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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第一章 序章
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第十九話 周防先生のスターライト教室

「……ん……んんぅ…」


 ふかふかの感触に身体中が包まれながら、彦乃はゆっくりと目を覚ました。

 自室にあるベッドでは到底不可能な程の柔らかさを持った羽毛布団に包まれて、出来る事ならもう一度眠っていてもいいくらいだ。

 だが彦乃はそんな怠け者ではない。


(…あれ……おりひめちゃん…みさおちゃんもいる…)


 ゆっくりと瞼を開けると、織姫と操が居るのが分かった。

 だが頑張って起きようとはするものの、身体に全く力が入らない。

 気怠さと無気力感が綯い交ぜになったような、酷い脱力状態で口もロクに動かせていなかった。

 身動ぎしていたのにしたって、身体が無意識に動こうとしたというだけなのだろう。

 まぁ実際の所、まるで人形のようにピクリとも動けていないのが現状である。


「…それじゃあ、お勉強の時間でーす。彦乃ちゃんも起きたみたいだから丁度良いよね」


「彦乃ちゃんがっ?!」


「はーいそこ、脊髄反射しなーい!」


 朱莉の声も聞こえては来るがちょっと離れた位置にいるのか、姿が見えない。

 そしてここまで来て彦乃は自分がどこにいるのかを理解した。

 嗅ぎ慣れた、仄かに甘い香りが鼻をくすぐって心を落ち着かせる。

 織姫とくっつく度に漂って来ていた、女の子特有の甘く心地よい香りが、今彦乃を包み込んでいる。

 そう、彦乃が眠っていたのは織姫の布団だったのだ。

 

「えっとまずはぁ……スターライトについて。操さん、知ってる事をありのままでどうぞ」


「刑事ドラマの取り調べかなんかと混ざっとらんか…? …えぇと、スターライト言うたらウチらがデネブらの力で変身した時の姿やんな?」


「はーい正解。ちなみに豆知識だけど、スターライトにはこの子たちに対応したランクがあるんだけど、三人はなんと皆がA級、つまりは上級って事なんだよ」


「ベガたちが?」


 教卓がわりになっていた長テーブルの上には、アルタイル、ベガ、デネブ、サンの4つが並べられていた。

 仄かに光が明滅しあって、まるで会話でもしているようにも見える。

 もしかして本当にお喋りしているんじゃなかろうか。


「この子たちはメテオーブって呼ばれてて…って、この辺は雪菜に聞いてるかな?」


「えっ…?………いや、聞いてないですね…」


「よろしい、雪菜へのおしおきがまた一件追加されたよっと…ふっふっふ……どうしてやろうか…」


 どんな悪戯をしてやろうかと考えている朱莉の顔は、きっと怪しいを通り越して犯罪者の眼をしていた事だろう。

 すぐに戻ってくれたが、にやりと笑う口が異様に釣り上がっていたような気がする。

 悪魔を想像するとそれくらい笑っているんじゃないだろうか。


「さって…じゃあそこからだねー……通常の兵器がその機能と効果を著しく低下させるEF内において、その効果、威力を減退させる事無く運用できる武装を持ったアイテム。それがメテオーブなのよ」


「あぁ、そういや転がっとったピストル撃ったらエアガンか思うたな、あん時」


「多分実銃でしょうね。エアガンならエアガンだろうけど、本物もそんなくらいに衰えるのよ、威力が」


 と、説明しつつ銃を撃つような動きを真似する。

 パッと見煽っているようにも見えるが、これでも真剣に授業をしているのだ。


「メテオーブに関しては謎の部分が多いから端折るけど、それらの力を引き出して戦えるだけの素質を持っているのが私達スターライトって訳。」


 ベッドにいる彦乃を含めた全員を、指差して話す朱莉。

 そこへ一人が手を上げて質問を投げかける。

 操だ。


「せやったら、彦乃のあれはなんやったんです?デネブは「暴走」とか言うとりましたけど」


「あながち間違いじゃないかなー。あのまま暴走続けてたら、EF全体巻き込んで自爆してたよ、彦乃ちゃんは」


「……えっ?!」


 いきなり突き付けられた答えに、織姫は言葉を失う。

 それほどの危険が、スターライトには付き纏うというのか。

 というよりもそんな危険な状態に彦乃が居たのだと理解して声も出なくなる。


「あれは、ビッグバンモードって言う…まぁ自爆用のやつだね。それをいつでも起爆できるようにした状態が、あの火柱って所かな」


「自爆用て……なんでそんなもんが…」


「そりゃ、最後の切り札としてメテオーブが用意した…んだろうね」


「…それも不確定要素のひとつなんですね…」


 彦乃に視線を向けながら、織姫はいかにあの時の彦乃が危険だったのかを思い出して心配になる。

 激しく燃え盛る炎に身を包まれて、その苦しみは想像を遥かに超えていただろう。

 それを耐えきった彦乃は、今もこうして満身創痍ながらも確かに生きている。

 織姫にとってはそれだけで何よりも喜ばしい事だった。


「次は…っと、シューテイングスターモードとその危険性について説明しとこうかな」


「シューティングスターモード?」


「今回の戦闘で姿が変わっていたのがそのモードという訳ですね…それで、危険性というのは?」


 上級生である操よりも、織姫の方が理解するのは早かった。

 まぁだからどうしたと言うわけでも無いのだが。。


「それじゃあ……みんな、シューティングスター…流れ星の仕組みってどんなのかは知ってるかな?」


「それってアレやろ?宇宙のチリとかが大気圏に入って来て摩擦熱で燃え…っ?!」


「実際は塵のプラズマ化により発生したガスが発光するんですが…あまり変わらないですね」


「まあそういう事。で、操ちゃんは何か気付いたようねー。はいどうぞ」


 俯いて急に黙り込んだ操へ、朱莉は紙とペンを差し出した。

 脇から織姫が「お気に入りのペンが…」とかぼやいてるが気にしない。


「…やから…」


「…ん?」


「せやからあんな時間がどうのとか言うとったんですかっ?! 早く終わらせな燃え尽きるて…」


「あぁ、違うよ?」


 興奮気味な操を、朱莉は煽るように肩を叩いて言葉を遮る。


「前のデルタ隊は前にも言ったかもしれないけど、ただの練度不足。みんな場馴れしてなかっただけだよ。だから死んだ。シューティングスターモードは関係ないよ」


「んな…」


「さて、次。シューティングスターモード…もう長いしSSモードって略すね。これはいわばリミッターを外した状態であり、身体には負荷が掛かる。彦乃ちゃんは特にそれが顕著だったね」


「あの頭が痛くなるやつですね」


 彦乃が変身した直後、頭を抱えて激痛に悶え苦しんでいたあの状態の事だ。

 しかし、朱莉はこれにも「違うよ」と返す。


「あれは単に集中力が散漫になってたから起きた現象。ラジオのチャンネル合わせなかったら砂嵐しか聞こえないでしょ?


あんな感じ。私が言ってるのは暴走してた事の方よ」


「……なるほど…」


「続けるよ?この負荷って言うのは戦闘中には…まぁ発生しません。というか発生されたら色々と困るし」


「困る…?」


「じゃあ彦乃ちゃんで試そうか…起きて、彦乃ちゃーん」


 そう言って彦乃の布団を引っぺがす。

 織姫のパジャマを着た彦乃が、その中ではほとんど動けない状態で横たわっている。

 朱莉はそんな状態の彦乃を無理矢理に引っ張って起こしにかかったのだ。


「あぅ……あ、朱莉ちゃん…やめてぇ…」


「ほぉら、無理に力まないで? 楽にしてればいいんだよ?」


「んっ……あぅ……だめ…ちから……はいんないよぉ…」


「ゴクリッ…」


 どうやら織姫にスイッチが入ったようだ。

 眼の色を変えて寝起き姿の彦乃を凝視している。

 鼻息も荒くなってきた頃合いになって、操からの呆れた視線に気付いてなりを潜めたからなんとか良しとしよう。


「んぅっ…だ…だめだってばぁ……はうっ!」


「し、社長さん! そらあかんって!」


「そうですよ!周防さんやめてくださいっ!」


「……えっ、わたし…なにされちゃうの…?」


 瞼すら開けられない状態で、目の前の状況を理解しろと言われても困ってしまう。

 第一、目を開けられなければ確認にしようもない。

 そうなってしまえば、もうされるがまましか選択肢は発生しない訳で。


「ふっふーん、分かってるクセにー?」


「えっ……うしろまわって…なにするの…」


「へぇ、火傷とかはしてないみたいね。キレイな肌…アイスみたいね」


「彦乃ちゃんっ!」


 焦らすかのようにゆっくりと、彦乃の着ているパジャマのボタンが一つ一つと外されていく。

 その度に彦乃はもがこうとするも、首がちょっと動くくらいでロクに身体に力が入りそうにない。

 見えてはいないが、もがいている間にボタンは全て外されてしまったらしい。

 位置関係から考えると、これは織姫と操に思いっきり見られているだろう。


「はーい、脱がすよー?」


「ちょ…ちょっとまってぇぇ!」


 なんとか力を振り絞ってみると、不思議と身体が動いた。

 後は体格差で言えば小学生と高校生ほどの差があるのだから朱莉を振り解けばいいだけだ。

 勝負はあっと言う間に決着した。


「はぁ…はぁ…な、なにするんですかぁ…」


「やっと動けたねー。はーい、動かないでねー?見てあげるから」


「え、ちょっ…きゃっ!?」


 離れてくれたかと思いきや、今度はまだロクに動けない彦乃をベッドの上で押し倒した。

 服を掴んで胸を隠そうとする彦乃の腕を引っ手繰って両手を上に上げて交差させた形で拘束されている。

 小さな身体のどこにそんな力があるのかという程の力で握られているのか、片手で拘束されているだけにも関わらず振り解く事が出来ない。

 そのまま彦乃は、朱莉に身体を舐め回すように見られる事が確定した。


「ふんふん…あそうだ~! 二人とも、彦乃ちゃんの身体に異変が無いか見てくれる?」


「お安いごようです!」


「これは診察やから…何もいかがわしい事とちゃうから…な?」


「ふ、ふたりとも…? なんか目がマジだよ…?」


 彦乃を動かせなくしたまま、朱莉は後ろで見ているだけの二人を呼ぶ。

 織姫の方は待ってましたとばかりに彦乃に飛びつく。

 対して操の方は心の準備が整ったかと思えば、その眼は面白いおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。


「まずは足だよね…怪我してソフトボール出来なくなるのは嫌だもんね?」


「とか言いながらズボンぬがさないでぇ!」


「背中とかの辺りって案外自分で気付いてなかったりするからなぁ、彦乃! 見せてみぃ!」


「あひっ! み、操ちゃんっ?! く、くすぐったいよぉ!?」


 そこからの彦乃弄りは説明しがたいものだった。

 悶える彦乃の言葉など耳を貸さず、ただ彦乃の身を案じて潜在的な負傷が無いかを二人してじっくりと探していく。

 朱莉も加わり三人に抑え込まれた彦乃は身動きも取れず、ただその視線と手に身体を蹂躙されていった。


「……堪能しました…」


「こら織姫が彦乃に夢中なんもよー分かるわ…」


「………もうお嫁にいけない…」


「大丈夫っ! 私が琴羽家に貰ってあげるからっ!」


 数分もしない内に彦乃の診察は終わった。

 満足げな表情の織姫と操、そして生きる事に疲れたような表情のままピクリとも動けない彦乃が、ベッドの上に居た。

 朱莉はと言うと、途中から三人の様子をテーブルの方から傍観していたようだ。


「いやー、良い物見させてもらったー。カメラ持って来ておきゃよかったかな」


「…おねがい……もうやめて…」


 悪戯っぽく笑う朱莉だが、彦乃はもう満身創痍だ。

 主に精神的な意味で。


「さって、十分楽しんだし…彦乃ちゃん、診断結果聞きたい?」


「…はぇ…?……っ?!し、診断っ?! あれ診断だったのっ?!」


「あ、生き返りおった」


 身を投げ出して呆けていた彦乃だったが、正当な理由があったのだと理解すると急に調子が戻ってきた。

 ベッドから飛び起きたせいか髪がボサボサのライオンのようになっている。


「ではまず触診……二人ともどうだった? なんか固い所とかおかしい所、あった?」


「そういうのは特には。ていうか彦乃が案外筋肉質な事に今更ながらに驚いとります」


「そりゃソフトボール部の若きエースさまですからねー。あ、こっちは特に問題ありませんでした」


「ふむふむ……それじゃ、彦乃ちゃん? 壁にある世界地図、青のピンが刺さってる場所は?」


 朱莉が指差した先にあった、入り口の扉のすぐ横に張られた世界地図。

 そこには何か所かピンが差してあり、勉強の痕跡のように見受けられる。

 朱莉が指示した青のピンが刺さっているのはだいたいの位置で言えばヨーロッパのあたり。

 ロシアやアメリカであれば面積から言い当てるのは簡単だっただろうが、どうも刺さっているのは面積的には小さい場所のようで国名がやや潰れ気味でロクに確認できない。

 朱莉からしてもそれは同じなので本来なら答える事自体難しいだろう。

 日本地図で言えば瀬戸内海のどの島にピンが刺さっているのかを言い当てるような物か。


「えっと…スイスです」


「っ!……抜いてみるね……スイスだ」


「嘘やろっ?! ベッドから見えんのか?!」


「彦乃ちゃんすごーい!」


 今度はちょっとした視力検査…のはずだった。

 だが結果は朱莉も驚くほどの物だ。

 完全にピンに隠れていたドイツやフランスではなく、ピッタリとスイスだと言い当てた。

 まぁこれくらいなら地理に詳しければ答えられたかも知れないが、それにしたって的確過ぎる。

 それと同時に、朱莉はある結論に辿り着き表情が揺らぐ。


「……彦乃ちゃん、私の顔見てみ?」


「えっ? は…っっっーーーっ?!」


 朱莉の言われた通り、近づいてくる朱莉の顔を見ようとした次の瞬間、それは起こった。

 右目に激痛が走ったのだ。

 眼孔に針を捻じ込まれて、そのまま中を眼球ごとグチャグチャに掻き回されているような激痛が彦乃を襲う。

 眼球の中に小さな虫が入り込んで中を食い荒らしていくような、耐え難い苦痛だ。


「彦乃っ?! どうしたんや?! 社長さんの顔がそんな酷ぉ見えたんか?!」


「操ちゃん酷いなぁ……でも、原因は分かったよ」


 もがき苦しむ彦乃に朱莉が優しく手を当てる。


「落ち着いて。深呼吸してごらん…ほら、ひっひっふー…」


「それラマーズ法ちゃうんか…」


「ひっひっ…ふー…ひっひっ…ふー…」


「やっとるんかいな」


「彦乃ちゃんのラマーズ法…」


 しばらくこれを続けていると、徐々に痛みが引いてきたようで彦乃の様子が落ち付いて来た。

 果たしてこの呼吸法が正しかったのかは疑問だが、彦乃の状態については分かった事がある。


「眼が硬質化してるねー。さっき言った代償ってやつだよ」


「眼が硬質化?」


「代償…?」


 彦乃に起こった代償。

 それは、彼女にとっては大きな損失となってしまっていた。 つづく

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