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第8話 対策

――トーナメント戦まで、あと五日。


 朝。


 俺が教室に入った瞬間――


「あいつの魔法、どう攻略する?」


「まずはあの煙を警戒しろ!」


「いや、分身のほうだ!」


「四属性全部が高出力ってことも忘れるな!」


「…………」


 俺は教室の入口で立ち止まった。


(……何の話?)


 教室の中では、何人かの生徒が紙を広げて話し合っている。


 そこには大きく、


『トリック・ワイヤー対策』


 と書かれていた。


「…………」


 俺はそっと後ろに下がった。


 帰ろうかな。


「トリック!」


 レオンに見つかった。


「おはよう!」


「お、おはよう」


「見ろよ、あれ!」


 レオンが紙を指差す。


「みんな、お前をどう攻略するか考えてるぞ!」


「……僕を?」


「そう!」


「なんで……?」


「この前の決闘だよ!」


 レオンは楽しそうに笑う。


「お前、優勝候補なんだってさ!」


「…………」


 優勝候補。


 その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ真顔になった。


(優勝すれば、母さんにもっとお金を送れる)


 そう考えると――


「……頑張らないと」


「おっ?」


 レオンが笑う。


「やる気になったな!」


 俺は拳を握った。


 目立つのは危険だ。


 でも。


 母さんのためなら。


 負けるわけにはいかない。


「トリック」


 教室の後ろから声がした。


 ルシアンだ。


「君の先日の戦いについて、いくつか質問がある」


「…………」


 嫌な予感。


「まず、あの煙」


「突然発生した」


「うん」


「魔法陣はなかった」


「……そうだね」


「…………」


「では、あれは何属性の魔法だ?」


「えっと……」


 俺は考える。


「……特殊な魔法?」


「それは答えになっていない」


「ごめん」


 ルシアンは少し考えた。


「では、分身は?」


「分身?」


「君は二人に見えた」


「あれは……」


 鏡。


 光。


 煙。


 視覚的な錯覚を使った手品。


 ……と説明できたらよかったけれど。


 でも。


 バレちゃいけないんだ。


「……幻惑系の魔法だよ」


「ふむ」


 ルシアンは納得したような、していないような顔をした。


「やはり特殊系統か」


(……よかった)


 ルシアンが勝手に解釈してくれた。


 しかし。


「もっと詳しく調べたい」


「…………」


「フフ……大会で、君の魔法をじっくり観察させてもらうよ」


「う、うん……」


「楽しみだよ、とてもね」


 ルシアンは去っていった。


 俺は小さく息を吐いた。


(……大会で何か仕掛けを見られたらまずい)


 今まで以上に注意しないと。





 その日の昼休み。


 俺たちは食堂に集まっていた。


「なあ、トリック」


 レオンがパンを頬張りながら言う。


「大会、優勝したら何もらえるんだっけ?」


「奨学金とか、生活費の支給が増えるらしい」


「へえ!」


「僕は、それが目的だから」


 俺は答えた。


「負けるわけにはいかないんだ」


「……そっか」


 レオンが笑う。


「じゃあ、応援するぞ!」


「ありがとう」


 向かいに座っていたアリシアが口を開いた。


「私も出るわ」


「そして、あなたに勝つ」


「うん」


「……」


 アリシアがじっと俺を見る。


「どうしたの?」


「あなた、本当に不思議よね」


「?」


「普段はもっと、自信がなさそうなのに」


「決闘している時のあなたは違った」


 アリシアは少し笑う。


「堂々としていた」


「……そうかな」


「ええ」


 俺は少し考える。


「手を動かしてると、集中できるからかな」


「ふうん……」


 アリシアは首を傾げる。


「やっぱり不思議な人」


「よく言われる」





 放課後。


 俺は学院の裏手へ向かった。


 周囲を確認する。


 誰もいない。


 古い倉庫。


 扉を閉める。


「……よし」


 机の上には、この前よりさらに多くの道具が並んでいた。


 俺は一つずつ確認していく。


「火」


 問題なし。


「水」


 問題なし。


「風」


 問題なし。


「土」


 問題なし。


 そして――


「最後」


 俺は一番大きな箱を開ける。


 中には、前世では作れなかったであろう装置が入っていた。


 この世界の材料。


 この世界の技術。


 そして。


 前世の手品師としての経験。


 それらを全部組み合わせて作った。


「…………」


 俺は装置を見つめる。


 大会では。


 これを使う。


 ただし――


 問題が一つ。


「これ……失敗したら、怪我じゃ済まないな」


 俺は苦笑した。


 それでも。


「やるしかない」


 俺は装置を作動させる。


 カチッ。


 静かな音。


 次の瞬間――


 倉庫の中から、巨大な光が弾けた。


 火。


 水。


 風。


 土。


 四つの現象が一瞬で重なり――


 そして消える。


「…………」


 俺は目を見開く。


 成功だ。


「……いける」


 思わず笑う。


 その笑顔は。


 学院で見せているものとは、まるで違った。


「これなら――」


 俺は装置に手を置く。


 その瞬間。


 倉庫の外から――


「……誰かいる?」


「…………っ!」


 声。


 俺は一瞬で表情を変えた。


 道具を隠す。


 箱を閉める。


 布をかぶせる。


 そして何食わぬ顔で扉を開ける。


「……アリシア?」


 そこにいたのは、やはり彼女だった。


「やっぱりあなたね」


「どうしたの?」


「帰る途中に、光が見えたの」


「……そうなんだ」


「また魔法の練習?」


「うん、魔法の練習」


「大会のため?」


「うん、大会のため」


 アリシアは倉庫の中を見る。


 しかし、何も分からない。


「……あなた、本当に努力してるのね」


「え?」


「私も負けていられない」


 アリシアは笑う。


「大会、楽しみにしてるわ」


「絶対に勝つから」


「う、うん」


 アリシアが去っていく。


 俺は扉を閉める。


「…………」


「……あと五日」


「最高の舞台にしよう」


 俺は小さく笑った。

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