球体を完全制覇するか。

(くっ……! 挑まねば、筆頭執事の名が廃る……! 私はたんなる風船ではない、東雲家の筆頭執事、家令カナメなのだ!!)


「わ、わたちも……た、たべまちゅ(……かしこまりました。その挑戦、謹んでお受けいたしましょう)」


 カナメは気高き覚悟と共に、差し出された大玉のジャンボ飴を、その小さな口内へと放り込んだ。


 ――凄まじい質量だった。


 口に含んだ瞬間、3歳児の狭い口腔内は、完全に飴玉の暴力的な大きさに支配された。

(大きい……! これほどまでの質量とは……! しかし、転がす! 筆頭執事の完璧なる舌の制御コントロールをもってすれば、この程度の球体、御しやすいこと山のごとし……もごっ、もごっ、うっ、もご、もごもご……うぐ、む、むむむっ!)


 カナメは必死に口を閉じ、右へ、左へと飴玉を動かそうと試みる。

 だが、現実に昨日まで2歳だったマシュマロの肉体にジャンボ飴は無情だった。

 飴玉が右へ移動すれば、右頬が「ぷくぅっ!」と膨らみ『大こぶ』出現。左へ動かせば、左頬が「ぷくぅっ!」と膨らみ「ぼこんっ!」と飛び出す。

 おまけに飴玉が舌の上を通過するたび、巨大な質量が喉元まで襲い、カナメは白目を剥いては、天を仰ぎ耐え転がす。

 口内という狭い宇宙で繰り広げられる、飴玉と肉体との壮絶なる死闘。

 お餅顔に粘土の波打ち、白目を剝いたひょっとこ口までが加えられ、どこをどう飴玉が運行しているのか、外側から100%筒抜けのコミカルな百面相が周囲に繰り広げられた。


「おい、見ろよ! あいつのほっぺ、なんか生き物が入ってるみたいだぞ!」

「すげえ! 粘土がぐにぐに動いてる!」

「スライムみたいだぁー!!」


 4歳児のエイリアンどもが、見たこともない見世物エンタメに目を輝かせてわらわらと群がってくる。

(不敬だぞ、見るな……っ! 私は今、命懸けでこの飴玉の摩擦係数を計算して――)


「おもしれー! ここ、ツンツンしてみようぜ!」

「ごふ、ぶふぉッ、――」


 無邪気な4歳児の指先が、飴玉によって限界まで引き伸ばされたカナメの右頬を、容赦なく「ツンッ!」とつついた。


 その瞬間、いっぱいいっぱい状態を保っていたモチモチの皮膚(粘土)は、先輩の指圧力がぐにっと頬に押し込まれ、口内許容値を超えた!


 ――スポンッ!!!!


 完璧なまでの流体力学に従い、カナメの口から、よだれに濡れてキラキラした大玉の飴が弾丸のように勢いよく飛び出した。

 あまりの衝撃に、カナメはつい叫び声を上げてしまった。


「あっ! でまちた!!(※脳内:あっ! 射出されました(=でました)!!)」


 しかし、幼児語のバグは冷酷である。


「………………(唖然)」。


 子供部屋に、二度目の凄まじいフリーズが走った。


「えっ……? いま、『出ました』って……」

「おい、ちび……お前、飴を落としたショックで……、出ちゃったのか?」

「綺麗なドレス着てるってのに、飴を失った絶望で、ちびったんだな……!」。

「大丈夫だぞ、ちび! 漏らすのは恥ずかしいことじゃない! お前は、俺たちの『マブダチ(漢)』だ!! 内緒にしてやるから安心しろ!!」


「ち、ちがいまちゅ!! あ、あめ……でまちた!!(違います! 排泄ではなく、飴玉が物理的に射出されたと報告したのです!!)」


 必死の弁明を試みるカナメだったが、涙目で「でまちた! でまちた!」と連呼する姿は、どう見ても「やらかしてパニックになっている3歳児」そのものである。

 先輩たちが「うわあ、早く大人を呼んでこい!」「トイレだー!!着替えだー!!」と、男同士の固い結びつき(男の絆)の連携でドタバタと騒ぎ始める。


 だがその時、カナメの意識は、すでに別の次元へと突入していた。


 スローモーションのように目の前を落下していった、濡れたジャンボ飴。

 その放物線、回転速度、指示線、復元力、 tender 床に衝突した瞬間の不規則なバウンド――。

 前世で菅原家のあらゆる危機管理を統括していたカナメの脳内に、突如として『卜者(ぼくしゃ=占い師)の占術』が浮かび上がる。


(――待て。この飴玉の弾道軌道……これは単なる落下の物理ではない。

 天の理、地の利、精度、東雲家の命運を示す『』が出ている……ッ!!


 ゆか市松模様いちまつもようの 境界線で二度跳ね、母上が持ってきた『口の開いたポシェット』の真上を通過したこの角度……。

 間違いない、これは本日のお披露目の祝宴パーティ後半で、東雲家に未曾有みぞうの社会的爆発(大やらかし)が発生するという、天からの厳重な警告(大予言)……!!)


 床に落ちてコロコロと転がる飴玉を見つめながら、カナメは「でまちた」の誤解など遥か彼方に放り出し、これから起こるであろう東雲家の危機に、ただ一人戦慄せんりつするのであった。


(防がねば……っ! 筆頭執事として、この不吉な占いを、私の手で必ず書き換えてみせる……!)


 周囲で「早くパンツの穿き替えを!」とパニックっている4歳児の漢たちの中、カナメの丸い瞳(球体)は、未来の災禍さいかを見据えてギラリと鋭く光るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ