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星にネガイを  作者: シロクロウサギ
第一章 序章
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第十二話 新設 スターライト・デルタ隊


 訓練場を出て地上階へ戻ってきた一行は、朱莉に連れられるがままに社長室へと通された。

 誰も居ないその部屋の中央に置かれた、普通の執務机であるはずのそれは朱莉が座っているからかとても大きく見える。

 そのまま通されるがままに、彦乃たちはソファへと座った。

 因みに雪菜はというと、あのまま顔を真っ青にして倒れたため救護チームがどこかへと運んで行った為ここには居ない。


「……よっしと、これで完了!」


 机に向かってペンをスラスラと走らせる朱莉の姿は、社長然としている筈なのに容姿のせいで小学生が落書きをしているようにしか見えなかった。

 まぁ、それには彼女の表情が妙にニコニコしていた事もあっての事だっただろうが。

 朱莉が持ってきたのは、何やら長ったらしく文字の書かれた一枚の書類。

 そこに三か所の記入欄が作られていて、隣には氏名の字。


「スターライト・デルタ隊の新設に関する書……新設っ?!それにデルタ隊って…」


「うん。数年前に全滅して以来の再設計になるから、サポートメンバーが揃うかどうかだけど…やるよ?社長兼幹部の権限でね」


 朱莉の言葉によれば、デルタ隊とは元々あった部隊らしく彦乃たちの加入により再構築されるようだ。

 美波が言うには一度全滅したらしいが、何があったのかは聞くべきではないだろう。

 なにせ、美波の表情が「驚いた」というよりは「信じられない」と言いたげな表情をしているのだから。


「かつてない規模を誇ったにも関わらず、その経験の浅さが仇となって瞬く間に6名全員が死亡した不名誉なチーム名を…この子たちなら汚名返上も楽々だと思うのよ!」


「だからってそんな…」


「それに、私の見立てが正しければ、この子たち三人とも最初から一級ルミナスだよ?その辺はどうなのさ、一級ルミナス候補生筆頭さん?」


 茶化すように言う朱莉だったが、その表情は真剣さを垣間見させる。

 それも理解した上で、なおも美波は朱莉へと牙をむく。


「茶化さないでください!まずは私達同様、顧問を付けて一から鍛えないとすぐ無駄死に…」


「大丈夫だよ?その辺はさ。私が付くから」


「っ!?……今なんと…?」


「だから、私がこの子たち鍛えるの。一週間足らずで一級品に仕立てて上げ…」


 余裕から来る笑みを見せる朱莉だったが、それを見ていた美波の視線は驚愕に震えた。

 こう、マンガなんかで驚いた時に瞳孔がキュッと閉まるような描写が見られるだろうが、そんな感じ。


「ふざけないでください!エレファント種にも手こずっていたのに社長の特訓なn」


「もういいよ、美波ちゃん」


「良い訳ないでしょ!あなた達はこの人の本質を知らないからそんなk」


 怒鳴り散らす美波を、彦乃が制す。

 それでも止まない美波の怒号に、彦乃は目にも止まらぬ速さで美波の額にデコピンを喰らわせた。

 ビンタでもされたかと思う程の勢いと音といきなりの出来事に美波は言葉を失い黙り込む。


「……どうかな?ちょっとは頭冷えた?」


「………痛いわよ…傷になってないでしょうね…?」


「大丈夫だよ?ほら、お菓子でも食べて落ち着こう?」


 少し赤く腫れてこそいるが、この程度なら数十分もあれば腫れも引くだろうと言う程度のものだ。

 そのまま大人しくなった美波を座らせて、テーブルに置かれた籠皿からチョコを取り出して渡す。


「…なあ織姫?」


「…なんですか?」


「……落ちたんちゃうかな?」


「…何がでs……いやいやいやいや、そんなのダメです!」


「せやかて織姫……あの顔はどーみても…」


「はい、二人ともここに名前書いて?」


 コソコソと裏で話し合っていた二人の事など気にもせず、彦乃はさっき朱莉が作った書類にもう署名を終えてしまっていた。

 操もコソコソと話すのを止めて書類を受け取って、全てを読み終わってから名前を書いて織姫に渡す。


「どれどれ………「第三種特殊社員」…ってなんですか?」


「あー、それ私も気になってた」


「あ、ウチも」


 三人が揃って気になっていたが、すぐに美波が内容に関して教えてくれた。

 要は学生業などにより会社と直接関係の無い人間を指す物なんだそうな。

 嘱託業者と言えば分かりやすいだろうか。


「なぁるほど?簡単に言うたらアルバイトみたいなモンか」


「そゆこと~。まぁ、お仕事休みたいなんて言ったりしたら何が起こるか…」


 ニヤリと笑いこそしたが、それ以上は朱莉の口から語られる事はなかった。

 というか確信犯的な所の考えもあるのだろう。

 ニヤリと笑っているというよりはニヤついているような顔になっているのだしほぼ確定だ。


「あっはは……っと、はい!書けましたよ」


「はーい、それじゃ…うん、彦乃ちゃんをリーダーとしてっと…」


「えっ……?」


 朱莉が書類に目を通し、修正個所でもあったのかペンを取り出して何かを書く。

 印か何かを付けただけなのか一瞬で終わったのだが、彼女の呟きに彦乃たち三人は驚いた。


「わ…私がリーダー…?」


「そっ。見た感じだと彦乃ちゃんが一番指揮に向いてそうだしね~。ホラ、勘の良い所あるんでしょ?それでね……突撃型なのがちょっと心配だけど…まぁ、なんとかなるでしょ!」


「どんな前向きな考え方なんですかっ?!」


 何はともあれ、ここに新たな部隊が誕生する事となった。

 彦乃を中心とした、対デブリ戦闘部隊「スターライト・デルタ隊」

 元は不名誉な部隊名だったらしいが、果たして彦乃たちはその名をどこまで輝かせる事が出来るのか。


ーーーーー


「……で…」


「帰ってきたけども……なんやのコレ…?」


「見た所、普通のスマホって感じだけど……彦乃ちゃん?」


 部隊の結成を告げられ、乗ってきたのと同じ車に乗って帰ってきた一行。

 行き道はかなり時間がかかったような気がしたのだが、帰り道はあっと言う間に到着した気がした。

 空を見れば太陽がやっと沈み切って、夜の帳が降りてき始めている頃合いだ。

 遠くからは昔懐かしのメロディと共に5:30を告げる町内放送が聞こえてきている。

 彦乃の家の隣にある公園にもそのスピーカーが設置されていて、彦乃にとってはかなり聞き慣れた町内放送だ。


「……リーダー…」


「リーダー就任おめでとう、てトコかいな?」


「操ちゃん……うん、ありがと」


 三人とも、帰る際に渡された専用のスマホを気にしていたが、どうやら普通のスマホとなんら変わりはないらしい。

 彦乃はと言えば、リーダーという立場に苦悩しているようだ。

 そんな苦悩を、操は頭を撫でて祝ってやる。

 これだけで彦乃は元気になれると、昔から知っているからだ。


「私からも、おめでとう彦乃ちゃん!」


「織姫ちゃん……うん、ありがと」


「よーっし、こうなったら今日はお祝いやからガッツリ食うでー?彦乃、織姫、何食いたい?」


 流石は年長者、引っ張っていく事に関しては操の方が一枚上手だ。

 昔からそれは変わっていないものの、彦乃が気持ちに整理を付け切れていない今だからこそ目立っているのだろう。


「えっ……?でも操ちゃんこの前サイフがピンチだって…」


「気にしたらアカン!ウチも気にせーへんから!な?」


「彦乃ちゃん、行こう!?どこがいい?彦乃ちゃんの行きたい所だったら誰も文句ないから!」


 なぜ織姫がこうまで急かすのか、彦乃にはちょっと分からなかった。

 が、元気づけてくれた二人のお蔭で彦乃もすっかり元気を取り戻しつつあった事は確かだ。


「……うーん……それじゃ…あっ、これ結局何なのかな…?」


 彦乃がふとポケットから取り出したのは、ブレスレットに提げられたアルタイルとほぼ同じ形状のキーホルダーだった。

 帰り際に、朱莉から「君達へのプレゼント」と言われて渡された物だ。

 スマホのオマケとも言っていたが何故オマケがキーホルダーなのだろうか。

 ケータイならまだしも、スマホだと引っ掛ける場所がないではないか。

 ブレスレットが細身な事もあり、フックで引っ掛けておくことが出来るようなのでこっちに付けろという事なのだろう。


「あ、彦乃ちゃんの可愛い♪」


「織姫ちゃんのは綺麗だよ!」


 織姫の方はというと、ベガとなる指輪を二段目とした土台側の指輪になっており、シリンダーのように通して二重の指輪にするようになっていた。

 色合いが銀色の本体に比べて金色に輝いている土台がなんとも目に眩しい。


「こっちはヘアピンやな……なんなんやろな、コレ?」


「うーん…パワーアップ的なアイテムとか…?」


「やとええんやけどなぁ……」


 とぼやきながら手元のヘアピンを凝視する。

 穴が開く程見つめた所で何か仕掛けが施されているような風には見えない。

 盗聴器でも仕掛けてあるのかとも思ったが、それにしては小さすぎる。

 発信器の類にしたって同じ事が言えるだろう。


「きっと良い物なんだよ……さってご飯に…っ?!」


「…彦乃ちゃん?もしかして…?」


「……うん、来るよ!」


 何かに気付いた彦乃が空を見上げてある一点を睨みつける。

 その視線の先では、徐々に空が暗くなり始めていた。

 夜の帳が降りてくるような暗さではない事は一目見れば分かる程に分かりやすい。


「んじゃ……行くか」


「行こう、彦乃ちゃん」


「うん……チーム・デルタ…だっけ?出動ー!」


ーーーーーー


『EF反応出現…っ?!数日前に現れた場所と同一ポイント上に出現した模様!』


『最寄りのスターライトは…デルタ隊…?なんですかコレっ?!』


 ここはコンペイトウの地下にある指令塔とでも呼ぶべき施設。

 モニターがあちこちでアラートやメッセージの数々を吐き出しているのを数名のオペレータが次々と処理してはメッセージの波に襲われてを繰り返していた。

 その背後には、モニター全てを見渡せる二階部分があり朱莉はそこに座っていた。


「やっぱりかぁ…なんかそんな気はしてたんだよねぇ……デルタ隊と通信は取れそう?…いや、取らなくていいや」


『はっ?!社長いま何と?!』


『デルタ隊のデータ来ました…着任が今日?!なんですかコレ!素人って事ですかっ?!そんなチームに何を期待しろって言うんですかっ?!』


 オペレータの言う事も当然と言えば当然だ。

 ろくなデータも無いのでは期待のしようも無いと言う物だが、逆に言えば全くの無能なまま死ぬなんて事にもなりかねない。

 元あったデルタ隊のような、経験が浅いばかりに全滅したのではただの二の舞だ。


「だーいじょうぶ大丈夫。あの子たちならやってくれるよ」


『っ……分かりました。社長のその顔、信じますからね?』


『了解しました……ただ、モニタリングしていて危険そうなら増援要請出しますからね?!』


「あいあーい。必要ないかもだけど青星姉妹の訓練中断、場所もそこまで遠くないし出動準備させといてー」


 こうして、彦乃たちデルタ隊のバックアップは着実に進められていく。


「……使いこなせるかな…?「シューティングスター」をさ…」


 そう誰にも聞こえない程の小さな声でつぶやく朱莉の顔は、確かに笑っていた。

 悪だくみをしているわけでも無ければ何か面白い事があるわけでも無い。

 期待をしているのだ、あの三人に。

 モニターを見ている間、その笑いは消えなかっただろう。 続く。

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