第2話 未知の魔術師
――王立フロージア魔法学院。
それは、国内でもっとも優秀な魔術師を育てるための学院だ。
貴族の子供。
裕福な商人の子供。
地方の名家。
そして、平民の中から選ばれた才能ある者。
様々な人間が、この学院に集まっている。
そんな学院の入学試験会場で――
俺は、ものすごく居心地が悪かった。
「…………」
周囲から視線を感じる。
いや。
正確には、さっきからずっと見られている。
「ねえ、あの人じゃない?」
「魔力測定で測定不能だったっていう……」
「そうそう」
「属性も判定不能だったらしいよ」
「一体どれだけの魔力量なんだ?」
――俺は心の中で頭を抱えた。
(なんでこんなに話が広まってるんだ……)
ついさっきまで、俺はただの受験生だった。
何事もなく合格できればそれでいい。
なのに。
水晶玉にちょっとした細工をしただけで、この有様だ。
――いや。
ちょっとした細工、ではないか。
前世で培った技術のすべてを使った。
水晶玉の内部構造を観察し、光の反射を利用して測定結果に干渉させる。
普通なら、そんなことを思いつく人間はいないだろう。
だが、俺にとっては手品の延長だ。
問題は――
(……まさか、こんなに騒ぎになるとは)
試験官たちが何やら話し合っている。
俺は少し離れたところで待機していた。
すると。
「トリック・ワイヤー」
「はい?」
試験官の一人が俺を呼んだ。
「君の測定結果について、学院側で協議した」
「…………」
嫌な予感しかしない。
試験官は真剣な顔で言った。
「君の測定結果は――非常に興味深い」
「……はあ」
「よって、第二次試験への参加を認める」
「……え?」
思わず聞き返した。
「いいんですか?」
「もちろんだ」
試験官は頷く。
「水晶玉でも測定ができないほどの魔力の持ち主を、ここでにがわけにはいかない」
「…………」
(本当は、魔力ないんだけど……)
しかし、そんなことは言えない。
「分かりました」
俺は頭を下げた。
「ありがとうございます」
こうして俺は――
第二次試験へ進むことになった。
第二次試験。
内容は、魔法実技だった。
受験生たちが広い訓練場に集められる。
中央には標的が並んでいる。
試験官が説明する。
「これより実技試験を行う!」
「受験生は一人ずつ前へ出て、標的に対して魔法を一つ使用せよ!」
周囲の受験生たちが魔法を準備する。
俺は額に手を当てた。
(……魔法を一つ、か)
当然、使えない。
魔力が無いんだから。
つまり。
ここでも手品を使うしかない。
「次!」
受験生が前に出る。
「炎よ、目覚めろ。
焔を集め、力を成せ。
我が敵を穿て――
火球!」
ボッ!
巨大な炎が標的に直撃する。
「78点!」
「おお!」
次。
「風よ、集え。
刃となりて、突き進め。
我が道を拓け――
風刃!」
ヒュンッ!
標的が真っ二つになる。
「85点!」
さらに次。
「雫よ、煌めけ。
清き水よ、我が意に従え。
彼方に放て――
水弾!」
ズドン!
「91点!」
……みんな凄い。
俺は素直に感心していた。
そして。
「次、トリック・ワイヤー」
呼ばれた。
「……はい」
俺は訓練場の中央へ歩いていく。
標的までの距離。
風向き。
観客の位置。
試験官の立ち位置。
全部を見る。
そして。
ポケットに手を入れた。
取り出したのは――
一枚のカード。
「…………」
試験官が眉をひそめる。
「それは……?」
「魔法の媒体です」
嘘ではない。
少なくとも俺にとっては。
カードを指の間に挟む。
深呼吸。
そして。
前世の舞台で何度も繰り返した動作をする。
「――よくご覧ください」
声が変わった。
普段の自信のない声ではない。
落ち着いている。
静かで。
観客の視線を自然に引きつける声。
俺はカードを投げた。
ひらり。
カードが宙を舞う。
「…………?」
受験生たちがカードを目で追う。
その瞬間。
俺は指を鳴らした。
パチン。
カードが――
消えた。
「…………!」
観客がざわめく。
しかし、それだけでは終わらない。
俺は標的を見る。
そして。
「――そこ」
指を向ける。
標的の中心に、
カードが突き刺さっていた。
しかも。
標的の中心には小さな炎が灯っている。
「…………」
静寂。
試験官が口を開けたまま固まる。
「……いつの間に……?」
誰にも分からない。
俺は小さく息を吐いた。
成功。
「す、すごい……」
「何の魔法だ?」
「無詠唱?」
「術式が見えなかったぞ……」
周囲が騒ぎ始める。
(まずい……また騒ぎになってる……)
試験官が標的を調べる。
「火属性……?」
「そんな馬鹿な」
「だが、確かに炎が発生した」
俺は黙っていた。
すると。
「トリック・ワイヤー」
「はい」
「君は……一体何者なんだ?」
「…………」
俺は少し考えた。
そして。
「……ただの魔術師です」
そう答えた。
――それから筆記試験も終わり、数日後。
学院の掲示板に合格者一覧が貼り出されていた。
人だかりができている。
俺も掲示板を覗く。
自分の名前を探す。
そして。
「……あった」
トリック・ワイヤー
合格。
「…………」
胸の奥が熱くなる。
合格した。
これで。
これで――
(母さんに、楽をさせてあげられるかもしれない)
思わず笑みがこぼれた。
「……よかった」
その時だった。
「あなたが、トリック・ワイヤー?」
後ろから声がした。
「……?」
振り返る。
そこにいたのは、一人の少女。
長い髪。
整った顔立ち。
そして、堂々とした立ち姿。
胸元には、名門魔術師の家系であることを示す紋章。
少女は俺をまっすぐ見ていた。
「私は――」
彼女は名乗る。
「アリシア・グランベル」
そして。
少しだけ目を細めた。
彼女は続ける。
「私、あなたに負けるつもりないから。」
「…………」
俺は思った。
(……どゆこと?)
これが。
俺とアリシアの――
最初の出会いだった。
好評だったら更新早めます




