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アプレンティス・リリィ⑩

「いやぁ……全然分からなかったよ!中学の時は眼鏡かけていたし、それに」


「今はコンタクトにしました。髪型や色は……いわゆる高校デビューって奴ですね」


 二人は話しながら並んで歩いていた。

 芹澤智子……彼女は千晶の中学生時代の後輩であった。こう見えて彼女は大のアニメ好きであり、千晶と知り合ったのもアニメの話題……特にニチアサアニメの話題で盛り上がったからだ。


「それに、変わったって言ったら先輩もですよ」


「俺?」


 智子の問いかけに思い当たる節がない千晶は頭に疑問譜を浮かべる。


「そうですよ、三年の時の先輩……学校をかなり休んでいたし、学校に来たかと思えば人と関わるのを避けているような感じでしたし」


「………そうだったな」


 (あの時は詩織をなくして、もう他人と関わるのはやめようと思っていたから………芹澤には悪い事をしたな)


 智子の言葉に千晶の顔が曇る。


「でも、こうして先輩が出会った時みたいな感じに戻っていて私は嬉しいです」


 それを察した智子は気にしていないと言わんばかりに話題を変える。


「そうか?白石達には俺が変わったってよく言われるけど……自分ではよく分からないんだよな」


 そう言って頬をかきながら照れ臭そうにする千晶。


「……ふふ、変化って自分ではよく分からないものですよ。ところで…………その白石ってどんな方なんですか?」


 智子は千晶の様子を微笑ましく思いながら問いかける。


「あぁ……そういえば芹澤は白石と会った事なかったんだったな。白石は俺の幼馴染で」


「千晶〜」


 千晶が優里香の事を話そうとすると、丁度前の方から優里香が小走りに千晶達に向かってきた。


「もう!中々帰ってこないから心配した………」


 優里香は千晶の隣にいる智子を見た途端に、言葉を噤んてジッと千晶を見つめる。


「千晶。……この子誰?」


「あぁ丁度良かった。白石にも紹介するよ。この子は芹澤、俺の中学の時の後輩。で、芹澤……こっちがさっき言っていた白石。俺の幼馴染なんだ」


 そう言って千晶は半歩下がって、二人にお互いの顔がよく見えるようにする。


「初めまして、芹澤智子と言います。()()()()の中学の後輩で、中学時代は先輩に()()()()()になりました」


 すると、芹澤が先に白石に挨拶をする。

 しかし、彼女の言い回しにはところどころ、変に強調するような言い回しがあった。


「……こちらこそ初めまして。()()()()()()の白石優里香です。千晶とは小学校の時一緒だったけど、その後転校しちゃってこうして高校でまた一緒になったの。今は()()()()()()()()()()の。よろしくね」


 すると、返すように優里香も挨拶をするが、その口調は智子に対抗しているのか、同じように不自然な強調の仕方をしていた。


「…………白石先輩。一つ良いですか?」


「?……なあに?」


 すると、智子が笑顔を崩さないまま優里香に問いかける。優里香が笑顔で答えるとそのまま口を開く。


「いくら幼馴染といえど、先輩の事を名前で呼ぶのはどうかと思うんですが……」


 一応、先輩に対しての敬意を払っているような口調の智子。しかし、その言葉は何処か優里香に怒りを向けているようにも聞こえた。


「えっと……芹澤さんだっけ?別に……私が千晶をどう呼ぼうが貴女には関係ないと思うけど?」


 それに対して、丁寧な言葉遣いで返す優里香。

 彼女もまた、智子と同じようなニュアンスを含んでいた。


 ――バチバチバチ――


 すると、見えない光線が二人の間で飛び交う。勿論千晶には見えていなし、実際に飛び交っている訳ではないが、当事者の二人はお互いにその事を理解していた。


 (何なのこの女……千晶の中学の後輩って言ってたけど………やたらと千晶との距離近くない?)


 (この人……先輩の幼馴染って言ってたけど。中学の時の先輩を見ている私からしたら、きっとこの人が先輩を変えたんだと思う。悔しい……けどこれからは)


 (この子(この人)千晶(先輩)に近づかないようにしないと!)


「……そういえば白石。もう休憩時間終わりか?」


 千晶を巡って見えない牽制をしている二人を他所に、千晶は優里香に問いかける。


「あっ!そうだった。千晶が中々帰ってこないから迎えに来たの!それに良い案も思いついたし」


「ッ!本当か!」


「うん!と言う訳で……」


 優里香の言葉に驚きの表情をする千晶。

 すると、優里香はさっと千晶に近づくとそのまま千晶の手を取る。


「千晶をこのまま連れていくね!またね!芹澤さん」


「えっ!あっ!ちょっと!」


 智子が何か言おうとするが、優里香はそそくさと、その場を後にしようとする。


「お,おい!白石」


 千晶は抗議の声を上げるが優里香は聞く耳など持たずにそのまま立ち去ろうとする。


「あっ、あの!先輩!」


 すると、そんな千晶の背中に智子は声をかける。その言葉に、千晶は立ち止まると後ろを振り向く。


「今度、ゆっくりとお話ししましょう!………今度は、二人で!」


「あ、ああ。……おわぁ!」


 返事をする千晶を見兼ねた優里香は、そのまま千晶を伴ってその場を後にするのだった。







「お、帰ってきた。お帰り二人と……」


 ――バシィーーーーーン!――


 教室に入るなり優里香はものすごい勢いで教室のドアを閉める。その勢いに声をかけた金山、同じく教室に居た中山、直輝は互いの顔を見合わせる。すると、その様子を見た白石は疑問符を浮かべる。


「どうしたの皆?」


「…………白石さん。何かあったんですか?」


 皆を代表して直輝が白石に問いかける。しかし、優里香は心当たりがなと言わんばかりに首を傾げる。


「別に何もないよ。ただ、千晶がちょっと()()()()()()()()()()()()()だけで……」


「後輩?もしかして可愛い女の……」


「何?……金山くん?」


 普段通りに戻った金山が口を挟もうとすると、優里香が金山の方を見つめる。その顔は笑顔だったが、身体から迸る何かに金山の言葉は止まってしまった。


「……あっ……いや。何でもないです」


 (これは間違いなく女絡みだな(ですね))


 そんな優里香の態度を見た中山と直輝は我関せずと言った感じで黙っていた。


「で、白石。肝心の良い案って……結局何なんだよ」


 そんな優里香の態度の変化に気付く事なく千晶は優里香に問いかける。


「あっ、それなんだけど………丁度来たみたい」


 ――ガラガラガラ――


「白石から良い案が浮かんだから教室に来てくれと言われたが……間に合ったようだな」


 すると、優里香が口を開くタイミングに合わせるように教室のドアが開き、順子が姿を見せる。

 そして、順子が教室に入ったのを見届けると、優里香は皆を見回し、口を開く。


「えっと………皆には言ってなかったんだけど、私達の知り合いにフラワーナイト・リリィに助けられた人がいて、その人から話を聞くのはどうかな?」


 優里香の言葉に皆が異論を唱えない中、順子が顎に手を当てて考え込む。


「……話を聞くのは構わないが、それだと化け物と遭遇する可能性があるのではないか?」


「大丈夫です。私と千晶はその人の家にお邪魔した事があるので、家……或いは都合良い時に学校に来てもらって、話を伺えば問題ないですよね」


「……確かに、それなら問題はないだろうな」


 優里香の問いかけに順子は納得したように頷く。


 (俺と白石がその人の家に行った事のある人……初江さんか!)


 千晶はようやく、優里香の言いたい事を理解していた。

 二週程前、千晶はリリィから千晶に戻る際、その姿を一人の女性に見られたのだ。しかし、その人物は過去に千晶がリリィになった際に助けた事もある人物で、会って話しをした際に千晶の事を秘密にして尚且つ応援してくれると言ってくれたのだ。(詳しくは「超常現象研究部 後編」を参照して下さい)


「……分かった。ただ、その方の都合があるだろう。一度こちらから連絡を入れてその方の都合の良い時に来てもらおう。言ってくれれば私の方で先生方には話をしておく」


 千晶が考えている間に話が進み、順子は再び教室を後にする。そして、順子が教室から出ていくと優里香は千晶の方を向く。


「と言う訳で、連絡よろしくね!千晶」


「ん。分かった」


 優里香に促された千晶は早速初江に連絡を入れる。初江は直ぐに電話に出て、千晶が事情を説明すると彼女は二つ返事で了承をしてくれた。


「あれでしたら、こちらからその方にご連絡を入れますよ」


 そう言う初江の好意に甘え、千晶は学校の電話番号と順子の名前を初江に伝えると、電話を切る。


「どうだった?」


 問いかけてくる金山に笑顔を向ける千晶。すると、教室内の空気が柔らかくなった。


「とりあえず、これで目下の問題は解決だな」


 千晶の言葉に和気藹々(あいあい)になった教室。すると、優里香が千晶の肩にそっと手を置く。


「ところで千晶……さっきの子について詳しく聞きたいんだけど良いよね?」


 優里香の顔は笑っていたが誰も逆らえないような雰囲気を出しており、千晶を含め誰一人、優里香の言葉に首を横に振るものはいなかったのだった。


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