表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックドッグのいる日常  作者: 水木あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/26

クロとブラッシング

挿絵(By みてみん)




 今日は、なんでもない日だが、私はとても幸せだった。

 私の手の伸ばす先にクロがいて、我が家の黒犬さんは今、気持ちよさそうに目を閉じている。

 手にはシャンプーをする際に買ったブラシが握られていて、それで、もつれた毛を丁寧にくしけずっていく。

 柔らかくたっぷりとした毛の束を、少しずつふんわりとさせていく度に心が落ち着き、同時に大興奮して忙しい。

 ああもう! このもふもふさんめ!

 でも、私がクロにできる事は、本当に少ない。

 散歩とお風呂とブラッシング、それに加えてたまにおやつ。

 それだけだ。

 私は、クロに沢山のものを貰っているのに。

 クロがいない生活を、もう上手く思い出せないぐらいに、今が幸せなのに。

 いや、嘘だ。

 私は思い出せる。

 とても、はっきりと。


 ――思い出したくないだけなのだ。


 早く家に帰りたくて。

 でも、誰もいない家に帰りたくなくて。

 疲れて、帰ってきて、一人で。

 電気をつけたアパートは、明るくなったのに、電気をつける前より、何倍も寂しく見えて。

 そして、画面の向こうには、楽しそうな世界が広がっている。

 私も犬を飼えたら、違ったのかな。

 誰かがそばにいたら、違うのかな。

 そんな風に思って。

 でも、何も、できなくて。

 ただ、見ているだけで……。 

 それは、遠い過去でもなんでもない。

 時間にしたら、たった一年。

 クロがいなくなったら、またそうなる。

 それは、怖い、な。

 ペットをなくした時、ペットロスの悲しみを前に、どうすればいいかはみんなが口を揃えて言う。


『新しいペットを飼う事』


 前の子との思い出を大切にして、新しい子を愛する事。そうやって、悲しみよりも多い喜びを積んでいく事。

 それは、正しい。

 でも、それは、できないのだ。

 ……こんな子が、他にいるはずない。

 手を止めた。

 ブラッシングを終えて、本当にふんわりとした漆黒の毛を、そっと撫でた。

「……おしまい、ね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 忍び寄る、「終わり」の気配。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ