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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第二章 七夕怪奇譚
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第二十四話 本来の姿 後編

 セレスの案内により、彦乃たちは研究所へと通された。

 エレベーターで地下へ降り、誰も居ない廊下を歩いている時は秘密基地を彷彿とさせる様式に彦乃は心躍らせていた。

 まぁその隣で美波はため息を吐きながら付いてきていたが。

 暫くは案内に付き従っていたのだが、待機室に到着するなり彦乃だけがセレスに呼び出され部屋から出ていく。


「うぅ……彦乃ちゃんが心配で…」


「保護者かっ?!」


「だってぇ…」


 いつもなら余裕を振り撒きながら彦乃の様子を眺めて悦に浸っている織姫だったが、彦乃が居なくなってからは明らかに挙動不審となっている。

 部屋の周りをキョロキョロと見回したり、彦乃がどんな姿になるかを妄想したり。

 彦乃を心配する織姫の気持ちなど分かる筈もなく、一方の彦乃はと言うと…


「こちらが新たなアルタイルです」


「おーっ!輪っかが二つになってる!」


 細身のリングが二つに増え、それが交差する場所にアルタイルの本体である水晶体が配置されていた。

 大きさも、元々彦乃が身に着けていたサイズとなんら変更はなく、着け心地もそこまで気にならないだろう。


「では、隣の訓練場にてスペック調査をしますので、メテオーブを身に着けて部屋の方へどうぞ」


「あ、はい!」


 指し示された先にあった扉の方へ、彦乃は二つ返事で向かっていく。

 扉を開けると、そこは以前にも来た訓練場だった。

 一面がコンクリート張りの壁で覆われていて、天井に吊るされた証明が無ければ真っ暗で何も見えなくなってしまいそうな広々とした空間だ。

 彦乃が辺りを見回していると、どこかに設置されているのであろうスピーカーからセレスの声が聞こえてきた。


『それでは彦乃さん、これよりテストを開始します。あ、それと貴方の様子は待機室のお二人にもバッチリモニターされていますよ』


「えっ? おーい、織姫ちゃんに美波ちゃん、見てるー?」


 どこにカメラがあるかも分かっていないと言うのに、彦乃は適当なアタリを付けてそこへ向けて手を振る。

 狙ったのか偶然か、それは彦乃が真正面から見える位置となっていて、しっかりと待機室にモニターされていた。

 心底ホッとしている織姫の姿が目に浮かぶ。


「よっし……行くよ、アルタイル!」


 左手首に着けられたアルタイルに触れ、彦乃が光に包まれる。

 今までとは違い、もっとしっかりとした光が、彦乃を包んでいく。

 今回纏う衣装が本体だとすれば、今までに来ていたのがインナーだけだったようにすら感じる。


「……温かい…」


 彦乃を包む光が、徐々に熱を帯びていくのを彦乃はしっかりと感じ取っていた。

 それは自分の身を焦がすような熱さではなく、春の温かい日差しのような、優しい物だ。

 彦乃の全身を覆う熱は、やがて一斉に爆ぜて彦乃の装備を形作る。


「…はぁぁっ!!」


 目の前を包む炎の幕を払い、彦乃の姿が変わっていく。

 炎を振り払った両腕には、武者甲冑に見られる篭手が真っ赤に燃える緋色となって彦乃の腕を包み込む。

 彦乃の髪に掛かった火の粉は髪留めへと姿を変えて装着される。

 そして、彦乃の身を包む光が爆ぜて巫女服を作り出した。

 近年のアニメやマンガなんかで見かけるような巫女チックな衣装ではなく、それよりもっと本来の巫女服に近い白衣に緋袴、千早といった正装に近い。


「ん? …よっと!」


 更にその上から、白いジャケットが表れ身に着く。

 武者鎧の合わせ構造のようなそれは、余りに薄くそれが防具だとは思えない。

 鉄板をくっつけただけのような、申し訳程度の防御性だろう。


「こっちもっ!」


 次に、彦乃の腰を覆うようにしてベルトが巻かれる。

 そのベルトの両脇からは光が伸び、爆ぜると以前の物と同じく腰に付いていたバーニアが姿を現す。

 相変わらず近未来的なフォルムはそのままに、デザインが少し流線型に変わっていた。


「仕上げに!」


 彦乃の髪が、赤黒い色から鮮やかな赤色へと変わる。

 瞳の色も真っ赤に燃え盛る炎のような色となり、元からサイドテールを作っていたのが更に伸びて派手に動き回ると絡まってしまいそうな程となる。

 くして、彦乃の一連の変身動作が終わり、彦乃は光の繭を突き破って姿を現す。


「よっと…あれ? 前とそんなに変わってない?」


『あくまでベースは以前の物なので、そこまで過度な変更はしていません。さて、彦乃さんにはこれから一つの仕事をして貰います』


「仕事?」


『それらの装具への名づけです』


 装具と呼ばれた装備一式を見て確認していた彦乃にもたらされた最初の仕事は、装具たちに名前を付けると言う物だった。

 装具とは即ち、自分の身を預け共に戦う仲間。

 それは即ち、装具にもそれぞれ名前を持つという事。

 名前が無くても運用は可能だが、性能が著しく低下する。

 と、セレスは簡潔に説明してくれた。


「ええと…アルタイルじゃダメなんですか?」


『アルタイルはメテオーブの名ですから。他の物でお願いします』


「うぅん……あ、こっちも出しとかないと!」


 彦乃が前へ手を突き出し、槍を呼び出す。

 一瞬で姿を現したそれはやはり以前の姿から進化していた。

 穂先はより大きく、より鋭くなっており、備えられている推進器も2つだったのが4つに増えている。

 デザインも、近代的な部分はそのままに炎の意匠が組み込まれており、炎を効率よく扱えるような形となっているのだろう。

 重さもたいして変わっていないようで、とても手に馴染む。


「そういえば、この前調べてた妖怪……ええと、なんだっけ」


 それは、彦乃が高校へ入ってすぐくらいの頃、神社の蔵を掃除していた時の話。

 本の山を移動させようとした時に、彦乃の頭に落ちてきた一冊の本があったのだ。

 内容としては、日本に伝わる地獄についての記述が詳しく書かれた本であり、どうも祖父の家族の趣味だったらしい。

 その一ページに彦乃は興味を持って読んでいたのだが、それが何だったのか思い出せないでいた。


『オーディエンスに聞いてみましょうか』


 頭を悩ませていた彦乃のすぐ近くの壁が、一部だけ割れてスライドして中から電話が出てきた。

 もしかしてこの周囲にいくつもこんな仕掛けがあるのかとワクワクしながらも、彦乃はセレスの指示に従ってボタンを押して行き、待機室へと繋がった。


「あ、もしもし織姫ちゃん?」


『見てたし聞いてたよ。それは牛頭と馬頭だよ彦乃ちゃん』


「あ、そうだっ! ありがとう、思い出せたよ!」


 これだけのやりとりで、互いに通話を終えてしまった。

 二人の会話の短さに色々と驚きが隠せない美波はいてもたっても居られず織姫に問い質す。

 きっと輝が居れば、事が終わった後でチクチクと弄ってくる事だろう。


「ちょっと?! いくらなんでも短すぎないっ?!」


「大丈夫、彦乃ちゃんならちゃんと分かって…」


 彦乃への絶対の信頼を向けていた織姫だったが、親指を立てようとしていた握りこぶしは思った通りの形にはなってくれなかった。

 直前で、目の前の電話が鳴り響いたのだ。

 まさかと思ってモニターの方へ目をやると、槍を持ったままモジモジと申し訳なさそうにどこかへ電話を掛けている彦乃の姿が見える。

 帯のように垂れ下がっている布が、まるで尻尾のようにユラユラと揺れていた。


「……出てあげなさいよ」


「……うん…」


 五月蠅いくらいに鳴り続ける受話器を取って、織姫が電話に出る。

 嬉しそうな声を上げながら、彦乃が応答した。

 それと同時にモニターの方を見ていると、飛び跳ねる程嬉しかったらしくピョンピョンと飛び跳ねていたのが見えた。

 相当困っているのだろうか。


『あ、よかった! 織姫ちゃん、どっちが牛頭でどっちが馬頭の方が良いかな?』


「……どっちかなぁ」


 そんな「今日の夕飯、カレーがいいかな?それとも肉じゃが?」みたいなノリで聞かれても、織姫は困惑してしまって答えを出せない。

 だが、織姫ではなく美波はすぐ行動に出た。

 織姫の持っていた受話器を奪って通話を代わる。


「いい、雲類鷲さん? この場合の名付けは、ペットに名前をあげるのとは訳が違うの。武装を思いながら考えてみて? 結果は必ず見える筈だから! それじゃ!」


『あ、あれ? 美波ちゃん?! もしもーし!』


 彦乃がいくら受話器に叫んでも、美波の声は返っては来ない。

 まぁ、モニターで一方的に見られてはいるが。

 受話器を置いた彦乃は、改めて槍と腰のユニットに目をやる。

 何かを語り掛けてくるような訳ではないが、何かを言いたそうにしているように彦乃は感じる事が出来た。


「うぅん………牛頭が牛で馬頭が馬だったよね確か……それなら…」


 考え込む彦乃だったが、不意に頭の中にイメージが流れ込んでくる。

 どちらが良いかという希望のようにも見えるが、とりあえず彦乃の意志ではない。

 となると、アルタイル側がそう言っているようにも思える。


「……うん、そっか。こっちが牛頭で…」


 槍を示すと、柄の手持ち部分から少し上の部分に炎が灯り、小さく「牛頭」の字を焼き刻む。

 名前を付けて貰った事が喜ばしいのか、それとも意思表示なのか、はたまた彦乃の誤操作なのか、槍は彦乃が飛ばない程度に火を噴いて答える。


「こっちが馬頭!」


 腰のユニットを撫でてやると、撫でた箇所に炎が灯り「馬頭」の字を焼き刻む。

 反対側にも同じような場所に字が刻まれ、動作を確認するように動き、小さく火を噴く。

 どっちも喜んでいるのだろうと思うと微笑ましいものだ。


『衣装…まぁ仮称ですが使って行きますか。「鎧閃」の名前は決まっています』


「凱旋?」


 普通ならば、彦乃の言う「凱旋」の方が一般にも浸透した言葉だろう。

 それにセレスは前置きで「仮称ですが」と言い加えている。

 要は作った言葉なのだろう。

 それに関してもすぐに説明がなされた。

 スターライトとなった際、身を守る防具として展開される衣装を「鎧閃」と呼ぶらしい。

 これまでは特に呼ばれる事は無かったものの、武装を名づける一環で防具にも名前を付けた所防御力の向上が見られたと言う研究結果が判明した為にほぼ義務化する事と相成った。

 総称すら不透明だったが、少なくともセレスやコンペイトウ内部では「鎧閃」と呼ぶのが一般的になりそうだ。


「へぇ、こっちにも名前が…」


『はい。牛頭馬頭と聞いてちょっと違うかなとも思いましたが、ここはゴリ押しで行きましょう』


「なんですかそれ…」


『ともあれ、その鎧閃の名前は【壱式神衣・禍斗】とします。宜しいですか?』


「禍斗…?はい、分かりました」


 彦乃が了承したのとほぼ同時に、胸部の、ほぼ心臓の位置であろう場所にデカデカと斜めに「禍斗」の文字が刻まれた。

 ちょっとバランスが悪いとアルタイルが思ったのか、反対側の位置には「壱」の字が刻まれる。

 若干小さめの文字で。


「おぉっ?! なんかカッコイイ!」


 達筆な漢字で刻まれている事もあってか、彦乃は文字を見ているだけでテンションが上がっていた。

 だが彦乃のテンションなど気にもしていないように、セレスは次の指示を出す。

 その指示と言うのが…


『それでは次に、試運転を兼ねた模擬戦闘訓練を開始したいと思います』


「戦闘訓練?!」


『それでは、デルタ隊各員、どうぞ』


 セレスの声と共に、壁の一部がスライドして扉が開く。

 彦乃が出てきたのとは別の扉だったが、どうやら織姫たちがいた待機室へ続いているらしい。

 それらを彦乃は、感覚だけでなく嗅覚やイメージでそうだと確信していた。

 一緒に通路の奥から走ってくる二人と、その二人を追いかけるように歩いてくる一人の気配も感じ取る。

 ただ、走ってくる気配がやけに焦っているようにも思えるのだ。

 まるで、何かから逃げているかのような。


「…? 美波ちゃん、怯えてる…? あと引っ張って来てる織姫ちゃんは…あ、ローラーシューズでも履いてるのかな、全然疲れてなさそう。それともう一人は…」


「馬鹿っ! 逃げn…彦乃っ!」


「彦乃ちゃん、逃げてぇっ!!」


 二人の声が彦乃に届いたのと、美波たちを追い抜いた影が彦乃に襲い掛かるのはほぼ同時だった。

 美波たちが助けようにも間に合う事は無く、彦乃は突き飛ばされるような衝撃と共にいきなり吹き飛ばされる。

 何事かと思っていた彦乃は、目の前に誰かの顔があると気付くのにいくらか時間を要した。


「…ふーん、アンタがあのデルタ隊のニューリーダーねぇ…」


「あぅ…」


 彦乃を片手で捻じ伏せた人物の正体とは一体…


つづく

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