アプレンティス・リリィ⑦
「ただいま……っと。お母さん達、もう寝てるよね」
私はそう言いながら出た時と同じように二階の窓から部屋に入る。
部屋の中に誰もいない事は分かっている。
けど……生来の真面目さ故かつい挨拶をしてしまう。
そしていそいそと部屋の中に入る。普段ならさっさと変身を解いてしまうのだが、今日の私は違っていた。
私は部屋に設置してある姿見の前に立つ。
そして、鏡に映った自分の姿を見つめながら、先程言われた言葉を思い返す。
…………俺は前にフラワーナイト・リリィに助けられた事がある。その時の風貌と今のアンタの風貌が全然違っているから気になったんだ…………
(分かってるわよ。そんなの……私が一番理解しているんだから……)
姿見に映る自分の姿を見ながら心の中で愚痴る。
私は数ヶ月前までただの女の子だった。ある日、道端で変な石のような物を拾うまでは……
『お主の願いは何だ?我がその願いを叶えてやる』
唐突に頭に響いた声に最初は戸惑った。
しかし、以前に化け物に襲われた事のある私は、すぐさま気持ちを切り替え、自身の願いについて考えた。
私は昔から漫画やアニメが大好きだった。特に悪と戦う変身ヒロインの話が……
だから、自分が化け物に襲われた時にこんな事があるんだと、恐怖と同時にそんな現実離れした感情が湧いてきた。
「花の騎士!フラワーナイト・リリィ見参!」
そんな時だった。私の前にあの人が現れたのは……
まるでアニメの世界からそのまま出てきたようなカッコイイ騎士風の女の子。彼女はそのまま化け物を倒すと、私の方を向いて笑顔を向けてくれた。
「もう大丈夫。けど、夜道は危ないから気をつけて帰ってね」
そう言ってその人は颯爽と立ち去ってしまった。
その時に思った。
……あの人みたいになりたいと……
「…………………………」
今の私はあの人に似ただけの存在……
背や髪だって全然違うし、ましてや剣なんてあんな風に振り回せない。
けど……弱い人を守ろうとする心だけは同じだと思いたい。
私は変身を解いて普通の女子高生に戻る。
そして、棚に飾ってある一枚の写真立てを手に取る。
「まさか……あんな場所にいるなんて」
そこには中学の制服を着た一人の男の子が写っていた。
けど、その写真のピントは合っていない。とてもじゃないが写真を撮らせてなんて当時の私には言えなかったから…………
けど、私は知っている。その人は今、私と同じ高校に通っている事を……
「…………今度は学校で会いましょう。天風先輩」
私はそう言って写真立てを戻して部屋を後にするのだった。
――ボワン――
……コンパクトの中のあの球が怪しく光っている事に気付く事なく……




