第八十五話 年末大掃除大作戦 燃えるゴミ編
「よっし見えるか?」
「はい! 次はミスしませんからっ!」
「よっしゃ、行ってこい!」
朱莉によって撃ち出されたヘレンと美波は、戦闘機なんて目じゃないほどの超高速で目標へと向かっていた。
ほんの少し角度がブレるだけで、落ちてくるユニットから掛け離れた方向へと飛んでいきかねないほどの距離があるはずなのだがそこは朱莉とでも言うべきだろうか。
ヘレン達の進行方向そのまま真っ直ぐで突き進む事で、頭上から落ちてきているユニットの迎撃を行う事が出来てしまうだろう。
「一撃に込める力を考えるんだ…」
最初に腕がボロボロになってしまったのは、破壊力を上げすぎてしまった事によって腕が衝撃に耐えられなかった事が原因だった。
吹っ飛んでしまっていたかもしれなかったが、腕の感覚がなくなってズタボロになるくらいで済んだのもメテオーブであるシリウスのおかげだろう。
心の中でシリウスへ感謝を言いながら、両手両腕に力を込めて行く。
「無茶な勢いはつけない…」
ヘレンに抱えられボロボロになって戻ってきた時の輝の顔が頭の中に浮かんでくる。
いつもだったら笑って茶化してくる輝だが、さっきの時は今にも泣きそうな顔で、本気で心配していた。
このまま死んでしまうんじゃないかと本気で考えていたような顔をして。
もう、あんな顔をさせたくない。
させる訳にはいかない。
姉としてとか人間としてとか以前に、最優先で心に誓い刻み付けて行く。
「はぁっ!」
ヘレンの作ったルミナスの壁を思いっきり蹴り飛ばし、今でさえ音速を超えるようなスピードで飛んでいるというのに、それ以上の加速で吹っ飛ぶ。
進行方向はヘレンが作ってくれている矢印のような形をした壁が教えてくれる。
更にはなんとか効果を生み出すとかで、本来であれば人間が生身で耐えられるような速度じゃない所を、衝撃やら重力やらを緩和してくれているんだとか。
良くは分からないが、今の美波にとっては何よりも嬉しい。
「…」
体勢を整えて渾身の一撃を放てるよう右腕を引く。
この拳は矢だ。
腕で限界まで引き絞られた一本の矢。
これ以上強引に引き絞ってしまえば弦が耐えられなくなり弓が先か弦が先か、どちらにせよ矢を放つ前に弾けて壊れてしまうだろう。
だが、今の美波はそんな愚かな事はしない。
どこまで引き絞れば最大限の力を活かし、目の前を落下していく大きなデブリのユニットを一撃で殴り潰す事が出来るのか。
その加減が完全に頭に入っていた。
「…今っ!」
空中故に踏み込みが効かない?
そんな事、美波にとっては関係なかった。
腕を振る事が出来、姿勢を保つ事が出来ていれば後は何も関係ないのだ。
「喰らいなさいっ!」
攻撃の意思を拳に一点集中させ、真っ直ぐ落ちてくるユニットへ向かって拳を突き出す。
一気に距離が詰まり、触れられるような距離まで近づいたからこそ出来る事だろう。
拳に集まったルミナスをデブリへ拳ごと叩き込み、そして一瞬時が止まったかのような感覚になる。
「…喝っ!!」
気合いの籠った掛け声と共に、拳に集まっていたルミナスを開放する。
開放されたルミナスはユニット全体へ伝わる波となってユニット全体を響き渡り、その衝撃で巨体には無数の亀裂が走りあっと言う間に砕け散っていく。
成功だ!
「や…やった…」
今度は自分の腕を壊してしまうような無茶もしていなければ、ユニットの破壊に失敗するような事にもなっていない。
完全に成功したと言える。
この段階までは。
「おぶぇ!」
いきなり目の前に現れたルミナスの壁に、おもいっきり激突してしまった。
勿論、それを出したのはヘレンである、というかヘレン以外にルミナスの壁を作れる者などいないのだから。
「何やってんだ美波! さっさと戻るぞ!」
「は、はひぃ…」
激突した、とは言っても強固な壁に阻まれた訳ではない。
むしろその逆だった。
柔らかなその壁は勢いを吸収して引き絞られていく。
トランポリンのようなものだとイメージしてもらえると分かり易いかもしれない。
「さぁて、今度は何回の軌道修正で帰れっかな…喋んなよ?舌噛むぞ」
「っ!」
先程の美波の拳と同様に、この壁は引き絞られた弦そのものだ。
ヘレンもそこへ乗り準備は完了。
それとほぼ同時に二人を飛んできた方向へそのまま跳ね返し吹っ飛ばした。
あとはこのまま、朱莉たちの待つ場所へ帰りもう一度かっ飛ぶのである。
これが、今まで繰り返してきた破壊工作の全てだ。
「今度はうまく出来たみてーだな。よくやったじゃねーか」
「はいっ!」
帰還の体勢を整え、すぐにでも朱莉たちの下へ戻る。
そうしてまた全然別の方向へ撃ち出されていくのだ。
=====
一方その頃、朱莉たちはと言えば…
「ほ、ホントに大丈夫なのっ?!」
「大丈夫大丈夫ー、あ、200%以上はダメだからね? アルタイルが先に吹っ飛ぶから」
「ひえぇぇ!」
上空の早期警戒を行っていた彦乃は朱莉たちと同じ足場へと降り、槍を天に向けて構えていた。
穂先が展開し切先にルミナスがどんどん集中いていく。
砲撃モードで撃ち抜く対象は決まっている。
自分たちのはるか上空に現れたデブリのユニットたちだ。
「私達も支えてるから、彦乃ちゃんなら大丈夫だよ!」
「そんな無茶なー」
「ほらほら、はやく狙い定めないと落ちてくるってー」
朱莉たちに応援なのか急かされてなのか分からないような流れに流されつつも彦乃は砲撃へと集中する。
「大丈夫だよ彦乃ちゃん、ゆっくり息を吸って?」
「う、うん…すー…」
こと砲撃においてはライフルを扱っている織姫の方がよく理解している。
彼女のアドバイスならば彦乃も安心して従って行ける、そんな気がした。
根拠なんて何も無い。
もしかすると朱莉の方が腕が良かったりするかもしれないが、今は織姫がアドバイスしてくれている。
「そのまま吐いて」
「はー…」
「後は狙うだけだよ」
「分かった ありがとう、織姫ちゃん」
視線の遥か先、星々の輝きに紛れているような距離にいるデブリを彦乃は決して見逃さなかった。
狙いが合っているかどうかはスコープなんて必要もなく自分の勘で分かる。
距離が離れすぎているからか、指に力を込めるだけで狙いがかなりズレてしまいそうだ。
だけど、外す訳にはいかない。
望むのは命中、それも三体全部を同時抜きだ。
一つだけなんて物足りない、もっと強欲に、もっと貪欲に敵を撃ち貫くんだという願いが心の内側から溢れ出してくる。
「…光ちゃんもありがとう」
光が心の内側から応援してくれている。
それは内側でも外側でも同じ事が言えた。
彦乃の装甲がスライドして大量のルミナスが零れるようになったからだ。
零れ落ちていくルミナスは身体から流れ落ちて行くそばから槍の穂先へと集められていく。
「…あれ?」
「…? 織姫ちゃんどうしたの?」
「う、ううん、なんでもないよ。 しっかり狙いは定めた?」
織姫が感じた違和感。
それは、彦乃の身体についてだった。
彦乃のルミナスは赤色に輝く。
それ以上に何か気にするような事は今まで一度も無かった。
けれどふと脳裏をある考えが過ぎったのだ。
ルミナスが、まるで彦乃自身の血のように身体を伝い流れ落ちているように見えた事を。
「…うん、大丈夫 撃つよ?」
「いっちゃえー!」
「…」
彦乃を支え、二人で発射時の反動を抑える。
時折襲い掛かってくる鳥のデブリには織姫が腰のリボンをサブアームのように操ってライフルを撃ち迎撃。
それに対する有利性を朱莉が弄り、デブリの速度を遅らせつつ織姫の射撃精度の向上を図る。
「迅速に、鋭利に、確実に……今だっ! スターダスト…プレイヤぁーー!!」
重なったり離れたりを繰り返しつつこちらへ向かってくるユニットが、三つとも完全に重なるタイミングを見極めた彦乃は牛頭のトリガーを弾いた。
集められ圧縮し続けていたルミナスの全てがエネルギーを撃ちだし破壊力そのものとなって飛来するデブリへ向かう。
それが命中したかどうかはすぐに分かる。
「……やったぁ!」
「ひゅー! 見事な三枚抜き!」
デブリの反応が、全て消えたのを感じ取ったのだ。
それと同じく、朱莉はどうやら撃ち抜いたのが見えていたらしい。
「彦乃ちゃん、身体は大丈夫?」
「うん、なんともないよ。 二人のおかげだね!」
嬉しそうに抱きついてくるのは織姫にとってとても嬉しい事だ。
けれど、今の織姫にはあまり喜んでいるような余裕が無かった。
さっきの見間違いの事もあるし、何より彦乃は味覚を失ってしまう程に身体を酷使しているのだから、あまり無理はさせたくない。
織姫はそう考えていた。
だからこそ、彦乃の周りを飛ぶ鳥のデブリは徹底的に撃ち落としていたのだから。
彦乃の邪魔になるものは何もかもを撃ち落とす。
それくらいの気概で彦乃を守っていた。
「…」
「どうしたの、織姫ちゃん?」
「ふぇ? 大丈夫、大丈夫だよ? 彦乃ちゃんこそどうしたの?」
「私は織姫ちゃんが…っ!?」
織姫の問いに応えようとした彦乃だったが、その言葉は途中で止まる。
理由は簡単。
また新しいデブリの反応を捉えたからだ。
「どんどん増えてる…ここばっかり狙って来てる!」
「やっこさんここが司令部だって嗅ぎ付けたね…まぁ好都合だけどっ!」
「彦乃ちゃん、数は?」
「4つ…いや、5つ!」
と言っている間に6つに増えて、7つに増えたかと思ったらまだまだ増える。
流石にあれら全てを一度に撃ち抜くのは無理があった。
角度が違い過ぎる。
ユニットAとユニットB、そしてこの場所とを横から見て線で結ぶと三角形が出来てしまいそうな程にデブリ同士の距離が開いていた。
さっきみたいに三連星な並び方をしていたらどんなに楽だった事か。
「ふぅ…なんやヤバいみたいやな?」
「操ちゃん!」
「今帰ったぜ。 次はどこ行けばいい?」
「ヘレンさんと美波ちゃんも!」
デブリが総攻撃にかかったのと同じく、こちらも勢揃いと相成った。
彦乃一人だったら絶対に無理だっただろう。
だけどここには織姫や朱莉、美波と輝にヘレンと操もいる。
これだけのメンバーが揃っていれば怖いものなんてなにもない。
「ここに集中攻撃来るから、死ぬ気で迎撃だよ」
「了解」
こうして、年末大掃除大作戦はクライマックスへと向かう。
足元にある小さな町並みが、新年を祝ってなのかチカチカと明滅していたが今はそんな事を祝っている場合ではなかった。
続く




