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第5話 真剣勝負

――放課後。


 学院の訓練場には、普段より多くの生徒が集まっていた。


「ここで勝負するんだって?」


「アリシア様とトリックだって」


「入学早々喧嘩って……」


「謎の魔術師と、学院でも有名なアリシア様が?」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。


 俺は訓練場の中央に立っていた。


「…………」


 緊張する。


 決闘なんて、前世でもしたことがない。


 手品の舞台なら何度も立った。


 何百人、何千人の前でも平気だった。


 でも――


 これは本物の魔法を使った戦いだ。


 失敗すれば、怪我をするかもしれない。


 だけど。

 

 あんなにまっすぐお願いされたら、断れるわけがなかった。


「緊張してるの?」


 向かい側からアリシアが声をかけてくる。


「……少し」


「意外ね」


「もっと余裕なのかと思ってたわ」


「でも、私も緊張してる」


「え?」


「あなたと戦えるんだもの」


 その顔には、昨日とは違うものがあった。


 真剣だった。


「私は魔術師になるために、ずっと努力してきた」


「だから――」


 アリシアが杖を構える。


「簡単には負けないわ」

 

 アリシアは生半可な気持ちじゃないんだ。


 だったら、少しでも。

 

 その期待に応えなきゃ。


 俺も頷いた。


「……僕も、頑張るよ」


「その言い方、ちょっと腹が立つわね」


「え?」


「まあいいわ」


 審判役のレオンが二人の間に立つ。


「ルールは単純!相手を降参させる、もしくは場外で勝利」


「魔法の使用は自由。ただし、殺傷目的の魔法は禁止!」


 レオンが手を上げる。


「――始め!」


 先に動いたのはアリシアだった。


「我が敵を穿て――《火弾(ファイヤボール)》!」


 炎の塊が飛んでくる。


「!」


 俺は横へ飛んだ。


 ドンッ!


 背後の地面が爆ぜる。


(速い……!)


 昨日の授業でも魔法を見た。


 でも、実戦では全然違う。


 アリシアは次々と魔法を放つ。


「うわっ!」


 俺は必死に避ける。


 右。


 左。


 後ろ。


 地面を転がる。


 ギリギリでかわす。


「どうしたの!」


 アリシアが叫ぶ。


「どうして避けてばかりなの!?」


 アリシアが強いのは知っている。


 ――でも今の攻撃で分かった。


 ただの魔力のゴリ押しじゃない。


 相手の動きを読んでいる。


 俺が避けた先に、次の魔法を置いてくる。


(この子……かなり努力してる)


 だからこそ。


 俺は笑った。


「……なるほど」


「何がおかしいの?」


「いや」


 俺は立ち上がる。


「アリシアって、強いんだな」


「……!」


 アリシアの目が少し見開かれた。


「だったら――」


 アリシアが杖を掲げる。


「もっと見せてあげる!」


 巨大な魔法陣が展開された。


「炎よ、目覚めろ。

 焔を集め、力を成せ。

 我が敵を貫け――炎槍(フレイムランス)!」


 巨大な炎の槍が生まれる。


「…………」


「ちょ、ちょっとぉ!?アリシアさん!?」


 レオンが叫ぶ。


 これは避けられない。


 俺はポケットに手を入れた。


 取り出したのは――


 一枚のコイン。


 俺はコインを指で弾いた。


「――さて」


 コインが宙を舞う。


「?」


 アリシアが目で追う。


 コインが光を反射する。


 一瞬。


 彼女の視界が白く染まった。


「……っ!」


 その隙に。


 俺は横へ移動した。


 炎の槍が俺のいた場所を貫く。


 ドォォォン!!


「…………!」


 観客がざわめく。


「今、何をした?」


「コインが光ったぞ!」


「幻惑魔法か!?」


 違う。


 ただの反射だ。


 でも。


 手品師にとって、


 観客の視線を一瞬でも奪うことは、大きな武器になる。


 俺は指を鳴らす。


 パチン。


 アリシアの足元から――


 煙が噴き出した。


「なっ!?」


 白い煙が広がる。


「どこ!?」


 アリシアが周囲を見る。


 俺は煙の中を移動する。


 足音を消す。


 そして――


「ここだよ」


「!」


 アリシアは振り向いた。


「――そこ!」


「!」


 俺は飛び退く。


 杖が服をかすめる。


「危な……!」


 アリシアが笑った。


「捕まえたと思った?」


「……あなたの魔法は、確かに凄い」


 アリシアが杖を構える。


「でも、私だって負けてない!」


 再び魔法陣。


 炎と風が重なる。


 巨大な炎の竜巻。


「炎よ、目覚めろ。風よ、集え。

 焔を集め、嵐となりて、暴れたまえ。

 我が目前に舞い上がれ――炎嵐(フレイムテンペスト)!」


 轟音。


 炎の竜巻がこちらにせまる。


「…………!」


 俺は目を見開いた。


(これ……ヤバいな)


 逃げる場所がない。


 だったら。


 真正面から行くしかない。


 俺はポケットから小さな金属球を取り出した。


「……いくよ」


 金属球を投げる。


 炎の竜巻へ。


「そんなもので――!」


 アリシアが言いかけた瞬間。


 パァン!!


 金属球が弾けた。


 大量の白煙。


 視界が消える。


「えっ!?」


 炎の竜巻が煙に包まれる。


 そして。


 俺は煙の中から飛び出した。


「――そこ!」


 アリシアがふたたび反応する。


 だが。


 俺の姿が――


 二つに分かれた。


「…………!?」


 右にも俺。


 左にも俺。


「分身……!?」


 アリシアが迷う。


 俺は笑った。


「どっちでしょう?」


「……!」


 アリシアが右へ魔法を放つ。


 ――外れ。


「こっちだよ」


「しまっ――」


 俺は彼女をそのまま場外へ落とした。


「……そこまで!」


 レオンの声が響く。


 静寂。


 そして――


「勝者、トリック・ワイヤー!」


 歓声が上がった。


「うおおおお!」


「またあいつだ!」


「アリシア様が負けた!」


「何なんだあの魔法!」


 俺は息を吐いた。


「…………」


 アリシアは黙っている。


「アリシア……?」


 彼女が顔を上げた。


「……負けた」


「悔しい」


 拳を握る。


「でも……楽しかった」


「え?」


「あなたと戦うの」


 アリシアが笑った。


「すごく楽しかったわ」


 そして。


 俺をまっすぐ見る。


「次は絶対に勝つんだから」


 俺は笑った。


「うん」


「……何よ」


「楽しみにしてる」


「…………」


 アリシアは少しだけ目を逸らした。


「……そう」


 その耳が、ほんの少し赤くなっていた。


 トリック・ワイヤーとアリシア・グランベル。


 二人の長い物語の――


 最初の一歩だった。


「アリシア!殺傷目的の魔法はダメだって言ったよね!?」


「あれは明らかにやりすぎ!」


 レオンが迫る。


 アリシアはもじもじしながら――


「相手はトリックだし大丈夫だと思って……」


「言い訳しない!」


「……ごめんなさい」


 俺はそんな二人を見ながら、静かに笑った。

好評だったら更新早めます

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