第百○一話 スターライト大研究会 彦乃編
前回、確かにセレスは会議場を後にした。
しかし会議そのものが終わったと誰が言っただろうか。
セレスに続いて壇上に立ったのは、ついさっきまで席に座って静かに話を聞いていた朱莉だった。
いつからそこに居たかって?
勿論、最初からである。
「…いやぁ、好き放題な事言ってたね」
「ヒコノの強化計画、貴女は乗り気なんですか?」
レジーナの質問はもっともだ。
いくらセレスが主導で研究や強化を行うにしたって、それを許可しゴーサインを出すのはあくまで朱莉なのだから。
もっと言えば、それを受けるかどうかは彦乃の意思という事にもなる。
「うんにゃ、私はどっちかと言えば反対派だよ」
「なんだそりゃ」
「出来る事なら戦ってすら欲しくない。けど敵はそんなのお構いなしに襲って食い散らかしてくるんだから、守るしかないよね」
敵が襲ってくるから仕方ない。
だからこそ、それらに対抗する力の強化が出来るのならそれには賛同する。
根本的には誰も戦わない事を望みながらも、皆を戦わせるしか出来ない。
それに朱莉は悩まされていた。
「そこでっ! 今からスターライト全員の能力を徹底解析していくよ!」
「つまりさっきの延長じゃねぇか」
「まずは彦乃ちゃんから行ってみよう」
「あれは前座だったと言う事かしらね」
「人の話聞けよっ!」
憤るヘレンの事などさて置いて、彦乃に関する資料が続々とモニターに現れてきた。
分析度合で言えば先程セレスが提示していた資料の方がビッシリと情報が記載されていたが、今表示されている分は、情報量こそセレスの物より多くは無いが、その分読み易い形で構成されていた。
例えば、各所を数値で記載していたセレスに比べ、朱莉の出した資料にはグラフやメモリといった分かり易いデータ表記になっている。
「分かり易いしいいでしょ?」
「そう言う問題じゃねぇっての!」
「お止めなさいな。 アカリ、続けて頂戴」
暴走気味な朱莉に付いて行けそうになかったヘレンは尚も呆れ気味に声を荒げるが、それをレジーナが止める。
彼女としても気になっていたのだ。
朱莉が、一体どんな観点から彦乃を分析していたのかを。
朱莉の能力がどんな物だったかを考慮すれば、それは猶更気になるところだ。
「はいよ。 まずはパーソナルデータから」
そう言ってモニターの一番前に出してきたのは、彦乃の変身前の状態をグラフで表した物だった。
スターライトとなって、戦闘に向いた装備と身体を手に入れる事でスペックが上がっているのだから、変身前は当然普通の人間なはずだ。
それが普通の人間であれば、の話だが。
「…そういやセレスはこっちのデータは出してなか……なぁ、これ冗談か計算違いじゃねぇの?」
「間違ってないし、そのままのはずだよー? 年末の大掃除大作戦直後の検査の時のデータだから間違いや誤差も微々たるもの」
「…かなり高い水準ね。 それこそ超人級のスペックじゃない」
体力や筋力、瞬発力と言った数値は同年代の女性平均を軽く超えている。
マラソン選手だってこの数値に追いつけるかどうかと言った高さ、と言えば分かり易いかもしれない。
「これだけのスペックを持ってるから、多分やろうと思えば重ーいバーベルとかでも持ち上げられるんじゃない?」
「あんな細い腕でかっ!? 流石に言い過ぎだろ」
「私達も筋肉質って訳ではないし、彼女も極端に細いって訳でもない。 けれどそれだけの力を秘め得るって事ね」
そう言う事だと首を振って頷く朱莉が、彦乃が素の状態でどれだけの力を持っているかを感じさせた。
「しかも驚異の回復力も持ってるし」
「凡そ人間じゃなくなって来てないか?」
多少の擦り傷なら、それこそ舐めてしまえば傷口が塞がってしまっているような回復力の持ち主、それが彦乃だ。
それに怪我をしても切り裂かれても、立ち上がって見せるだけのガッツを彼女は持っている。
たったそれだけでも素晴らしい武器になってくれる事だろう。
「まぁその分、欠点も多いんだけどさ …欠点っていうか、相転移なんだけど」
と言いつつ次にモニターへ引っ張り出したのは彦乃の受けてきた傷の数々だった。
「まずは一つ目、右目の部分的な硬質化。 ここから全てが始まったよねきっと」
「私が来る前になってたんだっけ?」
「あら、そんなに前の物なの?」
彦乃たちがコンペイトウの仕事に関わるようになってすぐの出来事だった。
メテオーブ側が設定しているリミッターを意図的に破壊し、SSモードを人為的に引き起こさせる、サテライトと呼ぶには少し乱暴なサテライトを使った事があった。
その結果、彦乃は不完全な状態でのSSモードを展開して暴走。
身を焼くような痛みを伴いながらも敵を倒して自分も倒れた。
目が醒めた時には右目が、見えてこそいるものの視界を動かすだけで目玉を刺されるような痛みに襲われる状態となってしまう。
それが一つ目の相転移だ。
「二つ目は嗅覚の喪失。 この辺で彦乃ちゃんはスターライトとはなんぞやって思い始めたんだよね」
「そんな事思ってたのか…」
「色々と背負い込む事もあるでしょう」
「そゆこと。 だからさ、レナも彦乃ちゃんの力になってあげてね」
きっと朱莉の言う「力になって」とは、彦乃のものさしで見ればすごく単純で簡単な物だろう。
ただ彦乃にとって仲間と思える存在で居る事。
たったそれだけできっと、彦乃にとってはかけがえのない力となってくれる。
「さて次が、三つ目で記憶の欠落。 部分的に言えば脳の一部の相転移だったね」
「海馬だったっけ? 昔の事をポツポツと忘れてるんだよな」
「それってだいぶ重症なのでは?」
「いや、次のがもっと重要だから」
次?と首を捻るレジーナだが、彼女の言う事ももっともだ。
記憶が無いという事を嘆く事こそあれど、鈍感に受け流す事が出来たのも彦乃の性格からだろうか。
普通なら何かを思い出せない事に強いショックを受ける者だっている。
それが普通だ。
なのに彦乃は、思い出せない事を何の苦とも思っていなかった。
いや、実際には苦しんでいただろうが、それを表にはあまり出さなかったのだ。
皆に心配をかけまいとして。
「そだねー、四つ目…ほいっと 味覚の喪失が一番キツかったんじゃないかな」
「味覚?!」
「まぁ最も、コイツは私達の予想でしかないんだけどな。 ただほぼ必中だ」
「どうしてっ?!」
「彦乃のヤツ、表に出過ぎんだよ。 隠そうとしてるんだけど顔には隠れても態度に出てんだ」
今ではすっかりその事実を受け入れていたが、発覚した当初は相当ショックだったようだ。
今にしたって、事実を受け入れてはいるものの、時折自分の味覚が無い事を悔やんでもいる。
特に美味しい物を前にした時とかは特にだ。
「犬は尻尾で語るって言うじゃない?」
「彦乃は犬じゃないでしょう」
「でもアイツ、SSモードの時はイヌミミ出るぞ?」
「あっ…」
それに犬好きだともヘレンが付け足す。
彦乃の好みは、そのまま彼女の属性へと変化していたのだ。
「まぁ、それらを抱えて生きているのが雲類鷲彦乃って人間なんだよ」
「そんな子を、まだ酷使しようと言うのでしょう?」
「酷使じゃないよ? それに、もし戦場から引かせるような事したら彦乃ちゃんはどう思うかな?」
「アイツの事だから、変に気に病むし背負いこもうとするぞきっと。 しかもレーダー型だから隠すのなんて無理だ。 ウチの索敵網とほぼ同時かそれより早くデブリを感知するんだからな」
彦乃にはそれができる、出来てしまう。
だったら、それを使って自分の出来る限りを尽くそうとする。
誰の為であれ、誰かの為になれるのであれば、自分の身を削る事も厭わない。
雲類鷲彦乃とはそういう人間なのだ。
流石にちょっと言い過ぎな気もするが、彼女の性格的にそれ以上の事だってするかも知れない。
「と、まぁ色々と過酷な物を持ってる彦乃ちゃんだけど、それだけに強い所もある」
「も、っていうか強い所だらけじゃねぇの?」
「そだね。 まずは彼女のSSモードから見て行こうか」
と言って、モニターの一番前に出されたのは彦乃のSSモード時のデータだ。
セレスの出していたデータと同じ物なはずなのに、朱莉のデータの方がいくらか見やすくなっている。
「初覚醒は暴走しちゃったけど、彼女の能力は極めて高い」
「暴走止めるのに社長が出撃したんだっけな」
「そだねー いやー、あれは大変だったよ」
なんて言う朱莉だが、実際は軽く捻るくらいのレベルで彦乃を抑え込んでいた。
その辺りは、流石スターライトの指揮をしているだけの事はあるという事か。
「SSモードに限った事じゃないけど、彦乃ちゃんの属性は火だよ」
「槍から火とか出せるもんな」
「いやアレ単なるアフターバーナーだからね? けどそれを攻撃に転用するって発想はさすが彦乃ちゃんって感じだよ」
槍で敵を突き刺し、寸前まで彦乃全体の機動力となっていた推進器を突き刺した相手に向けて炎を吐き出す事で敵を丸焼きにしてしまう。
かなりえげつない攻撃だが、槍の名前である「牛頭」らしいと言えばらしいのかもしれない。
その内装備が進化して、「馬頭」もまた攻撃に転用し出しそうだ。
「まぁその他にも、槍からビームとか撃つよね彦乃ちゃん」
「アレにゃあ驚いたな。 いきなり敵の前で何止まってるんだと思ったらルミナスが牛頭に収束し始めてドバァだからな」
彦乃によれば、スターダストプレイヤーというらしいがこれが武器名なのかどうかは彦乃自身にも分かっていない。
なんせ頭の中に名前が浮かんできたかと思ったら叫んでトリガーを弾いているらしいのだから。
これはメテオーブ側の意思が働いているからだと思われる。
「しかも大型デブリ三体を串刺しにする程度には大出力」
「三体っ?! やっぱり日本はデブリの集中度合がおかしいですね」
大型デブリとは通常、強力な分群れたりする事はあまりない、なんて研究成果が出ているのだ。
それなのに現れた集団の大型デブリ。
それだけでも驚きだというのに、それら全てを一撃で屠るだけの火力を彦乃は叩き出した。
「そっちだとあんまり聞かないもんねー」
「全くです! 何かあるんじゃなくて?!」
「どうどう、落ち着きなって」
興奮気味なレジーナを余所に、朱莉はモニターを次へ進めた。
次に出てきたのはギャラクシーモード時のデータだ。
「はいは、次行くよー? 次はコレ。 ギャラクシーモード」
「彦乃がいつの間にか入手してたモード…でしたっけ?」
「いつの間にか……まぁいつの間にかっちゃその通りか」
ネビュラデブリとの融合により入手した彦乃ならではのモード。
それがギャラクシーモードだ。
「犬塚光って子の力を借りて、その姿になるみたい」
「誰かしら?」
「彦乃の何代も前のアルタイル保有者だってさ。 なんかネビュラデブリになって彷徨ってた所を彦乃と一つになる事でデブリ部分が薄まったんだとか」
「まぁ、それらも全部彦乃ちゃんの申告なんだけどね 因みにネビュラデブリってのがコレ」
モニターに出したのは接触当初のネビュラデブリの姿だった。
明らかにデブリとは異質な、でもどこか人間のようにも見える液体状の身体を持つそれは、見ていてあまり気持ちの良いものではない。
しかも、それを彦乃は体内へ取り込んで融合したと言うのだ。
傍から聞いていても心地の良い物ではなかった。
「特徴は…まぁセレスの時に言った通りだね。 ルミナスを無尽蔵に生産と放出を繰り返してる。本当に無尽蔵かは分からないけどね」
それが最大の特徴であり長所だった。
「それが一番の心配要素でもありますけどね」
「レジーナの心配なんて無駄無駄ぁ。 彦乃ちゃんはこれからももーっと強くなる…これは私の予想だけどね」
と言うとモニターの彦乃に関する資料が仕舞われていく。
代わりに出てきたのはいくつかのファイルだった。
「さて、次は誰にしようかな…」
「なぁ社長? 全員分やるつもりか?」
「うん、そうだよ? 覚悟しといてね」
こうして、スターライトの研究会はまだまだ続く。
暫くはこういったスターライトの研究に、今しばらくお付き合いください。
続く
パーソナルデータ:雲類鷲彦乃編
資料として出されていたデータをこちらに表記しています。
ランク表記となっていますが、必ずしもそうとは限らない事を先に断っておこうと思います。
ランクはD>C>B>A>S の5段階表記となっています。それ以上もありますが特例と思って貰えれば。
雲類鷲彦乃 属性:火 総合戦力:S級
耐久力:C ルミナス:A~特S
攻撃力:S 防御力:C 機動力:S
特殊能力:飛行特性 索敵特性
スキル:超感覚 仲間思い カリスマ




