アプレンティス・リリィ⑧
千晶が魔王等と会った翌日……
「んッ……ふぁぁぁ~あっ……おはよう」
「おはよう。千晶」
目を覚ました千晶は、居間にいる母親に挨拶をしてテーブルにつく。テーブルには既に朝食が用意されており、千晶の空腹を促していた。
「いただきます」
千晶は手を合わせると、朝食を食べ始める。
『次のニュースです。昨日の夜、街に化け物が出現したと言う情報がありました。幸い死傷者は出ませんでしたが、付近にいた目撃者の話によるとフラワーナイトリリィと名乗る女の子が化け物と戦っていた所を目撃したようです。警察は化け物とフラワーナイトリリィと名乗る女の子の関係を調べると共に、不要不急の外出を控えるよう市民に呼びかける方針だそうです』
「……………………」
すると、テレビから流れるニュースに、千晶の食べる手が止まる。
……彼女がどう言う経緯で鍵を持ったのかは分かりません。しかし、今のままでは彼女の身に危険が生じる可能性があります……
(アイツが何者なのかは分からない……けど、封印の鍵をアイツの手から切り離さないと大変な事になる。なるべく早くアイツに会わないと)
「……ねぇ千晶。昨日大丈夫だったの?」
千晶がテレビを見ながら考え事をしていると、千晶の母親が心配そうに声をかける。
「ん?何が?」
「ほら、昨日部活で街に行ってたでしょう?その時に化け物に遭ってないか心配で」
ご飯を食べながら返事をする千晶に対して、母親は顔に手を当てて心配そうな顔をする。
「あぁ……大丈夫。化け物は俺達がいた場所とは違う場所にいたみたいだし、フラワーナイト・リリィって言う女の子が化け物をやっつけたらしいから」
「そう………ねぇ千晶」
母親は返事をすると、真剣な表情で千晶を見つめていた。
「ん?」
「千晶が元気に……友達と部活動をするのは良い事だと思う。けど、母さんはね……無理をしたり危ない事にあまり首を突っ走んでほしくないの」
「母ちゃん?」
母親の真剣な言葉に、千晶は母親に向き直る。
「詩織の事もあるし………母さんは子供を二回も失いたくないから。……って、ごめんね。朝からこんな話しちゃって」
そう言うと母親は立ち上がり、空いた食器を手に持って台所に行ってしまう。
「………………」
(母ちゃん……嘘ついでごめん。けど、これは俺がやらなきゃならない事だから……)
残された千晶は黙々と朝食を食べるのだった。
「お~〜〜い、天風〜」
千晶が通学路を歩いていると、後ろから声がかかる。彼が振り返ると、一人の男子生徒が小走りに千晶に近づいてくる所だった。
「金山?」
男子生徒は千晶の同級生の金山信彦だった。しかし、千晶はその姿に疑問を抱いていた。
「オッス天風!……珍しいな、お前一人か?」
「別に良いだろ。そう言うお前だって……中山は一緒じゃないのか?」
金山の疑問に千晶は辺りを見ながら答える。彼の幼馴染であり、千晶と同級生の中山将大の姿がなかったからだ。
「アイツは今日、日直で先に行ってる。だからって訳じゃないけど一緒に行かないか?」
金山の提案を断る理由がない千晶が頷くと、二人は連れ立って歩き出す。
「なぁ、天風」
しばらく歩いていると、唐突に金山が口を開く。
しかも、その口調は普段のおちゃらけたものではなく、真剣なものだった。
「何だよ?そんな改まって」
そんな金山の態度に、千晶は思わず立ち止まってしまう。
「……昨日の中山の事、悪く思わないでほしいんだ」
そう言うと、金山も足を止めると真剣な表情で千晶を見つめる。
「金山……」
「あれは俺が勝手に怪物に突っ込んだだけで、中山は……その……」
「分かってるよ。それに……俺は気にして無い」
途中からしどろもどろになる金山。
そんな金山を元気付けるように千晶は笑顔を向けると、そのまま歩き出す。
「そっか……ありがとうな天風」
そんな千晶の態度に、ホッとした表情をした金山はそのまま千晶の隣を歩く。
「………そういえばさ、金山って中学の時、中山と同じ部だったんだよな」
すると、思い出したかのように千晶が金山に問いかける。
「ああ、そうだぜ!バスケ部で俺がキャプテンでアイツが副キャプテン」
金山は自慢するように自身を指差す。
「……何か想像つきそうだな。強かったのか?」
「実際強かったぜ!そうだ天風!今度バスケしないか?俺と一on一」
「…………遠慮しとく」
金山の誘いを断りながら、千晶は先程の金山の態度に疑問を覚えた。
――一応…………俺と金山はバスケ部に所属していた――
(あの時の中山……何処か暗い顔をしていたような気がするけど)
そんな事を考えながら千晶は通学路を歩いていく。
「……ぶっちゃけ、中山にはすげぇ感謝してるんだ。だから……俺のせいでアイツが悪く思われるのは我慢ならねぇんだ…………」
金山は誰にも聞こえないような声で一人そう呟くと、千晶を追いかけるのだった。
「あっ、千晶おはよう!てか珍しい組み合わせだね」
それからしばらく歩いていると、今度は千晶の幼馴染の白石優里香が二人に追いついて来た。そして二人を見ると嬉しそうに声をかける。
「別に……親友なんだから普通だろ」
「おっす白石!ってか天風、今親友ってお前……」
親友という言葉にやたら反応してくる金山を振り払う千晶。
「ふふっ。楽しそうだね二人共」
そんな二人を優里香は微笑ましそうに見つめていた。
「白石……お前は一度眼科に行く事をオススメするぞ。どう見たらこの状況でそう思う?」
「そういえば金山くん。体調とか大丈夫?怪我とかしてない?」
千晶を無視して優里香は金山に問いかける。
千晶は何か言いたそうな顔をしたが諦めたような表情をしていた。
「ああ問題ないぜ!てか今更だけど………あのリリィって子、めっちゃ可愛くねぇ!俺めっちゃ好みなんだけど!」
金山は問題ないとアピールした後、締まりのない表情をする。
「「………………………………」」
そんな金山の態度に、二人は何とも言えない表情を浮かべる。
「って良いだろ!生まれてこの方、女の子と縁がなかったんだから!少しぐらい夢見たって」
「いや別に良いけど……」
「てか……私も女の子なんだけど」
と、冷静にツッコミを入れる二人。しかし、金山はそんな二人の様子など気にした様子はなかった。
「と言うか、部活で彼女の事をこれからも調べるんだから。会おうと思えばまた会えるんじゃ」
「それだ!」
金山は拳を握り締めると、決意を込めた表情をする。
「部活で調べていれば、またあの子に会えるじゃん!そして、今度会ったらあの子に連絡先を交換してもらおう!まずはお友達から、そしてゆくゆくは……おっしゃ〜!燃えて来た!」
金山は一人叫ぶと、居ても立っても居られないと言った感じでさっさと先に行ってしまう。
「…………昨日、正体に関することは答えられないって、アイツ言ってなかったか?」
「まぁ……良いんじゃない。本人の自由だし」
半ば呆れ気味に二人は頷くと、学校に向けて歩き出す二人。
しかし、その日の放課後……こんな穏やかな空気が一変する事態が起きる事を、この時の彼等は知る由もなかった。




