第13話 準決勝
大会は順調に進み、ついに準決勝。
観客席には、これまで以上に多くの人たちが集まっていた。
「次の試合、トリックとレオンだってよ!」
「マジかよ!」
「レオンが準決勝!?」
ざわざわと広がる声。
闘技場の中央では、二人の少年が向かい合っていた。
トリック・ワイヤー。
そして――
レオン・ハート。
「……まさか、お前と当たるとはな!」
レオンが笑う。
いつもの明るい笑顔。
しかし、その目だけは真剣だった。
「うん。僕も驚いたよ」
「まさか僕たちの知らないところで勝ち進んでいたなんて」
トリックも静かに答える。
レオンは笑った。
「だろ?頑張ったんだぜ?」
レオンは拳を握った。
「でもよ……」
一歩前へ出る。
「友達だからって、負けてやるつもりはないからな!」
「……うん」
トリックも小さく笑った。
「僕もそのつもり」
その瞬間。
審判が手を上げる。
「両者、構え!」
二人が距離を取った。
観客席が静まり返る。
そして――
「試合開始!」
先に動いたのはレオンだった。
地面を蹴る。
一気に距離を詰める。
「速い!」
トリックの目が見開かれる。
レオンはそのまま真正面から攻撃を繰り出した。
「いくぞ!」
「――《土拳》!」
トリックは横へ跳ぶ。
ドンッ!
拳が地面を叩いた。
「危なっ……!」
(やっぱりレオン、強い……!)
レオンは笑った。
「逃がすか!」
追撃。
右。
左。
さらに踏み込み。
トリックは紙一重でかわし続ける。
「すげえ!」
「トリックが押されてる!?」
「レオン、あんなに強かったのか!」
観客が沸く。
トリックは距離を取った。
(真正面からやったら厳しいな……)
そして――
懐から小さな球を取り出した。
レオンが目を細める。
「来るか……!」
トリックの手元から――
白い煙が広がった。
「出た!」
闘技場が一瞬で煙に包まれる。
「見えねえ!」
「また煙の魔法だ!」
レオンも視界を奪われる。
だが――
「そこだ!」
レオンが踏み込んだ。
ズドン!
何かを殴り飛ばした。
「やったか!?」
煙が晴れる。
そこにいたのは――
トリック。
ではなく。
黒いローブを被せられた木製の人形だった。
「……は?」
レオンが固まる。
観客席も沈黙。
トリックは少し離れた場所に立っていた。
「……危なかった」
(よし。身代わりは成功)
「いつの間に!?」
レオンが叫ぶ。
トリックは答えない。
そのまま指を鳴らす。
パチン。
「――っ!」
レオンの足元から、突然炎が噴き上がった。
「うわっ!?」
炎の中から、無数の光が飛び出す。
まるで小さな星のように空中を舞う。
「何だあれ!?」
「光の魔法!?」
「いや、炎か!?」
レオンが腕で顔を庇う。
その隙に――
トリックが背後へ回り込む。
レオンが振り返る。
「そこだ!」
「うおっ!?」
しかしトリックはさらに後ろへ。
「逃がすか!」
レオンが追う。
しかし――
「……あれ?」
レオンが止まった。
目の前にトリックが三人いる。
「分身……!?」
観客席がどよめいた。
「三人いるぞ!」
「また来たか幻影魔法!」
「どうなってるんだ!?」
三人のトリックが同時に動く。
右。
左。
中央。
レオンが拳を構える。
「どれが本物だ……!」
三人が一斉に笑った。
「……!」
レオンが目を閉じる。
「見えなくても――」
拳を握る。
「関係ねえ!」
「――《稲妻》!」
ドンッ!
衝撃。
三人の幻影が一気に消えた。
「うおおおっ!」
観客が沸く。
レオンは笑っていた。
「俺は、お前の魔法を見てきたんだ!」
トリックの表情が変わる。
「……!」
「何回も何回も見てきた!」
レオンが走る。
「だから――」
拳を振り抜く。
「次に何をするか、少しは分かるぜ!」
トリックはギリギリでかわす。
頬を風圧が掠めた。
(……やっぱり)
(レオンは強い)
そして同時に――
少し嬉しかった。
自分の手品を真正面から攻略しようとしている。
「だったら……」
トリックは懐から最後の道具を取り出した。
レオンが身構える。
「来い!」
トリックは――
ニヤリと笑った。
その表情は、普段の彼からは想像できないほど堂々としていた。
「――チェックメイトだ」
パチン。
指を鳴らす。
瞬間。
闘技場の四方から大量の煙が噴き出した。
「なっ!?」
レオンの視界が完全に白く染まる。
「また煙か!」
しかし。
今回は違った。
煙の中で――
トリックの姿が無数に浮かび上がる。
十人。
二十人。
三十人。
「な……!」
レオンが息を呑む。
「なんだよ、これ……!」
観客席からも悲鳴に近い歓声が上がった。
「何十人もいるぞ!」
「無詠唱であんなにたくさんの幻影を!?」
「こんな魔法、見たことない!」
トリックはその中の一人。
静かにレオンへ近づく。
「レオン」
「……!」
「君が僕の魔法を見てきたっていうんなら――」
トリックが手を伸ばす。
「最後まで見ててね」
「……!」
レオンが拳を振る。
しかし――
空を切った。
トリックはすでに別の場所にいる。
さらに拳。
空振り。
もう一度。
空振り。
そして――
トリックが、レオンを場外へと押した。
「……!」
審判が叫ぶ。
「勝負あり!」
歓声が爆発した。
「トリック・ワイヤー、勝利!」
「うおおおおおおお!」
「何だ今の魔法!」
「でもレオンも凄かった!」
レオンはしばらく立ち尽くしていた。
そして――
「……負けたか」
悔しそうに笑う。
トリックが近づく。
「ありがとう、レオン」
レオンは笑った。
「負けたけどよぉ」
「むしろ嬉しいぜ」
「え?」
「お前、俺相手に手加減しなかっただろ?」
「……うん」
「なら十分だ!」
「次こそは勝つからな!」
笑顔で拳を差し出す。
トリックは一瞬だけ驚いて――
その拳に自分の拳を合わせた。
「……うん。ドンと来い」
そして。
もう一つの準決勝。
アリシア・グランベル。
対するは――
ルシアン・ヴァルガス。
二人が向かい合っていた。
「アリシア」
ルシアンが眼鏡を押し上げる。
「君の魔法は非常に強力だ」
「当然でしょ」
アリシアは杖を構える。
「だからこそ、分析させてもらったよ」
ルシアンの目が鋭くなる。
「君の炎は、風によって速度と軌道を変化させている」
「……」
「ならば、そこを崩せばいい」
アリシアが笑った。
「やってみれば?」
「もちろん」
開始の合図。
瞬間――
炎が走った。
「――《火炎弾》!」
巨大な火球が飛ぶ。
ルシアンは横へ跳ぶ。
「予想通りさ!」
「まだよ!」
アリシアが杖を振る。
風が吹き荒れた。
火球の軌道が突然変わる。
「なに!?」
火球が横からルシアンへ迫る。
「くっ!」
防御魔法。
「――《氷壁》!」
ドォン!
爆炎。
観客席が沸く。
「アリシア様の火力すげえ!」
「ルシアン、防げるのか!?」
しかし。
煙の中からルシアンが現れた。
「……なるほど」
アリシアの目が細くなる。
「まだ余裕そうね」
ルシアンは静かに答えた。
「今、確信した」
「何を?」
「君には――」
ルシアンが杖を構える。
「小細工なんかしても勝てないようだ」
「……!」
「ならば、こちらも真正面から行かせてもらう!」
アリシアの口元が上がった。
「面白いじゃない」
二人の魔法が激突する。
炎。
風。
水。
防御。
そして――
その戦いを、観客席からトリックが見ていた。
「……」
レオンも隣で見る。
「すげえな、あいつら」
「うん」
トリックは目を離せなかった。
アリシアの炎が、風を纏ってさらに加速する。
「……」
レオンがニヤッとする。
「お前、あいつと戦うの楽しみなんじゃねえか?」
「え?」
「いや、なんでもねえ!」
そして――
闘技場では、アリシアとルシアンの戦いが最終局面へ入っていた。
炎と風が渦巻く。
ルシアンが最後の防御を展開する。
アリシアが杖を掲げる。
「――これで終わり!」
轟音。
巨大な炎が闘技場を包み込んだ。
そして。
炎が消えた時。
立っていたのは――
「……私の勝ちね」
審判が宣言する。
「勝者、アリシア・グランベル!」
歓声。
アリシアはトリックのいる観客席を見る。
目が合う。
ほんの一瞬。
二人とも何も言わない。
けれど――
アリシアは小さく笑った。
トリックも、静かに笑い返した。
決勝戦。
残ったのは――
トリック・ワイヤー。
そして――
アリシア・グランベル。
二人の視線が交差する。
「……次は、あなたね」
アリシアが呟いた。
トリックは静かに頷く。
「うん」
そして心の中で思った。
(……最高の舞台になりそうだ)
一年生トーナメント、決勝。
手品師と炎の魔術師。
二人の戦いが、始まろうとしていた。
好評だったら更新早めます




