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アプレンティス・リリィ⑨

 放課後のとある教室、そこは千晶達超常現象研究部の部室でもあった。

 しかし現在、教室内は異様な空気に包まれていた。


「中止って……どう言う事ですか!?」


 教室の椅子に座っていた金山は、部活の顧問である杉山順子に喰ってかかっていた。


「そのままの意味だ」


 そんな金山に対して、順子は険しい表情のまま答える。その雰囲気に千晶達は押し黙るしかなかった。


「昨日の事は今朝、朝霧から聞いた。化け物が街中に現れ、フラワーナイト・リリィと名乗る少女も現れたそうだな」


 そう言って、順子は超常現象研究部の部長である朝霧直輝を見やる。

 一方の直輝は申し訳なさそうな顔で黙って頷く。


「ッ!そうです先生!俺達噂のフラワーナイト・リリィと会って話をしたんですよ!あんまり話は出来なかったけど……次会えれば」


「その際に、また化け物に襲われる危険があってもか?」


 順子の言葉に金山は思わず押し黙ってしまった。

 すると順子は、教室にいる千晶達を見回す。


「私はな……お前達に危険な目に遭ってほしくない。これはあくまで部活動だ。部活で大怪我……昨日の場合、最悪命を落とすなんて事が起きるかも知れない。その危険性がある以上、そのまま活動させる訳にはいかない」


「「「……………………」」」


 順子の正論に彼等はお互いを見回す。実際、彼女の言っている事は正しい事を、彼等は理解していた。


 ――母さんはね……無理をしたり危ない事にあまり首を突っ走んでほしくないの――


 ――詩織の事もあるし………母さんは子供を二回も失いたくないから――


 (そうだよな。ただの部活で危険な目に遭う必要なんてないしな)


 千晶はそう思い、順子の言葉に納得の意を心の中で示していた。また他の皆も同様のようで、納得はいかないながらも何処かしょうがないといった空気が教室内に流れていた。


「…………また……俺のせいで……みんなに迷惑を……そんなの……」


「金山?」


 ただ一人……金山はうわごとのようなことを呟いていた。

 千晶が声をかけるも、まるで耳に入っていないようで相変わらず一人ぶつぶつと呟いていた。


 (金山の奴、一体どうしたんだ?……そう言えば今朝も何か言っていたような……)


「話は以上だ。お前達はこれまでの調査結果をまとめるなり次の調査内容の話し合いをしていてくれ。私は職員室で仕事をしているから何かあったら職員室まで……」


「待って下さい!」


 そう言って荷物を纏めて教室から出ようとする順子を、千晶は思わず引き留める。


「天風?」


 金山はそんな千晶をぼっーっと見つめる。


「何だ天風?まだ何かあるのか?」


 一方の順子は教室のドアに手をかけたまま、千晶の方に振り返る。


「ええっと……確かに先生の言う通り、危険があるのにこれ以上調査するのは俺も反対です。けど、細心の注意を払って……例えば、フラワーナイト・リリィを目撃した人から話を聞くとか、そういうのでこの調査を継続するのは」


「ダメだ」


 千晶の言葉を受けた順子はにべも無く反論する。しかし、彼女はドアにかけていた手を離し、身体ごと千晶に向き直る。


「確かにお前の言う事も一理ある。しかし、その途中……或いは向かっている最中に、再び化け物と遭遇しないと誰が言い切れる」


「それは……」


 順子の言葉に妙案が浮かばない千晶。


「……とは言え、いきなりそんな事言われてもすぐに次の調査内容を決定しろなんて言うのも酷な話か……」


 すると、そんな千晶を見た順子は、ため息をつきながら言葉を発すると、先程までいた場所まで戻る。


「仕方がない……条件付きで調査期限を伸ばす」


 そして、一同を見回した後、仕方ないと言った感じで言葉を発する。

 すると、その言葉を聞いた千晶達は困惑の表情で再びお互いの顔を見回す。


「あの先生……条件付きって言うのは?」


 すると、皆を代表して部長の直輝が順子に問いかける。


「……幾つかあるが、まず一つ……お前達が解決案を考え、それを私が確認して安全と判断しない限り次の調査はさせない。二つ……次の調査は私も同行する。そして、如何なる理由があろうとも次の調査を持ってこの調査は終了する」


「そんな!」


 反論しようとする千晶を、順子は目で制す。


「悪いが、これが精一杯の譲歩だ。これが守れないなら今回の調査は強制的に禁止にする。良いな」


 順子はそう言うと、今度こそ教室を後にする。


「…………とりあえず今後の活動を決めましょうか」


 誰も何も言わない中、直輝はその場を仕切る。と言っても誰も良い案が浮かばずに、ただただ時間だけが過ぎていった。



 ―――― 



「…………どうすっかな」


 話し合いは一旦中断となり、今は休憩時間。千晶はトイレからの帰り道もずっと解決案を考えていたが、一向に思いつかなかった。


(先生を納得させるなら魔物の危険がなく、かつ有力な話を聞ける人………そんな人都合良くいる訳ないか)


 そう思い直して教室に戻ろうとする千晶。


「あの……天風先輩ですか?」


 すると、そんな千晶の背後から声がかかる。


「えっ?」


 名前を呼ばれて振り返る千晶。するとそこには自分と同じ制服を着た女の子が立っていた。

 女の子は肩までの短い髪をピンクに染めており、童顔な容姿のせいか何処か年齢よりも幼く見えた。


「やっぱり………天風先輩だ!お久しぶりです!お元気ですか!?」


 千晶の顔を確認するなり、女の子は千晶に近づき笑顔を向ける。一方の千晶はいきなり迫って来た女の子に困惑していた。


「えっと……先輩って事は一年生だよね。ごめん……正直覚えていなくて何処かで会った事あったけ?」


 千晶はまるっきり目の前の女の事と面識がなかった。一応中学の時の記憶を思い出したが、目の前の女の子と一致する子は千晶の記憶の中にはなかった。


「あっ!そうですよね。中学の時と見た目とか大分変わりましたから」


 そう言って女の子は千晶から少し離れると、ポケットから何かを取り出す。

 それは眼鏡ケースだった。女の子は眼鏡を取り出すと、それを顔の前まで持っていく。

 すると、千晶の中で一人の女の子の姿が浮かんだ。

 それは中学の時に知り合った仲の良い後輩……


「芹澤……まさか芹澤なのか!?」


 千晶は驚きのあまり声を上げる。すると、目の前の女の子……芹澤智子は嬉しそうに微笑む。


「はい!……お久しぶりです。先輩」


 智子の千晶を見つめる目は、嬉しそうでいて若干うっとりとしていた。



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