第百〇四話 スターライト大研究会 ヘレン・朱莉編
「予定としては、あとヘレンと私の説明で終わりにしようと思ってるんだけど、何か質問あるかな?」
「……」
朱莉の問いに、馬鹿正直に質問を投げかけてくる者は一人としていなかった。
ヘレンもレジーナも、朱莉の提案に反対している訳ではない。
ちょっと間を置いてから、朱莉はモニターを動かした。
「まずはヘレンから行こうかな? コンペイトウ保有スターライトの№2」
「初耳だなそりゃ」
「そりゃそうだよ。 明確な格付けはウチではやってないもん。№2っていうのも事実上はってだけだし」
スターライトの関する研究施設まであるというのに、各スターライト間での格付けを行っていないのは不思議と思われるかもしれない。
だがそれも、朱莉なりの考えがあっての事だった。
「第一に、格付けをするとそれ基準でチーム編成とかしちゃいがちだからやらない」
「普通そうするもんじゃねーのか?」
「これに関してはしない方がいいんだよね。 上の人たちや私の経験則だよ」
経験則なんて言葉が出てきて言葉が詰まるヘレンは、それ以上の事は聞かなかった。
そうして話はヘレン本人へと戻って行く。
「ヘレンの話に戻るよ? ヘレンのメテオーブ、ベテルギウスは彦乃ちゃんたちと比べて少し古い」
「確かにそうだな」
「何も古いから悪いとか弱いとかじゃないんだけどね? そうだなぁ…仮に美波のシリウスを第五世代としたら、彦乃ちゃんは第六世代、ヘレンは第四世代って事になる」
「世代?」
ざっくりとした世代ごとの説明が、朱莉によって説明される。
第五世代は「サテライトの装備数を第四世代より増設し外的サポートを受け入れやすくしたもの」
第六世代は「サテライトの装備数を極端に減らし本体出力を爆発的に向上させた諸刃の剣」
第四世代は「外的サポートであるサテライトを実験的に導入し出力の低さを補ったもの」
と朱莉は定義していた。
「ざっくりすぎるから、細かい説明はまた今度にするけどね」
「またやんのかよ」
「当たり前でしょ? 何のための会社なのさ」
「その時は私も参加しますわ」
今後の会議に海外のスターライトであるレジーナも参加してくれる事が決まった所で話はもう一度ヘレン自身についてへと戻る。
モニターに映し出されているのはヘレンのスペックグラフ。
彦乃と傾向は似通っていて、かなりの高水準だ。
「さって…レジーナ、彼女の一番の特徴って何だと思う?」
「特徴…? ルミナスの壁の事かしら?」
「まぁ、そうなるよねー」
ヘレンが戦う際に頻繁に使っているルミナスを使って生成される光の壁。
形状や模様は使用用途によって分かれているらしく、どれもが同じという訳ではないようだ。
相手の攻撃を弾いたり自らの足場とする場合、円形で文字のビッシリ書かれた魔法陣のような壁が出現する。
逆に加速させたりするときには三角形の角ばった形状の壁が出現する。
四角形はどっちにも対応できるが、どちらにも及ばないいわば万能型と言える壁だ。
「こういう風に使い分けてましたのね」
「面倒な時はだいたい四角形しか使わないけどな」
「あらどうして?」
「形成が面倒くさい」
レジーナの疑問を、ヘレンはバッサリと切り捨てて見せた。
特化した方がいいのは確かだ。
けれど彼女は、それよりも万能に扱える四角形を選ぶ。
理由は面倒くさいからなんて言ってたが、色んな事に使えるというのはつまり味方へのサポートにも回しやすい事を意味している。
「ヘレンが作るルミナスの壁、使い勝手いいもんねー」
「盾にもなるし足場にもなる、しかも応用すりゃトランポリンにもなるって寸法だ」
「トランポリン?」
年末のデブリ大掃除の時にヘレンがやっていた、ユニット破壊からの即時帰還の方法だ。
規格外も規格外のスピードで撃ち出されたヘレンたちを、そのまま元の場所へ戻させたのがこのトランポリン的使用法。
受けた衝撃をそのまま跳ね返す事で全く同じ場所へ変える事が出来たと言う訳だ。
「結構しんどいんだけどな」
「次行こう。 ヘレンの剣あるよね?」
「アメノハバキリか?アメノムラクモか?」
「ハバキリの方」
ヘレンは二振りの剣を持っているという訳ではない。
ではなぜ名前が違うのか。
アメノハバキリは通常時にヘレンが使っている細剣。
アメヌムラクモはSSモード時にヘレンが使っている細剣だ。
「まあどっちも刺す事に特化してるよね」
「斬るのには向いてないな」
「レイピアのような感じですのね」
「うんうんそんな感じ」
形状的にも、ヘレンの細剣は斬撃にはとても向いていない。
こと斬撃においては彦乃や操の方がはるかに優れた武器を持っていると言っていい。
ヘレンに出来る事は刺突による一点集中なのだから。
「盾とか持たないの?」
「邪魔。避けりゃいいだろ」
「あ、そう…」
なんともあっさりした返しだが、ヘレンにはピッタリだとも思える。
最終的な速度こそ彦乃には劣るが、ヘレンの瞬発力はその彦乃以上のすばやさを持つ。
「ムラクモの方はアレだよね、伸びる」
「伸びるっていってもたかだか刀身分くらいしか無理だけどな」
「そういやそれってなんでなの?」
「それ以上伸ばすとデブリを貫く前にムラクモが折れるんだよ」
なんと脆い剣か。
まあ細剣という構造上仕方がないのかもしれないが。
「…もういいんじゃねーの? 次行こうぜ次」
「はいはーい ヘレンの衣装ってなんというかこう…雅って言うのかな?」
「口さえ開かなければ、誰もが思い浮かぶ大和撫子って感じですのに」
「口さえは余計だろうが 私だって好きでこれを着てるわけじゃ」
「おっと、手が滑ったー」
わざとらしい口調で朱莉がモニターを動かすと、そこには数年前のヘレンの姿が写っていた。
『こ…これがヒヒイロカネ… 綺麗… 私には勿体ないくらい…』
「うわぁぁあ! やめろやめろぉ!」
「鏡の前で目を輝かせてる… 女の子ですわね」
「虎姫ヘレンはじめての変身直後だねー。 装備確認の為に試着室使わせてたのよ」
あ、当時15歳ね と朱莉が付け足した所でモニターは元へ戻る。
あまり脱線しすぎもよくない。
「忘れろ…今のは忘れろ…忘れてください…」
「効いてますわね…」
「続けていくよー…今度はSSモード行ってみよう」
モニターを動かし、今度はSSモード時のデータが表れる。
ヘレン本人は膝を抱えて黒歴史から目を背けようとしているが、その仕草すらも過去の彼女がどういった人物だったのかを漂わせる。
「武器はさっき言ってた通り、刀身が伸びるアメノムラクモに変わって衣装もスクナヒコナに変わるんだよね」
「私はあんまりSSモード好きじゃないんだけどな」
「あらどうして? すごく強化されるのに」
「強化されるのはいいんだけど、自分の中にもう一人自分が居るのを客観的に見てるみたいな感覚があって気持ち悪いんだよなぁ」
普段感じない感覚があってその違和感に苛まれていては戦いに支障が出てしまいかねない。
そういう事なのだろうが、言っているヘレン本人にも本当にそういう意味なのか分からずにいた。
今まで戦い続けてきて、何度かSSモードになった事はある。
けれどその違和感の正体は結局掴めずじまいで今まで戦っていた。
「けど壁の生成はほぼ無意識で出来るようになったんだよねー?」
「無意識っつーか、もう一人の私が傍で見て危なそうな所に壁作ったりしてくれてる…ような感じかな? まぁそんな感じだな」
「…ミサオのような感じかしら?」
「どうなんだろうな。 よっくわかんねー」
よく分からなくても使うものは使う。
そういう考え方でヘレンは今まであまり気にしたことはなかった。
違和感が気持ち悪いくらいで実害があるような感じでもないのだから、使わない手はないのだ。
まあSSモード自体が身を削るようなものだから多用は控えているが。
「SSモード時の恩恵はだいたい射程の増加とオートガードくらいかな?」
「それくらいか。 後は出力の向上とか反応速度の上昇だな」
それじゃ終わり、と言って朱莉はヘレンのデータをさっさと仕舞ってしまった。
次に引っ張り出して来たのは、朱莉自身のデータだった…のだが。
「…おい社長?」
「もうちょっと真面目に作ったらどう?」
「えっへへ…でもこうとしか書けないからしょうがないってー」
モニターに映されたデータを見てヘレンもレジーナもつっこまずにはいられなかった。
耐久力・ルミナス・攻撃力・防御力・機動力
そのいずれもがメモリを振り切っていた。
「まあ、確かに貴女のサンならそれも可能なのでしょうけれど」
「それにしたってなぁ…やっぱチートだよな」
朱莉の出来る事と言えば、敵と味方の戦力差を限りなく有利に持って行く事くらいなものだ。
そう言う意味でも彦乃と朱莉のコンビはとてつもなく凶悪だと言える。
巧妙に隠れていようと彦乃がそれを見つけ出し、見つけた以上は朱莉に敵と認識され彼女の効果の対象となる。
逆に言えば見つからなければ彼女の効果に囚われる事も無いのだろうが、彦乃のおかげで索敵はとても見つけやすくなっていた。
「いやぁ、そんなに強い強い言われると照れちゃうなー」
「褒めてるかどうかは微妙だけどな」
「反則してるようなものだものね」
まあ実際反則級な能力だろう。
敵側の攻撃は何もしなくとも効力を失うし、こちらの攻撃はそっと撫でてやるだけでも致命傷を負わせられるようなものだ。
仲間たちを限りなく有利な状況へ持って行く。
これだけならきっと司令塔としては十分な役割を果たしているのだろう。
まぁ、有利な状況どころかパワーバランスを思いっきりぶち壊している訳だが。
「ルールの決まったスポーツじゃないからね? だったら全力で勝ちに行くでしょ」
「そりゃそうだ」
「ルールが戦い方がと言っている間に命を奪われては元も子も無いものね」
結局はそういうことだ。
相手はスターライトのみならず一般の民衆をも狙っている。
EFが発生すれば耐性のない人たちからは絶え間なくエネルギーが漏れ出て行くし、それを吸い取ってデブリも強力になっていく。
そして、人のエネルギーに味を占めたデブリは人を襲い直接奪いにかかる。
そうなる前にスターライトが対処をしなくてはならないという訳でもあるが。
そこへルールだ戦い方だと持ち込むのは主義ではあっても押し付けであってはならない。
「ああ、そうそう。 私の分のSSモード解説はなしだよ」
「なんでだ?」
「そもそも無いから」
「…は?」
「確かに、使っているのを見た事がないわね」
使わないとか使えないとかそういうのではない。
そもそもソルというメテオーブにおいてSSモードは存在しないのだ。
スターライトへ変身する事そのものがSSモード化と言えば分かり易いかもしれない。
「けど、SSモードが無い分変身でかなり制約がかかってるんだよ?」
「変身するだけでも身体への負担がヤバいとかか?」
「まあそんなとこかなー? 二人には私って何歳くらいに見える?」
朱莉の問いに応えようとしてヘレンとレジーナは言葉を詰まらせる。
喉まで出かかっていた声が、質問の意味を理解した途端に引っ込んでいく。
見た目的には小学生くらいの背格好でしかない少女の姿で、彼女は一体どれだけの時を過ごしてきたのか。
低い視線から大きくなることを捨てさせられて、当時の彼女は何を思ったのだろう。
「…つまりそれって…」
「うん、彦乃ちゃんがいくつも持って行かれてるように、私も持って行かれたんだよ 【成長】を」
SSモードの反動による身体的な不調の数々、それは朱莉も持っているものだった。
だからこそ、仕組みや解決策の究明にも動いているし誰よりもメカニズムについて詳しい。
なんせ自分が実験体なのだから。
「もう慣れたけどね」
「マイペースなこった…」
「もうちょっと容姿に見合った性格なら人気者だったでしょうに」
そこからもしばらくは散々な言われようが続いていたが、だんだんと雑談へ逸れていく中で会議はいつの間にか終了していた。
時計を見ると、もう夕食間近と言った感じの時間になっていた。
「…あれ、もうこんな時間かー」
「それでは、私はこのまま帰りますね」
「私もそーすっかな… ターニャのヤツも暇してるだろうしな」
「はいはーい、それじゃ各自解散って事で」
こうして、会議に使用していたブリーフィングルームの電源は落とされた。
皆それぞれがそれぞれの場所へと帰って行く。
「……さてっと」
最後に残っていた朱莉は、ある場所へと向かう。
それは地下の研究施設でも社長室でもない。
到着したのは、普段誰も使用していない屋上だった。
「…忙しくなりそうだなぁ… うぅ、さぶっ…社長室戻ってぬくぬくしてよっと…」
屋上に来たかと思えばすぐ社長室に戻っていく朱莉は、一体何を見ていたのだろうか。
多くを晒し多くを学んだあの会議に、一体何の意味があったのか。
その真の目的を知っているのは、きっと朱莉だけなのだろう。
続く
パーソナルデータ:虎姫ヘレン・周防朱莉編
スキルについて:
各個人が持つ特殊能力に付随する効果などを現した物。
スターライトの扱う技などに関係する。
メテオーブとスターライトの組み合わせによって変化するため、同じ物はほとんどない。
虎姫ヘレン 属性:金 総合戦力:S級
耐久力:B ルミナス:A
攻撃力:S 防御力:A 機動力:S
特殊能力:加速特性 反射特性
スキル:責任感 複数操作 長の意地
周防朱莉 属性:日 総合戦力:D~特S級
耐久力:D~S ルミナス:D~S
攻撃力:D~S 防御力:D~S 機動力:D~S
特殊能力:概念特性 無効特性
スキル:数値調整 一方的 社長の威厳




