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ぼんぼり執事かなめの受難――超一流執事、3歳児のお餅ボディ(物理)に完全敗北する――  作者: 以十可思(いとをかし)


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第15話:お豆と魔獣の皮

 作業小屋からこちらに向かって歩いてくる庭師おじぃの姿を見たカナメは、口から心臓が飛び出て戻ったかと思うくらい絶句した。

「な、な、な、何————ッ!」


 おじぃは作業服の上に、禍々しい獣の皮のエプロンと分厚い皮手袋をめ、何重にも毛皮で包まれた『スイカほどもある巨大な物体』を台車に載せて、ゴロゴロと不穏な音を立てながら押してくるではないか!!

 しかも、おじぃの周りからは紫色の怪しげな妖気オーラが立ち上り、おじぃが台車を押して一歩進むごとに、周囲の青々とした草がシュルシュルと一瞬で枯れ果てていく。


(待て待て待て!!! なんで一歩進むごとに周囲の自然が絶滅していっているんですか!!! 防護服の段階レベルがガチの原発作業員並みですよ!!! それとお豆の種って言いましたよね!? なんでスイカサイズなんですか!! 要求したのは豆! 誰もスイカなんて頼んでいないし、これって色々おかしいでしょうがァァァ!!!)


一方、おじぃが明らかに過剰な防護エプロンを着用しているのを見た迅も、顔面を土気色に変えて、内心の危機感に冷や汗を流していた。


(おいおいおい!! おじぃが世紀末のような防護エプロンを着けただと……!? もしかして『お豆』って、伝説の悪魔の魔木のことだったのか!? あの暗殺界の重鎮たるおじぃですら完全防備を強いられる危険物……ッ! それをあの3歳児の妖怪は、自分のペットにでもする気なのか!!!)


 二人の心の阿鼻叫喚が聞こえたわけでもないだろうに、おじぃは何故かここから100メートル以上も離れた安全圏(?)の場所に、不発弾のような台車をピタッと停車させた。

「お待たせいたしました、シノ様(ゼェ……ゼェ……ゼェ……※重い)」


 ————((なぜに、あんな遠くに……。))※カナメ&ジン


 おじぃは台車の脇から、何やら怪しい気配を放つ『厚手の皮マント』を人数分取り出すと、それを手に呆然と立ち尽くす私達の傍まで歩み寄ってきた。

 

 まずは私の前に恭しく跪き、そのマントを差し出してくる。

「シノ様。これより封印を解き、お魔豆まめとの顔合わせとなります。この魔獣の皮で作られた『魂縛皮こんばくひのマント』をおまといください。これなしでは、封印を解いた瞬間に生気を魂ごと持っていかれますのでのぉ」


(……おじぃ、今なんて言いました? 魂縛皮って!? 魂を縛りつけて守るって、それ防具の次元を超えた呪いの装備ですよね?! なんで魔王のボス戦前みたいに防護服を配られるんですか!? というか、今、顔合わせって言いましたよね?! 相手は豆ですよね?? どゆことですかァーーーーーッ??!!!

 おまけに私用にわざわざ3歳児サイズのミニ魂縛皮マントが用意されているなんて……、準備が良すぎて怖すぎるんですがーーーーッ!!!)

(おいおいおい!! マント配られたぞ!!! 魂持っていかれるって何だよ!!! おかしくないかっ!? 園芸のはずだろっ!いったい今から何が始まるんだよっ!?(胃の完全消滅))


 内心狼狽えまくりの二人ではあるものの、本当に魂を失うわけにはいかないので、ガタガタと小刻みに震えながらもマントを受け取る。


「参りましょう。シノ様」

 そんな中、一人だけ冷静にマントを着用した杏に促され、私はビクビクしながら、おじぃの後について100メートル先の不穏な台車へと歩みを進めるのだった。


「では、皆さま、宜しいですか?心の準備は整いましたね。」

 そう言っておじぃが、厳重に包まれた魔獣の皮を一枚、一枚と丁寧にいでいく。

 一枚、二枚、三枚……

 

((——いったい何枚剥ぐんだ!?))


 目の前で繰り広げられる謎の儀式に、二人カナメとジンの脳内が完全に共鳴シンクロする。


 五枚、六枚、七枚……皮が剥がれるたびに、スイカを中心に放射状に拡散された大気の歪みが、おぞましい冷気を伴って身体を吹き抜けていく。


(おい待て、もう十枚目ですよ!? どんだけ厳重に密閉されているんですか! 入れ子細工マトリョーシカですか! これもうただの多重シールドでしょうがァォォ!!!)


 カナメが心の中で全力のツッコミを入れ、隣の迅の顔がいよいよ限界を超えて青紫色の階調グラデーションになりかけたその時、ついに不吉な忌み数——「十三枚目」の皮が剥がれ落ちた。


 パ、キィィィィィ————————ンッッッ!!!!!


 耳元で空間の防音ガラスが割れたかのような、硬質な『封印解除の音』が鳴り響き、ついにその中心に眠る「お魔豆」が姿を現す——。


 もぁあああああああああああああああああああああああああん


 紫色の禍々しい瘴気が辺り一面に立ち込め、ついに『それ』は姿を現した…………。


 スイカよりは小さいが、メロンくらいのデカさ。

 というか、これは紛れもなく、色違いの禍々しい『ド紫のメロン』だ!!

 メロン特有の網目模様は不気味な血管のように浮き上がり、赤い脈がドクドク、バクバクと生々しく脈打っている。おまけに時折本体が「ビクッン……」と自律的に波打つではないか。


(な、何ですかあれは……ッ!? 種なのに脈打っていますよ!? 生きている!? あれは魔物の心臓か何かなのですか……!? そういえば、さっき『触れてもいない』のに、周りの雑草がシュルシュルと枯れて炭化しませんでしたか……!? 待て、あんなの植えたら、鞭にする前に私が確実に消し炭になる(絞め殺される)のでは……ッ!?)


 本能のなせる業か……危険を知らせる警報アラーム音が脳内で最大音量で鳴り響く。

 カナメは一刻も早くこの場から逃げ出したくなった。


「あ、あの……ちの……おまめ、やっぱり……」


 そう言って全力で前言撤回(命乞い)をしようと、私が短い手をおじぃへと伸ばしかけた、その時だった。


 ドクン……ッ!

 ババババババンッッッ!!! バンバンバンバンッッッ!!!!!


((ひぃっ!? 豆が! 豆が台車の上で暴れ出したぁーーーッ!激しく飛び跳ねてるよォォォ!!!))


 カナメが手を伸ばした事で、『カナメの気(至高のお餅ボディ遺伝子)』を至近距離で察知したド紫のメロン(※お豆です)は、突然「ピクッ!!」と激しく痙攣けいれんしたかと思うと、ドクドクと浮き出ていた血管をバクバクバクッ!!!と恐ろしい速さで脈打たせながら、まるで狂喜乱舞するかのように台車の上で「バンバン、バババンバンッ!!!」と凄まじい勢いで跳ね踊り始めたのである!(魔豆、歓喜の舞)


(な、何事ですか!? 怒らせた!? 私いま何かお豆の逆鱗に触れるようなことしましたか!? 檻を破った猛獣みたいに飛び出してきて、私を真っ先に喰い殺す気じゃありませんよねぇぇぇ!!!)


 あまりの恐怖に身体が凍り付き、私はその場で直立不動のまま硬直した。

 だが――。


「ふおっ、ふおっ、ふおっ……! 素晴らしい。この『絞殺魔豆』が放つ宿主を喰らうほどの凶悪な殺気を前にしても、一歩も引かずに見つめておられるとは……! シノ様の殺気の高さを感知したお魔豆が嬉しさのあまり小躍りしておりますぞ。これほど格の高い魔木に、一瞬で『次なる主』として認められるなぞ、類いまれなことですぞ。さすがは東雲本家跡取りシノ様……!」


 おじぃが感動に打ち震えながら、私の「涙目の引きつり硬直」を『王者の風格』と誤解して不敵に笑う。


 当然、それを聞いた隣 の 迅の脳内は、恐怖で更なる暗黒世界ディストピアと化していく。


(ひいっ!! あのガキ、魔豆の猛烈な毒気に当てられて引くどころか、目をひん剥いて【ほう、なかなか活きのいい致死兵器じゃないか……】って楽しそうに値踏みしてやがる……ッ!!! 怖気おじけづくどころか、完全に自分の手足として支配する気満々じゃねえか、おまけに悪魔の魔豆には、きもい豆踊りで歓迎されてるし、やはり人間じゃない化け物っ!!!(消滅した胃のあたりが物理的にネジ切れる音))


 一方、私の横に控える杏は、もはや聖母マリアに祈りを捧げる敬虔なシスターのようなポーズで、両手を胸の前で組み合わせながら、熱い涙すら浮かべんばかりに感動していた。


(まあ……! お魔豆のおぞましい脈動と、シノ様の尊い鼓動が美しく共鳴していますわ……! まさに運命の出会いの瞬間ですね……ッ! さあシノ様、その手でこの世界を美しく絞め殺してくださいませ……ッ!!)

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