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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二部:年跨ぎスターライト半月戦争
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第六十話 対ルミナス制御戦[後編]

「…よっし、ここらへんかな…」


『準備は出来たかしら?』


 レジーナをスタート地点として100m程離れた場所に到着した彦乃は耳に取り付けた通信機を弄ってレジーナへ到着した事を伝えようとしていた。

 だがレジーナもそれを分かっていたらしく、丁度良いタイミングで彦乃の通信機へレジーナの声が届く。


「あ、はい。これくらいで行こうかなって」


『どれどれ…わお、丁度100.0m! 彦乃ちゃんのレーダー精度今日もビンビンじゃーん』


『彦乃、すごい?』


『すごいすごい!』


 館内スピーカーのスイッチを入れっぱなしにしているからか、別室でモニターしている朱莉たちの声がずっとダダ漏れになっている。

 場の空気が和むと言えば和むのだが、必要以上に力が抜けてしまいそうでもあった。


「はぁ……ジャッジ?準備は出来ているのだけれど?」


「…んー、そんじゃま私も…ベテルギウス!」


「っ?! ど、どこから出てくるのよっ!?」


 別室に居る朱莉の元へ戻っていると思っていたヘレンが、レジーナの立っている場所のすぐ近くからすっと出て来たかと思えば一瞬でスターライトへと変身した。


「すまんすまん。 彦乃、ルール一つ追加だ。私が二人の戦闘の観測を頼まれた」


『わかりましたー。サッカーとかの審判ってフィールドに居ますもんね』


「なるほど、そういう事…防御の堅い貴女なら誤射しても守れると」


 ヘレンはあくまで審判役で、そこへカメラマン役も追加されたようなものだ。

 館内とは言え、物陰に隠れてしまっていては館内に設置されたカメラでは追いきれない事もある。

 そういう場所ではヘレンが二人の戦闘を見守る必要が出てくる訳で。


「そんじゃ、私の準備も出来た所で開始と行くか…雲類鷲彦乃VSレジーナ・ハストラング…対人模擬戦闘……開始ィ!」


 ヘレンの合図により、模擬戦が開始された。

 その合図と共にレジーナは杖を構え本を開く。

 これが彼女の基本的なスタイルである。


「…それにしても、すごいルミナスの量ね…」


「だよなぁ…シューティングスターモードの時みたいに撒き散らしてるんだよなぁ」


「何ですって? 常時全力って事かしらね…属性判明、炎ね。 ならこちらは…」


 彦乃の撒き散らすルミナスの残滓を視覚化し、それらを吸い上げるように掻き集めていく。

 レジーナの杖には掻き集めていく毎に肥大化していく輝きの塊が精製されていった。

 本物の魔法を使う魔法使いが如き構えは彼女ならではと言えるかもしれない。


「属性変換…精製完了、シュート!」


 彦乃の居るであろう方向へ杖の切先を向け、後は宣言するだけで輝きの塊は爆ぜて中から大量の氷柱が弾丸となって射出されていった。

 大きさ的には2Lのペットボトルより大きいくらいの大きさではあるが、先端の鋭さを見るに殺傷力は十分に高いだろう。

 もしもまともに命中してしまっていたら怪我どころの騒ぎではなくなってしまうだろう鋭さを持っている。


「うえぇ…えげつねぇ…」


「…? こんなのまだまだ挨拶代わりでしかなくてよ? 挨拶した相手に握手を求めるよう手を差し伸べているだけ」


 そんな物騒な挨拶があってたまるかと。


「さって、どうやって攻めようかなぁ…」


 一方の彦乃はと言えば、建物の陰に隠れつつレジーナの様子を伺っていた。

 流石にすぐ横を大きな氷柱が飛んで行った時は肝を冷やしたが、逆に戦闘に対する意識が一気に高まったとも言える。

 さっきまで聞こえていた館内放送のガヤも朱莉が気付いたのかスイッチを切っているようだ。

 これならば戦闘にも集中できる。


「あれだけ撃ってくるとなると、正面から突っ込むのはダメだよね…」


 今もたまに、建物を壊すように氷柱が打ち出されている音と建物が壊されていく音が絶えず鳴り響き続けている。

 発射してから次弾の装填までのクールタイムの短さからして相手のエネルギー切れの隙を突いての突撃はきっと失敗してしまう。

 正面切っての突撃を封じられた彦乃からしてみれば、得意な戦法を封じられるのは苦しい。


「なら、速度に物を言わせて攻撃を避けながら…」


 と考えても、すぐに迎撃されて撃ち落とされるのがオチだと直感で分かる。


「……やってみようかな…」


 彦乃の思いついた策とは一体?



「……出てこない…?」


「あれだけ撃ってたら怪我でもしてそうだが…社長、シグナルどうなってる?」


『はいはーい…おー、なるほどねー。 大丈夫、ピンピンしてるよー』


 朱莉からの返事にホッとすると同時にレジーナへそれを告げる。

 連射した氷柱で怪我でもしていたら模擬戦どころじゃなくなってしまう。

 だがレジーナの受け取り方は少々違っていた。


「なるほど、もっと撃っても大丈夫そうと言う事ね?」


「いやいやいや、そういう話してるんじゃねーよ!?」


 以外と脳筋思考だったようだ。

 それもどこか嬉しそうな表情をしているあたり、戦いを楽しんでいるようにも見える。

 もしかすると彦乃が今相手にしているのは恐ろしい程の戦闘狂なのかもしれない。


「いつもより漂うルミナスの質も量も良いんだから、撃ちたいだけ撃たせてよね」


「…とか言ってるぞ、社長ー?」


『んー、まあいいんじゃない?』


 そんな軽いノリでOKしてしまったからだろうか、レジーナは次々と光の塊を発生させては氷柱を打ち出していく。

 マシンガンもかくやというその連射速度で以て広範囲を次々と粉砕していく中で、レジーナはついに彦乃を捕捉するに至った。

 壊した建物の陰に隠れていたらしく、巣を追われた獣のように飛び出してきた。


「見つけた…属性変更、氷から」


「今だっ!」


 彦乃を見つけ、攻撃手段の変更を行おうとしていたレジーナの隙を彦乃は見逃さなかった。

 一瞬で牛頭を構え直し、槍投げをするような持ち方へ切り替える。

 そして槍の持ち方を変えた反動で体制を整えるとそのまま身体全体をバネのようにしならせて牛頭をレジーナ目掛けて思いっきり放り投げた。


「甘いわね、もう切り替えは終わっているの。喰らいなさい、雷鳴の一撃を!」


「ライトニングシフト!」


 光の塊から撃ち出された雷は、確かに彦乃を捕えていた。

 射線を遮る物も、避雷針となって狙いがズレるような物も存在していなかった。

 しかし、その一撃は彦乃ではなくその背後の天井へ命中し火花を散らして霧散する。

 では彦乃がどこへ行ったかと言えば。


「やぁぁっ!」


「っ?!」


 寸前に投げた筈の牛頭と共にレジーナへ突っ込んでいた。

 瞬間移動を思わせるような行動の素早さに、レジーナは一瞬だけ動きを止めてしまう。

 勢いをそのままに牛頭を突きつけ切先がレジーナの首にかかる南京錠を破壊した。

 少し掠るだけで壊れるように細工がされていたらしく、あっという間に壊れていく。

 丁度、周囲の建物の瓦礫と同じように砕けるとすぐ砂のような物へと変わって行った。



「っ……やるじゃない」


「やるじゃねえか…勝者、雲類鷲彦乃!」


「…ぃやったぁぁぁ!!」


 一瞬の差が勝負を文字通り決めてしまった。

 互いの手の内を知らなかったとは言え、先手を取ることが出来た彦乃の勝利である。

 逆に言ってしまえば一瞬タイミングがズレてしまうだけで負けていたかもしれないという危険もあった訳だが、彦乃がそれら全てを理解しているかと言えば難しい所だ。


「ふはぁぁ…勝てた…っ!」


「っと…私に勝つなんてね。凄い事よ、胸を張って誇りなさい?」


 緊張の糸が一気に解れた彦乃は、その場で倒れそうになる。

 だがレジーナが彦乃の身体を受け止めた事で彦乃は倒れる事無くレジーナの腕の中へ納まった。


「レジーナさん…」


「レナ…私の愛称よ。そう呼ぶ事を許してあげる」


『へぇ珍しい。レナが誰かに愛称で呼んでほしいなんて』


 通信でいきなり割り込んできた朱莉に一瞬だけレジーナが嫌そうな顔をしたが本人がその場に居ないのだからどうする事も出来ないと諦めると彦乃を立たせる。

 後ろから桜が何か言っているのが聞こえてくるがレジーナは毛ほども気に留めてなどいない訳で。

 そちらに反応しているのはむしろ彦乃の方だ。


『…あ、そうだ。 もうひとつ実験したい事あるから二人ともそのままで居て?』


「実験…?」


 朱莉の指示があった後、次々と建物が風化するように崩れていく。

 まるで砂漠に呑まれた都市を見ているような気分になるが、その後に残ったのは数百メートルに及ぶ平坦な地面だった。

 こちらが本来の訓練場であるのだが、どうにも殺風景過ぎる気もする。

 あるのははるか向こうにある出入り口や一画に備えられた観戦室、それと観測用のドローンが数機飛んでいる程度なのだから。


「アカリ、どういう実験か説明して貰える?」


『ほいほーい。 ちょっと待っててねー』


 朱莉がディスプレイをちょちょいと弄ると、建物を形作って行った時のように砂が集まって行きあるものを形作っていく。

 それは、彦乃たちは何度も対峙した事のある、サソリ型のデブリの親機の方だった。


「デブリっ?!」


「安心しろって。ただのハリボテだ」


 確かに、見れば普通のデブリに比べずっと色が鈍くコンクリートか何かで作ったようなゴテゴテした形になっている。


『実験内容は、その仮標的にレナの最大火力をぶつける事。その為に彦乃ちゃんは出来得る限りのルミナスをレナへ貸してあげて』


「社長、私は何すりゃいいんだ?」


『ヘレンは……うん、彦乃ちゃん見ておいて?』


 見ておいて、の一言で何をさせたいのかを察したヘレンはへいへいと生返事を返して実験の方へ備える。

 朱莉からの指示は、要するに彦乃が無茶をしそうだった時に抑止力となって欲しいという事だ。

 そのまま何も起こらないのが最善ではあるが、万が一に備えてヘレンも変身した姿のままで実験を見届ける事となった。


「それじゃ行こうかしら。最大火力と言っていた事だし、持って行けるだけ持って行くわ」


「はいっ!」


 レジーナの合図で、彦乃はルミナスの生成と放出を繰り返し行っていく。

 普通ならばそのルミナスが身体を覆うようになっていくのだが、今回そのルミナスは彦乃に纏わりつく事はなくレジーナの持つ杖の切先へと集まって行く。


「いい。すごく良いわ」


「そ、そうなんですか…?」


 とても嬉しそうに彦乃のルミナスを掻き集めるレジーナに、彦乃はどこか織姫と同じような何かを感じ取っていた。

 本質的には違うのだろうが、どこか似た何かを感じ取ったのだろう。


「全力で行くわ! 破滅の光よ!」


 全力まで溜めこんだ光の塊を標的へ向けたレジーナは、そのまま力の全てを解き放つ。

 人間など簡単に呑み込んでしまえそうな程の大きな光の帯が飛んでいき、デブリを簡単に呑み込み尽くして破壊していく。

 どこからどう見てもビーム兵器か何かのソレである。


「……す、すっごぉぉい!」


そんな光景を見せられて、彦乃の感情が湧き立たない方がおかしかった。


つづく

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