第6話 トーナメント戦
翌朝。
「…………」
俺は学院の門の前で立ち尽くしていた。
昨日までは、こんなことはなかった。
普通に歩いて、普通に教室へ行けた。
なのに――。
「……あれがトリック・ワイヤー?」
「昨日、アリシア様に勝ったっていう……」
「四属性同時に使えるんだろ?」
「しかも無詠唱だって」
「すごい……」
「…………」
視線。
視線。
視線。
俺は小さく俯いた。
昨日の決闘。
どうやら、かなりの人数が見ていたらしい。
しかも、俺が使った手品は、全部「未知の魔法」として広まっている。
俺は魔法が使えない。
だからこそ、
「魔法の天才」
として注目されるのは危険だった。
「トリック~!」
聞き慣れた声。
振り返る。
レオンが走ってくる。
「おはよう!」
「おはよう、レオン」
「いやー、昨日は凄かったな!」
「……ありがとう」
「学院中、お前の話で持ちきりだぞ!」
「……そうなんだ」
「そうなんだ、じゃないって!」
レオンが笑う。
「俺なんか昨日、三人から『トリックってどんな人?』って聞かれたぞ!」
「それは……ごめん」
「なんでお前が謝るんだよ!」
俺も少し笑った。
すると。
「……おはよう」
アリシアがやってきた。
「おはよう」
「昨日のことだけど」
「うん」
「次は負けないから」
「…………」
アリシアは俺をじっと見る。
「どうしたの?」
「……なんでもないわ」
そう言って歩き出す。
「?」
俺にはよく分からなかった。
教室に入る。
やはり、視線が集まる。
「……」
俺は自分の席に座った。
すると、一人の女子生徒が近づいてきた。
「あの……トリック君」
「はい?」
「昨日の魔法……どうやったの?」
「…………」
きた。
「秘密です」
「え?」
俺は笑って誤魔化す。
「魔術師にも秘密はあるんですよ」
「……かっこいい」
「え?」
「何でもない!」
女子生徒が顔を赤くして戻っていく。
「…………」
俺は困った。
するとアリシアが、
「あなた、最近人気者ね」
「そうなのかな……」
「そうよ」
「困るな……」
「どうして?」
アリシアは少し意外そうな顔をした。
「あなたは、もっと堂々としている人だと思ってた」
「僕が?」
「ええ」
「そんなことないよ」
俺は苦笑する。
「人前に出るの、結構緊張するし」
「……昨日は?」
「昨日?」
「決闘の時」
「…………」
少し考える。
「魔法を使うときは、なんだか平気なんだ」
「…………」
アリシアがじっと俺を見る。
「……まあいいわ」
昼休み。
俺は食堂へ向かった。
学院の食堂は、かなり広い。
しかも。
「無料……?」
壁に貼られた案内を見て、俺は目を疑った。
成績上位者には食費補助あり。
「…………」
俺は現在、暫定ランキング上位。
つまり――。
「食事代……かなり浮く」
思わず呟く。
「何か嬉しいことでもあった?」
レオンが横から覗き込む。
「うん」
俺は紙を見せる。
「成績が良ければ、食費も補助されるみたい」
「へえ!」
「これなら……」
俺はそこで言葉を止めた。
頭に浮かんだのは――
母さんの顔。
古い家。
少しずつ減っていく食料。
いつも俺に、
「大丈夫よ」
と言って笑っていた母。
でも。
本当は大丈夫じゃなかったはずだ。
「……これなら」
俺はもう一度紙を見る。
レオンが黙った。
アリシアもこちらを見ている。
俺は小さく笑った。
「……頑張らないと」
その言葉に。
アリシアは何も言わなかった。
放課後。
俺は学院の掲示板を見ていた。
『学院成績ランキング一年生・暫定』
一位――アリシア・グランベル。
二位――トリック・ワイヤー。
三位――ルシアン・ヴァルガス。
四位――グレン・ウォーター。
「…………」
俺は少し驚いた。
「二位……」
アリシアが隣に立つ。
「悔しい?」
「え?」
「私が一位だから」
アリシアは嬉しそうにしている。
俺は笑った。
「次は一位になれるように頑張るよ」
「……!」
アリシアが少し目を見開いた。
「あなた……」
アリシアは笑った。
「だったら、私も負けてられないわ」
「うん」
二人でランキングを見る。
その横で。
「…………」
ルシアンが黙っていた。
彼はランキングではなく、トリックを見ていた。
「……四属性」
小さく呟く。
「無詠唱。
魔法陣なし。
そして魔力反応の少なさ……」
ルシアンは目を細める。
「やはり、何か秘密がある」
「絶対に解明してみせる」
その日の夜。
俺は寮の部屋で、一通の封筒を取り出した。
中には、学院から支給された最初の生活費。
「…………」
俺はそれを見つめる。
そして。
自分の財布から少しだけお金を足した。
「これで……」
明日、母さんに送ろう。
少しだけ。
本当に少しだけだけど。
母さんの負担を減らせるはずだ。
俺はベッドに座り、窓の外を見る。
月が綺麗だった。
「……母さん」
小さく呟く。
「俺、ちゃんとやれてるよ」
そして。
自分でも気づかないうちに笑っていた。
魔力はない。
魔法も使えない。
それでも。
俺には――
手品がある。
そして。
手品で、どこまで行けるのか。
少しだけ。
楽しみになってきた――
翌朝。
学院掲示板に、新しい張り紙が出ていた。
『一週間後、学年別魔法トーナメント戦を開催する』
その下には、大きくこう書かれている。
優勝者――特別奨学金および生活費の追加支給。
「…………」
俺は張り紙を見つめた。
その隣でアリシアが笑う。
「トリック」
「今度こそ――」
彼女は拳を握った。
「私が勝つわ」
俺も笑った。
「じゃあ、僕も負けない」
こうして。
トリックの学院生活に――
新たな目標が生まれた。
好評だったら更新早めます




