クロと調べ物
少し、調べ物をした。
基本的には、クロについて。
クロと同種の存在を、徹底的に調べてみた。
霊的な超大型犬の隣で、その正体について調べるという、シュールな調査の結果分かった事。
たくさんいる……。
とりあえず狼、狐、コヨーテ、ジャッカルなど、犬でないものを除いた。私は、まだクロが狐である疑惑を捨てていないが、それぞれ膨大な量があったからだ。
それでも、ほとんど全世界にいる。
犬は、古くから人間の友とされてきた。
感動的なエピソードがある。
少し変わったエピソードがある。
そして人と違う、しかし人間の隣に確かにいたと伝えられる不思議ないきものとしてのエピソードも、数多く残されているのだ。
その中で、黒くて不思議な犬を調べていくと、頻繁に出てくる、印象的な名前と伝承があった。
ブラックドッグ。――話しかけたり、触ったりしては、いけない。恐ろしい事が、起こる。
その他、ほとんどの犬の形をした幻想のいきものは、人間が軽々しく触れていい存在ではないようだった。
色について書かれていないものは分からないが、書かれているものは、ほとんどが黒だった。ヨーロッパのものが多いので、黒猫が魔女の使いとされたように、黒という色を持った生き物は向こうでは特別なのだろう。
ブラックドッグ。
チャーチグリム。
バーゲスト。
妖精犬、カー・シー。
イルシングスの黒い犬。
ブリックリングの黒犬。
マクフィーの黒犬。
ジョニー・グリーンウッドの黒犬。
クーン・アンヌーン、またはクーン・イ・ウィブル。
デヴィルズ・ダンディ・ドッグ。
ラッチェット。
ギャリー・トロット。数少ない白い犬だ。
モーサ・ドゥーグ。
パッドフット。
シュライカー。
ウィシュト・ハウンド、またはウェース・ハウンド。
ゲイブリエルの猟犬。
ダンドーの猟犬。
ティンダロスの猟犬。
ノーデンスの犬。
エディンバラの幽霊犬。
犬神、または狗神。
――そして、座敷童。
ふと目を引かれる記述。
蔵の中から聞こえた犬のような唸り声。
とたとたと座敷を歩く黒い獣のような影。
これらは別々のエピソードだが、綺麗な着物を着たおかっぱ頭の女の子というイメージ以外の座敷童の伝承が多く存在している。「童」というのが似つかわしくない、というより、ただの便宜上の区分に無理矢理当てはめただけだ。
座敷に座ってにたりと笑う老婆。
ふすまを細く開けて手招きする、異常に細長い手。
土間に撒き散らしてしまった籾殻の上に音もなく付いた子供の足跡。
福の神という話はどこへやら、これではただの怪談だ。今夜寝るのが嫌になる。
我が家には座敷もふすまも土間もなくて良かった。
クロを、座敷童だと思ったわけではない。
でも、想像もしなかった角度から、黒い獣の伝承が顔を覗かせた事で、なんとなく足下の地面が頼りなくなったような、空気が現実感をなくしたような……何かに知らない内に這い寄られていたような、不気味な感覚を覚えたのだ。
とりあえず隣のクロを撫でる。
霊的な存在を調べていく中で生まれた、背筋がざわざわするような落ち着かなさが、私の知る中で最も霊的な存在であるクロを撫でていると、少しずつ落ち着いていくのが分かる。
クロを見つめると、クロも私を見つめた。焦げ茶の瞳。
クロが、首筋に置いたままの私の手に、頬を寄せた。絡み合った毛が気持ちいい。
思わず、微笑んでいた。
……もしかしたら、私がなんとなく元気をなくしたのが、分かったのだろうか?
慰めてくれようと、したのだろうか?
何も、分からないけれど。
私には、犬の気持ちは飼育本以上の事は分からないし、クロが一般的な犬に当てはまるかも分からないけれど。
うん、今夜はクロを抱き枕にしよう。




