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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二部:年跨ぎスターライト半月戦争
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第九十三話 バースデイ・サンライズ

 忙しかった元日、そして三が日を過ぎ4日となった今日この頃。

 正月にはあんなに絶え間なくやってきていた客足もすっかり遠退いて静かになった此宮神社の中で彦乃は机と向き合いペンを走らせていた。

 ノートに問題を書き移して行き、その答えを自分の力で解いていく。

 見直し計算や応用も忘れない。


 そう、彦乃は今、冬休みの宿題に追われているのだ。

 まだ慌てるような時間じゃない?甘い!

 普通の高校生だったら確かにまだ慌てるようなタイミングじゃないのかもしれない。

 だが彦乃は普通の高校生とはまた訳が違う。


「……」


 正月には山のように神社へ仕事が舞い込んでくる。

 それを捌いて行くのにはいつも苦戦させられるものだ。

 この上で更に彦乃にはスターライトとしての使命もある。

 いつどこで戦いに赴いてもいいように、早い内に宿題を済まさなくては。


「…ふぅ…おわったぁ…」


 なんて言っている間に冬休みの宿題をあっさりと終わらせてしまった。

 元々の量がそこまで多くなかった事もあるが、やはり彦乃の集中力が高いのもあっさりと終わらせられてしまった一因と言えるだろう。

 集中すればどこに誰が居るのか、何があるのかを見ているように感知できる彦乃の集中力は、最早レーダー機器をも超えている。

 身体の負担になるからとあまり集中力を研ぎ澄ませようとはしないが、それでも普段の生活の中での彦乃の集中力は人並み外れている所があった。

 秋にやっていたソフトボールの練習試合にしたって、打席に立てば必ずといっていいほど大量にホームランを叩き出す。

 学校での人気はしっかり右肩上がり。

 女子だけでなく男子からも尊敬のまなざしを向けられるようにまでなっていた。


「織姫ちゃんは明日だったっけ帰ってくるの…」


 カレンダーに記された緑の丸印。

 翌日になる場所で何があるかと言えば、織姫が両親に会いに行って帰ってくるのだ。

 今頃はきっと帰る準備も済ませて寝ているんじゃないだろうか。

 あちらはやっと日付が変わったか変わってないかといった感じの時間なはずだから。


「操ちゃんは…ええと田舎に帰ってるんだったっけ…」


 携帯のメール履歴を見てみると、操も今日まで田舎の方へ帰っているんだとか。

 だから家へ遊びに行ってもきっと誰一人居ないだろう。

 いつも遊んでいる二人が居ないとなると彦乃はヒマでしょうがない。

 宿題も片付けてしまったし神社には誰も来そうな気配がなかった。

 留守番をするよう言われてはいたが、それにしたってヒマだ。

 こんな時、桜が居たらヒマだなんて言葉も出てくる事は無かっただろう。


「…桜ちゃん…いまどこにいるの…?」


 試しにその場で座ったまま意識を集中させてみる。

 家の近く、その周辺、学校のあたりまで、最寄駅、コンペイトウのあたり、県境、隣の県、海岸線、海の向こう側。

 どこを探したって桜の気配は感じ取れない。

 聞こえてくるのは街行く騒音、感じ取れるのは人や動物の反応ばかり。

 桜の反応もなければデブリの反応も感じられない。

 平和と言ってしまえば平和なのだが、彦乃にはどうも物足りない。


「……はぁ…」


 どれだけ探しても見つからない。

 それを分かっていて試したものの、本当に見つからない彦乃は大きくため息を吐く。

 今までこの集中力でちょっとした人探しなんかも手伝っていたりした分、どれだけ探しても見つからないという事実は彦乃の心に暗い影を落とす。


「……ん?」


 何かしようと引き出しを出してみると、そこにあったのはこの前レジーナが遊びに来た時に貰ったお茶菓子だった。

 桜や祖父の為にと置いておいたものだったが、少し数が減っている。

 どうやら祖父がこっそりいくつか抜き出して行ったようだ。

 量が多いこともあってか桜の分はまだまだ残っている。


「おじいちゃん……あ、そういえば…」


 これを持ってきてくれた時にレジーナがしてくれていた話をふと思い出す。

 レジーナと朱莉が初めて出会った時の思い出話。

 その中で彼女はなんと言っていただろうか。


「1月1日…朱莉ちゃんの誕生日だって…」


 あの後すぐに客が多くなり考えている余裕も無かったが、確かそんな事をレジーナが言っていた。

 それを思い出した彦乃は、すぐに行動へと移す。

 居間を飛び出してキッチンへ向かい冷蔵庫の中を確認する。


「朱莉ちゃん、何だったら喜んでくれるかなぁ… ん?」


 冷蔵庫の中にあった食材で作れるものを次々と想像していって、その中で朱莉が喜んでくれそうなものをリストアップしていく。

 献立をどうしようか考えていると、神社に誰かが入ってくる気配を二つ感じ取る。

 織姫は海外でまだ帰って来ていないし、操は田舎へ帰省中、青星姉妹の二人はコンペイトウに居るだろうし、同じ学校の生徒でもないようだ。

 と考えていると、あっと言う間に気配の正体は家の前までやってきて誰なのかすぐに分かる。


「へぇー、彦乃ちゃんの家ってこんななんだー。 ヘレンの家とはまた違った趣って感じ?」


「ウチと神社を同じにするかよお前は…あぁコラどこ触ってんだ」


 聞こえてきた声は、ヘレンとタチアナの声だった。

 子供のようにはしゃぎながら物珍しそうにしているタチアナに対し、ヘレンは子守りをしている保護者のような気分だろう。


「お?開いてるじゃーん おっじゃましまーす」


「勝手に入ってんじゃねーって あぁもう…彦乃居るかー?」


「いらっしゃーい」


 家の鍵は確かに開けていたが、そのまま入ってくるとは思わなかった。

 これはタチアナが無遠慮なだけなのか、彼女の故郷にそういった風習があるのか。


「二人とも、居間で待ってて… んーっ!」


「あいよー 手伝おうか?」


「アレ何してんのー?」


 ヘレンがキッチンを覗きこむと、彦乃は冷蔵庫に頭を突っ込んでいるようだ。

 何か探しているのか、それとも突っ込んだ頭が抜けなくなっているのか。

 ちょっとハラハラしながら様子を見ていたヘレンだったが、彦乃はすぐに冷蔵庫から離れた。

 頭を突っ込んでなにやら唸りながら苦しそうにしていたのだから、ちょっとくらい心配もする。


「ふぅ… もう大丈夫ですー」


「なんだソレ… ビン?」


 彦乃が手に持っていたのは、食材の入ったビンだった。


「料理に使おうとしたら底が凍ってくっついちゃってて…」


「あー… って事は、だ 開けてみな?」


 古い冷蔵庫だとたまにあるらしいが、そう言う物なのだろうか。

 少なくともこの家の冷蔵庫はそうなってしまっていたらしい。

 そして彦乃はヘレンに言われるがまま蓋を開けようとするが…


「…んっ! んんんんーっ! か、かったい…」


「な?」


「ねー」


 ビンが堅くて空きそうにない。

 そこであっと言う間にヘレンがそのビンを引っ手繰り、サッと開けてしまった。

 コツがあると言うが具体的な説明はしない。


「な?」


「ありがとうございます…」


「ところで何作ろうとしてたの? ハンバーグ?」


 タチアナの推理はだいたい正解。

 彦乃が作ろうとしていたのは手作りのハンバーグだった。

 挽肉を用意して、解凍し終わったらハンバーグを作って行こうとしていた所にヘレン達がやってきたという訳だ。


「よっしゃ、手伝うぞ」


「ガッテン! 彦乃ちゃーん、何すればいい?」



 こうして、三人の力を合わせて3人前のハンバーグが完成した。

 ついついヘレンとタチアナの分まで作ってしまったが、味見の出来ない彦乃にとっては助かったと言える。

 味のおかしな物を、そうと知らずにプレゼントする事ほど残酷な事もないだろうから。


「え、一つって社長さん用なの?!」


「それ先に言えよなぁ… 言っとくけどアイツ、かなり舌肥えてっからな?」


 ぐんぐんとハードルが上がって行く。

 そりゃまあ社長と言う立場なんだし良い物食べてるのは当然と言えば当然か。


「だがまぁ、そう言う事でなら私達も役に立てるな」


「あっじみやっくー!」


「おねがいします」


 彦乃の意図も理解した上で、二人は味見役を買って出てくれた。

 付け合せのサラダについては問題ない。

 ほとんど刻んで盛り付けただけのようなものだから、味見の必要もない。


「見た目はかなり美味しそうだな」


「ヨダレだらだらしてくるね」


「…ゴクリ」


 店に出してもまったく問題ないレベルで焼き上がっているハンバーグがメインだ。

 表面に付いた丁度いい焦げ目が、肉がよく焼けている事を物語っている。

 箸やナイフを突き刺してやれば肉汁が零れ出てきて香ばしい匂いが辺り一面を包み込む。

 一口を口の中に運んでやれば、舌に乗った傍からほろりと崩れて口の中で蕩けて行くようだ。


「んー!ハラショー!」


「おっ? ターニャのハラショーが出てくるなんていつ振りだろうな… かなりやるじゃねえか」


「え? えへへ…」


 二人からのお墨付きを貰えたようだ。

 味見に関してもおかしなところは無いらしい。

 これなら舌の肥えた朱莉も満足するだろうとも言ってくれた。


「後は……あぁ、タイミングか」


「タイミング?」


「社長な、今コンペイトウに居ないんだよ」


「えっ…」


 朱莉がまさかの会社に居ないと聞いて、彦乃のテンションは音を上げて下がって行く。


「なんか政府に呼び出されたとかで東京の方行ってるんだと」


「政府…?」


「なんか私達の事について報告に行くんだとか …大丈夫大丈夫、帰ってきたらまた作ってやろうぜ?」


 居ないのなら仕方ないと落ち込みつつも彦乃はキッチンの後片付けへと向かう。




「はい……そうですか」


 そして、その朱莉はと言えば移動する車の中で誰かと話していた。


「…責任重大ですね… 精々記録更新に励むとします。私だってまだまだ死ぬつもりはないですから…失礼します」


 皮肉げに笑いつつ電話を切り、空いた席に携帯を放り投げる。


「はあ~ぁ…ついに現存最年長まで来ちゃったかぁ…」


 彼女の言う現存最年長。

 それは現在生きているスターライトの中で最も長く生きている者を差す言葉であった。


「……簡単に、それも私の隣でもない、見知らぬ土地でくたばるなんて……馬鹿丸出しじゃん…笑うぞ…」


笑うぞ、という彼女だったがその頬に伝う一筋の涙が彼女の感情全てを物語っていた。

おおげさに笑ってみせて繕おうが、その事実は変わらない。


つづく

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